雪合戦
「雪合戦しよー!!」
紫呉はバンっと机を叩きながら言い放った。
事務所にいた獅波以外のメンバーは『はぁ?』という顔をして紫呉を見る。
「紫呉…。こんなに寒い中外で遊んだりしたら風邪をひいてしまいますよ」
「遊ぶのは楽しそうですけど、叶愛は寒いの嫌です!」
「なんで!冬に引き篭って、春なってから動けなくなるよ〜?!」
宇佐美と叶愛に反対された紫呉は子供のように辺りを暴れ回る。
「まぁ、それも一理あるし良いんじゃないか?」
「雪合戦とか久しぶりだわ、てか組長1回言い出したら止まらんやろ」
「…俺はどちらでも」
伊吹、慶、恵は2人とは逆に紫呉の意見…我儘に賛成してくれた。
「んじゃ、多数決でやりたい派の勝ちね〜!早く外行こ!」
宇佐美は溜息をつきながら「はいはい、分かりましたよ…」と玄関へ向かう。
叶愛も紫呉の性格を出会った時から"こういう奴"と分かっていたので、諦めて動き出した。
「えー、ではこれからチーム分けを…」
先程までやる気の無かった宇佐美のはずだが、司会者のように進行を始める。
「ちょっと待ってや、まずは投げる練習してからの方が良いやろ」
「確かに…その方が実力を出し切れるかもしれませんね、そうしましょう!」
宇佐美がそう言って、慶は雪を集めると丸めて固くし、勢い良く投げた。
「お、結構飛んだんちゃう…?!」
慶が喜んだのもつかの間、丁度外から帰って来た獅波に一直線で飛んで行く。
そして獅波の肩に当たった。
「「あ」」
一方は蒼白した顔で、もう一方は面白がった顔で一同声を出した。
「うわっ…やべ」
当てた本人の慶は一層顔を強ばらせる。
「…おい、誰だ」
完全に怒っている獅波は普段より低い声色で問う。
そして皆一斉に慶の方を指さした。
「ちょ、待ってや!違うて...これは態とじゃなくて練しゅ」
慶が顔を引き攣らせながら笑い、言いかけた次の瞬間...物凄い速さで雪玉が飛んできたと思えば慶の顔へ思いっきり当たった。
「すっ...ご!!しばめっちゃはやく投げれんじゃん!!」
「いやそうじゃないでしょう!!...桐ヶ谷さん、大丈夫ですか?!」
「あっ...叶愛、救急箱持って来ます!」
目を輝かせる紫呉を他所に宇佐美は急いで慶の元へ駆け寄り、心配した叶愛も事務所へ救急箱を取りに行く。
「凄いな、あの速さ。桐ヶ谷くんは大丈夫か?」
「...当たったら死ぬ」
見ていた伊吹と恵も慶の方へ歩いて向かう。
「あれは...あれはやばいて...走馬灯見えた...」
何とか意識があった慶は鼻血を流しながら、死に際のような声で言った。
「しば〜!!雪合戦しよ!」
「あ゛...?やる訳ねぇだろ」
「いーじゃん、やろーよ」
「...うるせぇ。お前らだけで勝手にやれ」
後ろから着いて行く紫呉を鬱陶しいと思いながら獅波は颯爽と前へ進む。
「ねぇ〜!!やろ!楽しいって〜〜」
「チッ...やんねぇつってんだろ」
「分かった、じゃあ雪合戦してしばが勝ったら俺1ヶ月話しかけない!どう?」
獅波は立ち止まり、考えた後後ろへ振り返る。
「...嘘つくんじゃねぇぞ」
そう言い捨てた後、先程来た道へまた引き返した。
「あ、けーくん大丈夫?」
「まぁなんとか。生き返ったわ」
「...では改めてチーム分けを!」
「あの...」
宇佐美がそう言った瞬間、後ろから声が聞こえた。
「あぁ、蔵坂様!こんにちは、どうしましたか?」
門から少しだけ顔を出して覗かせていた真鈴は、門を潜りこちらへ近づく。
「えっと、今日紫呉くんと勉強会するつもりで...」
「あっ、忘れてた。よし...まりー!雪合戦しよ〜!」
「何がよしなんですか...!!紫呉!」
「えっ、雪合戦...?!」
勉強会の約束で来た真鈴はいきなりそう言われ、心底驚いた顔をして焦る。
「久しぶり、まり。したくないのなら別に良いんだぞ?」
伊吹は困っている真鈴を安心させるよう、眉を下げて笑いながら言う。
「いえ、そうじゃなくて...!いきなり言われたので驚いてしまって。」
「んで、どうするん?やってく?」
紫呉が約束を忘れ、その上いきなり誘った+恐らく雪合戦(殺し合い)になるので、慶も申し訳ない気持ちになり"まじ断って大丈夫だよ"という意味を込めた軽薄な笑顔で聞く。
「は、はい!折角来たので...是非!」
...が、普通の人なら絶対断って帰るだろうこの状況でも真鈴は笑顔で応じた。
「...良い子だな、」
「...良い子ですね」
伊吹と叶愛はそんな真鈴を見つめて、感心した表情で言う。
「んん゛っ...。では改めて!!今度こそチーム分けをしますよ。今回は公平にくじ引きで決めます」
そう聞いた慶と叶愛は(獅波皐と敵だけは嫌だ...獅波皐だけは嫌だ...)と強く願う。
「あ、うさちゃん!俺としばは敵で。約束あるから」
「約束?...まぁ良いでしょう、分かりました」
自分からそう言い出した紫呉に対し慶と叶愛は「まじか」と思った。
「皆さん引きましたね、では分かれてください!」
宇佐美がそう言うと、一斉に2つのチームへ分かれ出す。
「えー...。Aチームは皐、梅澤さん、桐ヶ谷さん、蔵坂様!Bチームは私、紫呉、蛇場原さん、春風さんですね!」
1人ずつ名前を呼ぶ宇佐美に対して獅波は睨みつけた。
「んなもん良いから早くやれ」
「そんなに楽しみだったんですか、皐」
「...あ゛?」
「とりあえず、5分間作戦会議してから始めましょう!いきますよ〜スタート!」
宇佐美はタイマーをセットして、スタートを押すと数字が動き出す。
【Aチーム】
「......」
皆集まるが、話し出す人が居なく気まずい雰囲気が流れていた。
「...えーと、作戦会議やったよな?どういう感じで狙うか」
「...投げて当てる。終わりだ」
慶は(どっちの終わり...?!)と思う。
獅波がそう言い放つと、またシーンとして気まずい雰囲気が流れ出した。
「勝敗はどうやって決めるんだろうな」
「うーん確かに。...相手全員動けなくなったら終わりとか?」
「えっ...」
伊吹の質問に対してそう返した慶の言葉に、真鈴が不安そうな表情で驚く。
「あ〜!冗談やで?」
慶は急いで笑みを作りそう言うが、獅波の方を見て、現実になりそうだな...と思った。
「まっ、あれや...1人ずつ倒してくって感じ?」
「そうだな、それでいこう。...最初は宇佐美くんを狙おうか」
「はっ、はい!分かりました!」
「...。」
この雰囲気を打破しようと慶・伊吹の苦し紛れの提案に(1番の被害者は宇佐美)、真鈴は返事をした。
【Bチーム】
「では、作戦を決めましょうか」
「ちょっと待って!うさちゃん」
「はい、なんでしょう?」
紫呉は下を向き、少し黙る。
そして__
「...決めるでしょ、チーム名!」
キリッとした表情で紫呉が言い放った。
「確かに...!そうですね...。チーム力を高める為には大切かもしれません」
「え、そんなに大事なんですか?チーム名決めるのって」
「...さぁ」
紫呉の言葉に対して真剣に返す宇佐美を見た叶愛は、「そうなのか」と恵に聞くが、心底どうでも良さそうな恵は流して返す。
「よし、じゃあチーム名は『紫呉隊!』」
「嫌です!」
「...壊滅的にダサい」
即座に叶愛と恵が言う。
「ま、まぁ...お二人がそう言うので別のにしましょうか」
宇佐美も苦笑いでそう言った。
「はー?!なんで!」
「そうですね...では紫呉の苗字をとってアカツキーズとかはどうでしょう?」
「ださ!」
「...センスが無い」
宇佐美の意見に、差程変わらない案を出した紫呉と、相変わらず真顔な恵は言った。
「失礼ですよ!」
「あ、暁闇って紫呉くんの苗字の暁(あかつき)に闇(やみ)ですよね。それならレッドムーンダークネス...とか」
「待ってなにそれ、めっちゃかっけーじゃん!」
叶愛の意見に紫呉は前乗りになって言う。
「ただ英語にしただけですよ?」
「じゃあチーム名は"レッドムーンダークネス"でいこー!」
「ではチーム名が決まったので次は作戦に...」
宇佐美がそう言うとタイマーの音が鳴り響いた。
「...あ。」
真顔だった恵は少しだけ表情を変えてタイマーの方を見る。
「もう時間...!仕方ないですね、なるべく周りを見て、当たらないようにしましょう!」
「「はーい」」
宇佐美の言葉に紫呉と叶愛は返事をする。
そして両チームは数メートル距離を開けて体制を作った。
「行くぞー!チーム・レッドムーンダークネス!」
紫呉はそう言って上へ腕を掲げた。
「なんやその厨二病みたいな名前!」
慶は笑いながらすかさずツッコミを入れる。
「いきますよ〜皆さん!それでは…始め!」
宇佐美がそう言ってまたタイマーをセットし、スタートを押した。
宇佐美が言ったと同時に雪玉を作っていたのか、獅波は思い切り雪玉を投げる。
そしてその雪玉は宇佐美の横を掠めた。
「...あっ。狡いですよ皐...!開始と同時に!」
宇佐美がそう言って安心したのもつかの間、宇佐美を目掛けて雪玉が次々に飛んでくる。
「み、皆さん...?!ちょっと!私を狙いすぎですよ!」
「ごめんな宇佐美くん。でも桐ヶ谷くんが1番に狙えと」
「待ってや?!狙うって言ったのは姐さんやで!」
伊吹と慶はそう言って、止まることなく宇佐美へ雪玉が投げられる。
「え、えっと...」
(投げれば良いんだよね...!)と真鈴は雪玉を作って、前へ投げた。
するとその雪玉は__獅波の背中へ当たる。
「あ...!あの、ごめんなさい!態とじゃ...」
「...チッ。おい、見てろ」
「え...?」
獅波は物凄い圧力を込めて雪玉を作ると、宇佐美へ向けて構える。
「こうやって...投げんだよ...!」
後ろへ重心を乗せたかと思えば、前へ投げると同時に前へ体の重心を全て移動させて思い切り投げる。
そして風を切り、前へ飛んで行った。
「す、すごいですね...!でも私、あんなに速くは...」
「速さを言ってんじゃねぇ...コントロールの問題だろ。...投げたい方へ片方の手を向けて投げんだよ」
「なるほど...ありがとうございます!」
「...次は当てんじゃねぇぞ」
「は、はい...」
怖い顔をした獅波にそう言われ、真鈴は少し脅えながら返事をした。
「いけー!うさちゃんを囮にして投げろー!!」
紫呉は狙われている宇佐美を他所に雪玉を投げる。
叶愛と恵も助ける様子はなく着々と投げていった。
「中々当たらないです!!」
「......当たらない」
「私の扱い...っ!!」
宇佐美はそう言って逃げるが、避けきれ無かったようで眼鏡に当たってしまう。
「...!あ、眼鏡が...!!」
「...宇佐美くん!待ってください、今叶愛が拾います」
眼鏡が飛んでいってしまい、辺りが見えなくて探す宇佐美を見た叶愛は急いで駆け寄り、眼鏡を拾おうとする。
...が、その叶愛へ向かい、雪玉が飛んでくる。
「叶愛、危ねぇ!」
紫呉が咄嗟に前へ出て、叶愛を庇う。
腕に当たった雪玉は砕けて下に落ちた。
「...うわ、びっくりした...。ありがとうございます!」
叶愛はお礼をしてから、宇佐美へ眼鏡を返した。
「流石にうさちゃんを狙いすぎじゃねー?どーする?こっちも誰かに当てねーと」
「......梅澤さんはどうですか」
「お、めぐちゃんが喋った!なんで伊吹?」
「いえ、紫呉さんが春風さんを庇ったように...女性なので誰か庇うのかなと」
恵は、真鈴も女性なので言おうと思ったが紫呉がいる為口を閉じた。
「なるほど!その庇った人を狙うってことですね!」
恵の意見に対して叶愛が頷く。
「じゃあそれで、反撃しよっか」
宇佐美の前へ立った紫呉、恵、叶愛は雪玉を作り構えた。
そして同時に伊吹へ投げる。
「...!私か、」
3方向から飛んでくる雪玉に驚いて目を見開き、どちらへ逃げようか伊吹は悩む。そして恵が言っていた通り慶が伊吹の元へ駆け寄った。
「姐さん!危ない...!」
「よし、今です。紫呉くん、恵くん!けいくんを狙って!」
「おっけー!」
「...はい。」
前へ出た慶を狙い、何個もの雪玉を投げる。
「はぁ〜?!いや、俺さっきから不運すぎやろ!」
慶は咄嗟に伊吹を庇いながら後ろを向く。
そして慶の頭や体に雪玉が当たった。
「いっ...てか冷たっ!!」
「やれ〜!!もっと投げろー!」
「はい!」
「...分かりました。」
楽しくなってきた紫呉は目を見開き、叶愛と恵も雪玉を投げまくる。
...が、慶を狙ったはずの雪玉が通り過ぎて後ろへ居た真鈴に向かってしまう。
「え...。」
咄嗟に逃げれず、顔へ向けて飛んでくる雪玉を見つめる事しか出来ない真鈴は目を瞑った。
そして当たる直前で獅波が真鈴の前へ手を出し、雪玉を受け止めていた。
「......!あ、ありがとうございます...」
「あれ〜?助けるだなんてどうしたんや〜??」
「珍しいな、獅波くん。本当にどうしたんだ?」
助けた獅波に対して慶と伊吹はニヤつきながらからかう。
「...お前ら捻り潰すぞ。1人倒れたらこっちが負けんだろうが…」
獅波は余計に不機嫌そうな顔をする。
「ごめんなさいまりちゃん...!大丈夫でしたか?!」
叶愛が謝りながら真鈴に駆け寄る。
真鈴を助けた獅波を見ながら紫呉も不機嫌そうな顔をした。
「俺がそっちのチームだったら絶対助けてたもん!!」
「何を張り合ってるんですか...紫呉。敵だったんですから仕方が無いですよ」
嫉妬する紫呉を横目で見て、呆れた顔で宇佐美が言う。
___そして終了のタイマーの音が鳴った。
「勝敗は...引き分けですかね」
「だってよー?しば!」
「...だからどうした、いつもと変わらねぇだろ」
「もう、なんでそんなに当たりが強いんですか」
(一方的に)啀み合う二人を見て宇佐美が困った顔をする。
「楽しかったですね、まりちゃん!最後は危なかったですけど...」
「はい...!また遊びたいです」
「まりちゃんは敬語じゃなくて良いんですよ?同い年ですし!」
「え...でも.........。...うん、分かった。よろしくね...!」
叶愛に両手をとられながらそう言われた真鈴は嬉しそうに微笑んだ。
「恵くんも!楽しかったですかー?」
「......まぁ、はい。風邪引きそうですけど」
「楽しかったなら良かったです!」
珍しく少し微笑んだ恵を見て、叶愛も笑顔になる。
「あ、まり。今日はごめん...!!また今度勉強会しよ」
紫呉は帰ろうとしていた真鈴の元へ駆け寄ってそう言った。
「うん...!でも紫呉くんとなら何しても楽しいから...ありがとう、誘ってくれて」
少し照れながら真鈴はそう言って、満面の笑みを見せる。
「桐ヶ谷くん」
伊吹は前を歩いていた慶に話しかけた。
「ん、どうした?姐さん」
「さっきは庇ってくれてありがとうな、助かった」
「...!い、...や〜?1人狙われてたら助けんのが当然!みたいな感じやろ?」
「そうか、流石だな」
伊吹はそう言った慶に対して、態とらしく微笑み慶の横を通り過ぎて前へ進む。
「ちょ、別にかっこつけてるわけじゃないで?」
「分かってるぞ?行こうか」
「姐さんー...」
明らかに揶揄う表情を見せた伊吹に、慶は不満気な顔でついて行った。
先に事務所に戻りソファーに座っていた獅波を見て、宇佐美は話しかけた。
「皐。今日はどうして参加したんですか?」
「...しつこかったからだ」
「なるほど?いつもはどれだけ誘っても来ないのに」
「.........。」
「まぁ皐が楽しめたのなら良かったですよ、またやりましょうね」
宇佐美はそう言って、微笑んでから立ち去った。
「...やらねぇよ」
相変わらず不機嫌な顔をした獅波は、そう言いながら目を閉じた。
(終)
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