第一章 第一話

残り一週間を切った春休み一日目。

私は生徒会の手伝いで生徒会室に生徒会長である里見先輩と役員の来原先輩と一緒にいた。

休む日のない作業を午前の時からずっとしていて一度お昼の休憩を挟んだけど、正直疲れた。

そろそろ休憩が欲しいところ…。

「カレラ少し休憩にしない?ボク疲れちゃったよ」

「そうね。2人ともよく働いてくれたし、そうしましょう」

(ナイス来原先輩!)と内心つぶやく。

来原先輩とは初めての共同作業で私なんかよりずっと効率的かつ的確に仕事をこなしている。

それに髪の毛もピンク色となんとも言えない可愛さを秘めているから少し癒される。

逆に里見先輩はナイスボディですらっとしているので気が引き締まる。

「はいユンちゃん、この紅茶飲めるわよね?」

「はい、ありがとうございます。先日いただいたものもとても美味しかったです!」

「それはよかったわ。また手に入ったら是非一緒に飲みましょう」

「はい!」

里見先輩が渡してきた紅茶を飲むとこの前飲んだのとは違う。

香りが強くなくて、それでもしっかりと味のあるものだった。

「これも美味しいです」

「ダージリンだよ。ボクもそれ好きなんだ」

「ダージリン…先輩詳しいんですか?」

「詳しいほどでもないけど、カレラの紅茶は美味しいから大体覚えてるよ」

「すごい…」

紅茶の名前を覚えてるなんて、大変だろうけどカッコいい。

「水菜も同じもの」

「ありがとうカレラ」

来原先輩が里見先輩からカップを受け取る。

「美味しい。お菓子出してもいい?」

「ええ。ユンちゃん後ろの棚を開けて見て」

「はい」

言われた通りに棚を開けるとそこにはクッキーやビスケットが描かれていた缶があった。

「これでいいですか?」

「やった、クッキーだ」

来原先輩が飛びつくように一枚もらっていく。

「先輩お昼食べたのに、躊躇がないですね」

「だってこのクッキー美味しいんだもん。ユンさんも早めに食べといた方がいいよ。カレラが全部食べちゃうから」

「水菜!」

里見先輩が赤くなって怒る。

「あはは。そんな怒らなくても…」

「怒るに決まってるでしょ。私は水菜ほど食べないし…ユンちゃん本当よ?」

「あははは…。里見先輩も気にせず食べてください。私はどちらかと言うと食べる方なので、気にしませんよ」

「そう?それならもう一枚頂こうかしら…。でも本当に食いしん坊じゃ無いからね」

「誰も食いしん坊とは言ってないよカレラ。ただ食い意地が張ってると言いたい…すみません」

里見先輩の睨みで来原先輩が黙ってしまう。

「2人は仲良しですね」

「でしょ?!ボクとカレラは幼い頃からの繋がりだからねー。それなりに色々ことしてるよ」

「色々なこと…?」

私の頭に禁制がつきそうな映像が流れる。

「・・・応援してます」

「ユンちゃん!?別に水菜とはそう言う関係じゃないわよ。それにただ親同士の仲が良かっただけだから」

「そうですか。なんか残念ですけど、いいですね幼馴染って」

「うんうん。それにカレラは綺麗だし、ボクも生まれた時の運が良かったんだって自覚してる」

来原先輩が自信をもって頷いている。

その行動に里見先輩も頬を赤くして嬉しそうだった。

「そういうユンさんもボクにとってのカレラのような人いるでしょ?」

紅茶を一口飲んだ来原先輩が聞いてくる。

「いるにはいますけど、一つ年上の先輩です。それでもお二人のように長い付き合いでは無いですけど…。それでも先輩は私にとって大切な人です」

「へー。因みに名前は?」

「金納ルカ先輩です。頭も良くて運動も出来るんですが、何故か留年しちゃって。お二人とも何か知ってますか?」

「ルカなら友達だけど、理由は聞いたことないな。ね、カレラ?」

「え、ええ。それに私は今疎遠で…」

「え?先輩何か失礼を…!?ちゅ、注意しときます!」

「だ、大丈夫だから。ユンちゃんには関係ないことよ…」

「そ、そうですか…」

里見先輩が俯く。

机の下に視線をやって考え事をしているようだった。

二人の間に何があったかは気になるけど、関係ないと言われたら無理に聞くのは失礼だと思った。

「それじゃあ休憩もしたし、そろそろ続きやりましょうか」

「はい」

「ええーもうちょっと話そうよー。ユンさんの恋バナも聞きたいなぁ」

「あ、ありませんよ!」

ちょうど頭に先輩のことが思い浮かんでいたから慌てて否定する。

「水菜、ユンちゃんが困ってるでしょ?ほら、これ職員室持って行って」

「え、ええー!?これめちゃくちゃ重そうじゃん!力仕事はカレラの仕事のはずじゃ…」

「悪いけど私他にやることがあるの」

「くぅ〜。行ってきまーす」

「が、頑張ってください…」

段ボール二箱、プリントがびっしりと詰められたものを持って行った。

「ごめんねユンちゃん…。水菜よく人が困ることすぐ言うから…」

「大丈夫です!それに私も話せて嬉しいですし。里見先輩とも話してて楽しいです。私同じ学年には友達が少ないので…」

「そうなの?ユンちゃん周りの気遣いが出来る子だからてっきり友達がたくさんいるのかと思っていたわ」

「いえいえ。里見先輩ほどじゃ…。私もみんなから慕われる人になりたいです」

「・・・そうね。でも私が友達と言える人物は少ないと思うの。ユンちゃんが言った通り私はみんなから慕われている。でもそれは生徒会長としてだから。私が友達と言える人はもしかしたら二人ぐらいなのかも」

「そう…ですか。すみません思わず…」

「いいの。ユンちゃん友達は作っておいた方がいいわよ。私も彼女たちには支えられてると自覚してるから」

「来原先輩優しいですもんね」

「ええ。水菜は私の友達」

「もう一人は誰ですか?」

「・・・秘密」

そう言った先輩の瞳は生徒会室の景色を見ているようではまるでなかった。

どこか、誰かに気づいてもらえるよう遠くを覗いていた。

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