ヤクザ 小説

@0000_nishiki

暁闇

① 暗い道____



女子高校生であろう、夜に似合う黒色のセーラー服を着た女の子が夜道を歩く。


向かいからもう1人、また闇夜に溶け込みそうな程黒いスーツを来た男が歩いてくる。


「……?」


少女は怪訝そうな顔をし、顔が強ばりながらその男とすれ違った。

何も無く安心し溜息を着いた時、男が少女の口を薬を含ませた布で覆う。


「…?! ッ____!!」


少女はそのまま目の前が暗転し、気絶してしまった。



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「郵便物が届いてましたよー、全く…誰ですか?此処に届けに来させるだなんて…まぁ、誰かの検討はついてますが…。」


警察と協力し悪に手を染める裏社会を無くそうとしているヤクザの組 "暁闇" の若頭補佐・宇佐美 錑 が困った表情をしながら皆に問いかける。


…がそれぞれ別の事をやっていて聞いてない、もしくは面倒くさいと意図的に無視していた。


「はぁ…。はい、まず…そうですね、叶愛様ですか?」


「叶愛じゃ無いですよ!」


「うーん、なら桐ヶ谷さん!」


「俺やないで」


「…伊吹様」


「違うな」


「有り得ないと思いますが…蛇場原さん」


「…違います」


「紫呉は…居ないのか、なら後はもう…皐で_」


「違ぇ」


不機嫌な顔をしソファーに座っていた暁闇の若頭・獅波 皐 は宇佐美の言葉を遮り言い切る。


「誰のでもないなら…まさか着払いでの嫌がらせですか?!」


「嫌がらせにしてはおもろくないな」


暁闇のメンバー 桐ヶ谷 慶 は少し顔をニヤつかせながら言った。


「いや…桐ヶ谷さん、面白いか面白くないかの問題ではなくて…!」


「はい!届いた時にお金は払ったんですか?」


同じくメンバーの 春風 叶愛 は元気よく手を挙げて質問する。


「払ってないですね、そこに置いてありました」


「なら着払いじゃねぇだろうが」


「…はっ、確かに!」


「…チッ。馬鹿か」


舌打ちをした皐は無造作にポケットからライターを取り出してタバコに火をつけ吸い始めた。


「取り敢えず、危険な物かもしれないし開けてみないか?もしそうなら警察に任せよう」


皆が少し楽しんでる中、(1部除き)冷静に言葉を放ったのはメンバーの 梅澤 伊吹 だ。


「そうやなー!俺も姐さんの意見に賛成〜」


「…誰から届いたかも分からないのに開けるんですか?俺だったら触りもしない、」


もう1人、冷静だった重度の潔癖症 蛇場原 恵 が 「有り得ない」という顔で見つめながら言う。


「そうですね…確かに。というか、危険な物かも知れないのに開けるというのはどうなんですか?逆に危ないのでは…」


「…そうか?」


「良いやろ!!開けようや!」


「ですがもし開けた瞬間爆発なんてしたら…!!」


「うるせぇな…早く開けりゃ良いだろ」


今までソファーに気だるげに座っていた獅波は立ち上がって机に置いてある箱を持ち思いっきり破き捨てるように開けた。


「あぁ…!!皐!貴方何してるんですか?!」


「箱ごときで騒いでんじゃねぇよ」


「それで、中に何か入ってたんですかー?叶愛気になります!」


箱の中身が気になり皆が一斉に中を見るとそこには…


《 ⚠︎火気厳禁!攻略ダンジョンへ是非どうぞ 》

という見出しが紙に書いてあり、その次に

《__今回の報酬はなんと!血塗られた夜に紛れるお姫様、最上階・1番奥の部屋にいる姫を助け出せれば探検者様の勝利です!》


そして文章の下には…蔵坂 真鈴 の写真が貼ってあった。



「…んだこれ」


「これって…あの、蔵坂様ですよね?」


「組長の女やろ?」


「やっぱり悪戯ですかねー?」


そうと分かると叶愛は興味が無さそうに紙から目を離してどこかへ立ち去ろうとする。


「いや、悪戯にしては…写真まで貼って、なんと言うか…少し…」


「趣味が悪いな」


伊吹が冷めきった顔で言う。


不穏な空気が広がる中、ガチャ…と扉を開ける音がして 「ただいま〜」という声が響く。


「あっ、紫呉!」


宇佐美は急いで玄関へ駆け寄る。


「え、なに?そんな急いで〜どーした?」


学校から帰ってきた高校3年生、暁闇の組長・暁 紫呉 は呑気な顔をして聞く。


「今日…蔵坂様は学校に来られてましたか?」


「なんで?今日は来てなかったみてーだけど」


「…。そうですか、ならやっぱり…」


「取り敢えず来てください」と宇佐美は真剣な顔をして紫呉を皆が集まっている部屋に連れて行く。


「…なに、この雰囲気!」


暗い雰囲気が漂ってる中、紫呉の明るい声がよく響く。


「…紫呉、これを見てください」


「んー?」


箱の中にあった紙を宇佐美は紫呉に渡す。

一通り目を通した紫呉の表情は一転して怒りを含んだ顔になる。


「…は?なに、これ」


「私にも分からないですが…多分、恐らくです…けど、…蔵坂様が誘拐されたのかも知れません」


「真鈴を誘拐する理由ねぇだろ……とにかく、探しに…!」


「待ってください。」


紙を一定の距離から覗き込んでいた恵が紫呉を止める。


「…!なに!めぐちゃん、」


「…当たり前ですが、地図も何も書いてないのに何処へ行くのかなと思い…」


「地図…、そうか…そうだよね。居場所が分からなきゃ行けねーし…!」


「大丈夫です、叶愛も協力します」


「勿論私も!検討がつく所全て調べましょう!」


「私も協力する、また買い物に行きたいしな」


「姐さんが行くなら俺も行くで」


「…………俺は行かねぇ」


皆が揃って協力する、と言ってる中獅波はまたソファーに座り直しそう言った。


「そいつが攫われようが組には関係ねぇだろ」


「しば、お前…」


紫呉が目を見開いて獅波に近寄ろうとする

___のを宇佐美は急いで駆け寄り仲裁に入る。


「…皐!蔵坂様が攫われたとして、先程の箱を態々暁闇のアジトへ置く必要が無いでしょう?あるのは私達をよく知っていて恨みを買っているであろう連中ですよ!!紫呉の彼女の蔵坂様を知っていて…それに此処の場所まで知っているとなるとそうとしか思えません」


「うるせぇ、よく回る口だな……」


獅波は1度何かを考えるとソファーから立ち上がった。


「チッ…行くぞ」


相変わらず不機嫌な顔をしながら颯爽と獅波は歩き始める。


「…てか、しば分かんの?場所」


「あ゛…?"火気厳禁"は工場しかねぇだろうが。…ガキでも分かるような舐めた真似しやがって」


「ですから、その工場は?」


「…今まで潰した中で組織が広いのは1つしかねぇ」


「なぁ、ツンデレってやつなん?あれ」


「さぁ。どうだろうな」


「探偵みたいで良いですね!」


「…まぁヤクザですけど」


獅波を先頭にしながら暁闇は工場へ向かった。



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②火気厳禁の攻略ダンジョン____


「叶愛、こういう所初めて来ました」


目の前の大きな工場を目にして叶愛は圧巻される。


「では…!行きましょうか」


「待て」


「なにー、しばまだなんかあんの?」


「3、4で分かれる。その方が効率良く潰せんだろ」


「皐…貴方効率だなんてそんな皆の為になるような言葉…」


「あ゛…?」


余計な事を言う宇佐美に向かい獅波は睨み付ける。


「いやいや、逆に考えてみぃ?効率は良くなるだろうけど安全性は無くなるで?」


「…だから何が言いてぇ?」


「別に嫌って言う訳じゃなくてな、」


「つまり現実を言ったんだろ?」


「そうそう!さすが姐さん!」


その会話を聞いて宇佐美は溜息をつく。


「まぁそうでしょうね、皐に限って私達の事を考えるだなんてそんな事は有り得ないです。…どう分かれましょう?」


「んなの適当で良いだろうが、早くしろ」


「なら私と皐、蛇場原さんのグループ・紫呉と桐ヶ谷さんと伊吹様と叶愛様のグループで行きましょう」


「伊吹と叶愛分かれさせなくていーの?まぁ戦力的にはあってるかもだけど(笑)」


「何故笑ったんですか…!!

……私が道を案内して進むので、もし相手に鉢合わせしたら前衛は皐、後衛は蛇場原さんに任せます。紫呉の方は皆さん場所の把握がある程度得意そうなので」


「んー、まぁうさちゃんの考えは大丈夫だと思ってるからそれで行こ!」


話がまとまった彼らは工場内へ入って行った。



工場内へ入ると進む道の方向が二つに分かれている。


「うわ…怪しっ。最初から俺らが分かれて行動すんの知ってたみたいな感じやな」


「早く行くぞ」


「んじゃ、また後でね〜」


獅波が進んで行ったのを確認して、紫呉は手をひら、と振りながら自分達も歩き出す。


互いのグループは別の方向へ、薄暗い工場の中を進んで行った。


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【獅波、宇佐美、恵】


3人は足早に工場内を歩いていく。


「皐、!歩くのが速いですよ!!…蛇場原さんも!2人ともペースを合わせるというのを大切に…。…!」


息を少し切らしながら歩いていた宇佐美の背後に男がいつの間にか立ち、拳銃を宇佐美の頭に押し付ける。


「…あ」


恵は驚いた表情を一瞬するがすぐ落ち着いた顔に戻し戦う体制に入る。


「残念だったな、探索者1人…此処でお終い__」


男が言い切る前にパァンッ…!!と銃声が響く。

そして宇佐美の背後に立っていた男は血を流して床へ倒れ込んだ。


「…何が探索者だ、遊びに付き合ってる暇はねぇ」


獅波は顔を一切変えず拳銃を裏ポケットにしまってまた歩き出す。


「本当、躊躇無く殺しますよね…」と宇佐美は言おうとしたが一応助けて貰ったので口を閉じた。


「すみません。…すぐ動けませんでした」


「大丈夫ですよ蛇場原さん、皐が撃った反動で私も撃ち抜かれていたかもですし」


「…文句言ってんじゃねぇぞ」


小さい言い争いが始まった中、工場中に物凄い騒音が響いた。


「うるせぇな…」


「この音…!何でしょう…何かあったんでしょうか?」


「…。」



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同時刻【紫呉・慶・伊吹・叶愛】


「んー、なんか同じ風景だね〜」


「まぁそうやろな、観光地歩いてるわけでもないし」


「つまらなくなってきました…」


「元々遊びじゃないけどな」


叶愛が怠そうな表情をし始めたのを伊吹は困った顔で横目に見ながら歩く。


「誰かさ〜!スマホとか持ってきてねーの?ここで音楽流したらよく響きそう!」


「暁くん、…真鈴を助けに来てるんだろ?」


「そうだけどさ〜音楽鳴り響いてた方が真鈴誰か来たって分かるかなーって!」


「その代わり俺らが注目の的やな、ガチの方の」


「皆さん!後ろ…!」


三人が呑気な会話をしてる中、叶愛の緊迫した声が通る。


「あれ、お前が噂の組長?ガキじゃねぇか!…後は男一人に女二人。…はっ、舐めてんのか?」


大勢いる中の1番前にいた男が圧をかけながら話す。手に拳銃、鉄パイプ、ナイフ…など凶器を持った輩が後ろに着いていた。


「これは…不味いな」


伊吹は"不味いな"と言いながらも笑みを浮かべ戦う体制を作る。


「…沢山いますね」


伊吹とは対象に叶愛は頬に汗を流しながら緊張した表情でいる。


「大丈夫、きっと真っ先に組長が片付けてくれるで」


慶は緊張している叶愛の肩を軽く叩きながら言った。


「あはは、舐めてんのはどっちだよ…じゃあ、行こっかー!」


緊迫したこの状況に相応しくない紫呉の声が響くのと同時に一斉に動き出す。



紫呉は多くの拳銃や鉄パイプを持った相手に回し蹴りで武器を飛ばし対抗していく。


慶は正確に相手の頭を撃ち抜き、叶愛は後ろからそのサポートとして銃弾を放つ。


伊吹は鉄パイプを持った相手の攻撃を軽く交わしていき相手の重心を上手く使って倒す。



そして…数分もしない内に辺りは人が倒れ血が飛び散る惨状になっていた。


「武器持ってるだけでよわ〜」


「…普通に怖かったです」


気楽にしている紫呉を見て叶愛は呆れ混じりの顔になりながら言う。


「姐さんも武器使ってなかったやろ?流石やな」


「まぁ、普段からあまり使わないからな。にしても桐ヶ谷くんほんとに銃正確に撃つな」


「ええー?そんなことないで〜?」


皆が落ち着き楽しく話してる時、不自然に銃声音が何処かから鳴り響いた。


「…!まだ何処かに、」


叶愛は1歩ずつ下がりながら辺りを見渡して、相手の位置を確認しようとする。


するといきなりバァンッという轟音と共に何かが爆発した。


「…なんや、!」


爆発した為か鉄柱が崩れていくような音が鳴る。


「何の音…。…!叶愛!危ない、!」


伊吹が音の発信源を探そうとすると叶愛の後ろから大きな鉄柱が倒れてきているのが見え、咄嗟に駆け寄る。


「ちょ、姐さんも危ないで…!」


いきなりの事に動けない叶愛は倒れてくる鉄柱を見つめる事しか出来ない。


「…ッ、」


伊吹は鉄柱が倒れてくる寸前の所で叶愛を抱えてそのまま向こうへ滑り込んだ。

大きな鉄柱は物凄い音を立てながら床を壊し下まで落ちていった。


…鉄柱のせいで床に大きな穴ができ、伊吹・叶愛。紫呉・慶はそこで二つに分かれてしまう。



「うわ、まじ?この距離そっち飛べへんよな…」


「んー…俺らは俺らで、そっちはそっちで移動するしかないよねこれ」


「…そうだな、大丈夫か?」


「はい…、ごめんなさいすぐ逃げれなくて…」


「良いよ。取り敢えず進もうか」


「なんか今日はめっちゃ分かれんね〜!また〜」


「女だけて…大丈夫か?…まぁ2人とも頑張ってや、」


あまり気にしていない紫呉を他所に慶は女性2人だけで大丈夫かと気にしつつ進む方向へ向き直す。


更に二つに分かれてしまった4人は反対方向へ各自進み始めた。



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【獅波・宇佐美・恵】


「おい、これ本当に辿り着くんだろうな…?」


「ええ!勿論ですよ。確か次はこちらに…いや、真っ直ぐでしたっけ…」


一方獅波と宇佐美は薄暗い道を恐らく…着々と進んで行っていた。


「ううん…あ、蛇場原さん。ここ覚えてますか?」


宇佐美は後ろにいるであろう恵に話しかけようと振り向いたが、そこには誰もいなかった。

宇佐美はサー…と血の気が引くのを感じる。


「…は、え?!蛇場原さん…?!蛇場原さーん!!」


「何1人で喚いてんだ」


「蛇場原さんが居ないんですよ…!!はぐれたんでしょうか、」


宇佐美は辺りを見回すが薄暗い所為もあるのか、人影は見えない。


「…お前の案内に呆れて別行動し始めたんじゃねぇのか?」


「それは無いです、貴方が着いてきてくれているんですから蛇場原さんに限ってそんな…」


「あ゛?殺すぞ」


「…ま、まぁとにかく!1人行動は危険です、探しに行きましょう」


宇佐美は頬に汗を流しながら走り始める。


「蛇場原さん〜!!どこですかー?」


「…。」



「そんなに仲間の名前呼んでるけど、響く工場内で返事がねぇってことは死んでんじゃねーの?」


「…!」


薄暗闇の中から男が現れ、拳銃を宇佐美に向ける。


咄嗟に獅波は裏ポケットから拳銃を出して撃とうとするが、それより先に"__パァン"という銃声音が響いた。


「う゛っ…ッ……」


「おい、錑!」


「…はは、いえ…大丈夫…です、足を…ッ、撃たれただけなので……。」


宇佐美は口ではそう言いながらもふらついてしまい床に倒れ込んでしまう。意識はあるが、顔が蒼白で額に汗をかいているのが見て分かる。


続けて相手は上を目掛けて何発も銃を撃った。


そうすると上からガコン、と鉄タンクが落ちてくる。


「ほら、助けねーとそいつ潰れて死ぬぜ?」


相手は目を細めて笑い、銃をこちらに向けながら言う。


助ける直前に撃って2人まとめて殺すつもりだろ…、と獅波には分かっていた。


…が、落ちてくるタンクを見つめながら獅波はらしくも無く思考を巡らせる。



「…くそ、」


獅波は宇佐美の方へ真っ先に走っていた。



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【紫呉・慶】


「なんかごめんね俺で」


「?いきなりどうしたん、組長」


「いや〜だってさ?伊吹じゃなくてって、」


「別に気にせんでそんなこと」


慶はあはは、と笑いながら言う。


「てかさ、けーくんはどこに惚れたの?」


紫呉は顔をニヤつかせ態とらしく聞いた。


「あんなに華奢で可愛くって美人なのに強くて聡明な所やな」


「すご、めっちゃ出てくんじゃん。なんか真剣な顔で言われると面白い」


「なんでや!真剣に思ってるからな、…んじゃあ逆に組長は?」


聞かれた紫呉は「んー…」と考え出す。


「なんだろ…、なんか、あれだよ…言葉に表せない感じ」


「あ〜!分かるで。この人や!みたいな」


「そーそー!それ!!真鈴見た時他とは違う雰囲気を感じたんだよ〜」


「良いなぁ、微笑ましいわ」


慶はそう言って笑った後、顔つきが変わる


「……ま、もっと聞きたい所やけど俺らの話盗み聞きしてる奴が居るから後にしよか」


慶に言われて紫呉は周りを見ると、男が後ろから近付いてきていた。


「呑気に話してんなぁ?お前ら。緊張感も少し持ってねーと死ぬぜ?」


紫呉はサッと慶の前に出て余裕そうな表情を見せ、笑う


「だって緊張感持つ程の相手じゃねーもん、その必要ないじゃん?」


「ガキは皆そう言うんだよなぁ、それで調子乗って死ぬんだよ」


「じゃあ、調子乗ってる俺倒せなかったらその説立証ならず〜って感じでよろしくね」


紫呉はもう一度笑うと相手に向かい回し蹴りをするが、交わされてしまう。


「意外と戦えんの、良いね〜…でも避けてるだけじゃ…、…!けーくん!」


最初から慶を狙うつもりでいた男は銃を構えていた慶の腕を思い切り蹴り飛ばし、その反動で拳銃が床に飛ぶ。

そして男はそのままもう1発、慶の体を蹴り飛ばした。


「ッ…!」


「大丈夫、けーく__」


フェンスまで飛ばされた反動で、慶の重心がそのままフェンスに掛かり、錆びた鉄が折れてしまった。


フェンスと共に慶は後ろに倒れていく。


紫呉は瞬時に走ってギリギリの所で慶の手を掴んだ。


下に見えるのは暗闇、フェンスの下へ落ちた音が聞こえるのが遅かった為…きっと人が飛び降りると確実に死ぬ高さだ。


「あっぶな…セーフ、」


「は、何がセーフだ。…良い拳銃持ってるなぁ?お前の仲間が使ってる愛用の拳銃で撃ち殺してやるよ」


男は床へ落ちていた慶の拳銃を拾い上げ、こちらへ向ける。


「…ゴホ、…愛用でも、…何でもないんやけどな、」


「けーくん、!」


紫呉は急いで持ち上げようとするが、自分が落ちないよう留まる力を込めているせいで、腕に力が入らず中々持ち上げられない。


「…組長、離していいで」


「は、…?」


「重いやろ、離したら戦える」


「今俺がけーくん離したら負けだから。戦えたとしても勝負に勝てねーよ」


紫呉は絶対に落ちないよう、より一層力を込める


「おい、茶番は終わったか?…早かったなぁ、暁闇の組長がこんなに早く"脱落"だなんて」


男は嘲笑しながら銃を頭にあて、トリガーを引こうとする。


____


パァン、と銃声が鳴り響いた。



その瞬間、男は床へ倒れる。


「え、」


紫呉が驚きながら声を出して、上を見ると目線の先に恵がいた。


「…大丈夫、ですか?」


「めぐちゃん〜〜!!今けーくんヤバいから引き上げるの手伝って!」


「はい、」


紫呉と恵は急いで慶を引き上げる。


「まじ、助かった〜!ありがと、めぐちゃん!」


「いえ、2人と距離をとりながら歩いていたらいつの間にかはぐれて…たまたま来ただけなので」


「はぐれたんか、…にしてもあいつの威力半端ないで、骨折れるかと思ったわ」


「………ありがとうな、2人とも」


慶は少し照れ混じりの表情で言った。


一段落した紫呉・慶・恵はまた真鈴の所へ向かうべく、歩き始める。



━━━━━━━━━━━━


【獅波・宇佐美】


真っ先に走っていく獅波を見て、男は笑いながらトリガーに手をかける。


「…チッ、」


男は舌打ちする獅波をも面白がりながらトリガーを引こうとし、獅波の頭へ標準を合わせた。


「死ね!!」


目を見開きながら男はトリガーを引く。


…が銃弾は上へ行った。


「ぐッ…なんだ、おま…!」


後ろから来ていた伊吹は男の首を締め、銃を持っていた方の手を逆の方向へ曲げて折った。


「いっ…ッ〜〜!!!!う、…く、くそ!……ッ、……」


男は手に力が入らなくなり、拳銃を床に落とす。

そして首を締められた為気絶しその場に倒れた。




「…!大丈夫です__」


「…来るな」


叶愛が宇佐美の元へ駆け寄ろうとすると獅波はそう言い、上から落ちてきた鉄タンクを思い切り蹴り飛ばした。


「え、蹴った…凄いですね」


「見捨てず助けるだなんて、珍しいな」


「後片付けが面倒だろうが」


そう言い切る獅波に対して伊吹と叶愛は「へ〜」と態とらしく微笑む。


獅波は2人の反応を「チッ…」と舌打ちしながら流し、気絶した男の頭へ銃を数発打ち込んでいた。



「……あれ、…私の眼鏡は…」


「あぁ、意識があったのか。眼鏡は飛ばされて壊れちまったみたいだな」


「壊れっ…?!ああ、また買い直さなくては…」


「"また"…な(笑)」


「くだらねぇ話してんじゃねぇよ…早く行くぞ」


「はい、行きましょう!」


叶愛がそう言うと、獅波・宇佐美・伊吹・叶愛は紫呉・慶・恵と同じように真鈴の元へ向かい始めた。



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③血塗られた夜____



「はい、しりとりのりー!」


「……りす」


「スイス」


「すいか!」


「…貝」


「椅子」


「するめ!」


「めだか」


「カラス」


「いや、けーくんめっちゃすにしてくんじゃん!」


「え?しりとりってこういうゲームやろ?」


「も〜飽きたー!やめ!」


「始めてから1分も経ってないと思いますが」


【紫呉・慶・恵】の3人はしりとりをしながら(緊張感が微塵もないが)楽しく歩いていた。


「お、ここ進んだら1番奥の部屋やない?」


「まじ?…早く会いてぇ。真鈴は勿論だけどあの箱送り付けてきたやつに」


「おお〜、ついたついた!行こか」


「…行きましょう」


紫呉が部屋の両開きのドアを開ける。

___すると先に着いていた獅波達がいた。


「あ!久しぶりじゃーん!…え、なんかうさちゃん怪我してね?眼鏡も無いし…しばにやられた?」


紫呉は左足に包帯を巻いている(叶愛にやって貰った)宇佐美を心配そうに見ながら言う。


「違ぇよ」


「今回は助けた側だからな」


「凄かったですよねー!」


伊吹と叶愛はうんうん、と頷き合う。


「恥ずかしながら左足を撃たれてしまったんですよ…でも皐が助けてくれて…これが成長ですね、嬉しくて涙が出てきます」


宇佐美は勿論、演技だが涙ぐみながらそう言う。


「いや、なんかうさちゃんめっちゃお母さん…」




「…皆集まっているね」


話しているその時、聞いたことが無い1人の声が聞こえ、全員が黙り一気に静まり返る。


「流石暁闇の皆さん!素晴らしい速さだね。もう少し遅いようなら報酬は無しにしていたよ」


軽い口調で話す男に向かい獅波は即拳銃を向ける。


「はは…、銃はしまいなよ。"火気厳禁"と言っただろう?工場特有の可燃性ガスや金属粉が充満しているこの部屋で撃つなんて事をしたら爆発して全員が死ぬよ」


「…どうして銃を撃つと爆発なんて、」


叶愛が不思議がり声を出す。


「銃を撃ったら火花が散るだろ?そしたら物質に引火して爆発…そう、ガス爆発と粉塵爆発を起こすんだよ!」


「粉塵爆発ってなに、理系そうなうさちゃん!」


「完全に偏見ですよね…?!…粉塵爆発、私もあまり知りませんが…粉塵ですから文字通り粉や塵に引火して爆発を起こす現象でしょうか、」


「でもガスは粉とか塵じゃなくないですか?」


「粉や塵でなくてもガスなどの気体は元々粒子の集まりだからね。それにガス爆発と粉塵爆発はまた違うんだよ。……さ、君達と化学のお勉強をしている暇はないんだ」


「銃が使えねぇからなんだ、殴り殺せば関係ねぇだろ」


「…はは、"まだ"殺したら駄目やろ」


獅波と慶の言葉を聞き、男は1度黙るがまた態とらしく微笑んで目を細めた。


「別にそれは問題じゃない。…君達は匂いに疎いのかな?それに目も…」


「あ゛…?」


「上を見なよ、君達は報酬を取りに来たんだろ?」


男にそう言われ、皆一斉に上を見る。

…とそこに手錠をフェンスと片手で繋がれた真鈴の姿があった。


「…真鈴!!」


紫呉は名前を叫び、駆け寄ろうとする。

…が数十メートル上にいる彼女へ手が届くわけでもなく留まってしまう。


「待って、煙の…異臭がします」


上を見ていた全員は恵の言葉を聞き、辺りに漂う煙の匂いに気付き始める。


「遅いなぁ、気づくのが。……数を減らした方がこちらも有利になるから君達を分断しようとした時、きっと俺の仲間が何処かで引火させてしまったのかな?」


「随分態とらしく言うんだな」


「あ。あの時ですか?」


「多分そうや」


男の軽薄な態度に伊吹・叶愛・慶は少しの怒りを覚える。


「よく分からないけど指示してないのに他にも色々壊してくれたからね。……さぁ。早く逃げないと此処は閉め切ってあるからとはいえ気体は簡単に入ってくる。それに閉め切ってあるという事は煙が充満すると言う事でもあるからね。」


「とりあえず、ドアを…!」


宇佐美がドアへ近づこうとすると伊吹がすかさず腕を掴んで引き止める。


「あんな事を態々言ってるんだ、多分外であいつの仲間が待ち構えてる」


「大正解、凄いね。でも暁闇なら簡単に倒して炎がまわる前に逃げれるだろう?…彼女は助けられないだろうけど」


「お前…、!」


紫呉は男に向かい睨みつける。


「そんな威嚇をしてる暇があるなら早くここを出ないと。ここで悩んでたって焼死する前に煙で死んでしまうよ?」


男がそう言ううちに煙が充満し始め、皆息苦しさを少し感じる。


「…行くぞ。」


「は?しば、待___」


ドアの外へ出ようとするであろう獅波に紫呉は制止の声を掛けるが、予想外に獅波は銃を投げてきた。


「…なに?」


「それで繋がれてる手錠の鎖を撃て。」


「は?!俺銃撃ったことないしそれに撃ったら爆発す___」


「…良いから撃てって言ってんだろうが!!早くしろ!…俺は外の奴らを潰す」


「………。」


獅波はそう言うとドアの外へ出て行き、一瞬唖然としていた皆も獅波について行ってしまった。


部屋に取り残された紫呉は呆然と立ち尽くす。


…が、立ち尽くすという事は紫呉にとって嫌いな"諦める"に近い行為でもあり、そんな事をしていても無意味だと言う事が自分でよく分かっていたので、獅波に言われた通り銃を手錠の方へ向け構えた。


「ああ、なるほど。どうせ死ぬなら手錠だけは外して一緒に死のうという事だね」


「…ぇ」


「ん?…遺言かな?」


「違ぇ。死ぬ為じゃなくて…助ける為に撃つんだよ」


紫呉はそう言って男に向かいニッ、と笑った後

決心したように前を向いて銃弾を放った。


_______




そして爆発は起きず、カキンッ…という音と共に真鈴が繋がれていた手錠の鎖が壊れる。


「なっ…、ぜ…爆発しない…?」


「…だから言ったじゃん?」


紫呉は笑いかけてみせるが、爆発せず手錠の鎖に銃弾が当たった事を心底安心して疲れた表情に戻ってしまう。


ほんとに、なんで爆発しなかったんだろう…と紫呉は上を見ながら思う。


「…!真鈴、!」


上を見た時、紫呉は真鈴が目を覚ましているのに気付き呼びかける。


「……ん、…。…!紫呉くん!!」


真鈴は紫呉の声で完全に目を覚まし、名前を呼び返した。


「あれ…私…帰ってる時に口を塞がれて…」


「真鈴!!良いから…飛び降りてきて!」


そう言い、紫呉は腕を広げて真鈴を待ち構える。


「飛び降りるって…そんな、」


真鈴は距離がある床を見て、恐怖心に染まってしまう。


無理だ、という気持ちに押し潰され中々飛び降りる気が真鈴の中で起きない。


…立ちすくみ、止まってしまった。



その時__今までより一層大きな爆発音がなり、炎が広がっていくのが分かる。


私が…今ここで降りなきゃ、紫呉くんが逃げられない……!


そう思った真鈴はフェンスに手をかけ、上に乗る。

そして目を瞑り…足をフェンスから離し飛び降りた。



飛び降りたのを見た紫呉は上を見上げて真鈴が落ちてくるのを待つ。


____落ちてきた真鈴を紫呉が受け止め、そのまま後ろへ倒れ込んだ。



「……い、生きてる…。…あ、紫呉くん!大丈夫…?!」


紫呉を自分の下敷きにしてしまっているのを見て真鈴は顔を赤める。


「あはは、流石真鈴。勇気ある〜!」


「どうしよう、火が…」


「ドアにも行けないか〜、どっちにしろ下には降りられなさそうだし」


「…じゃあ、」


と、泣きそうになる真鈴を見て紫呉は微笑んでみせた。


「こっから降りよ!」


紫呉はそう言い、真鈴を抱えた。


「え、え?!ここからって…?!」


真鈴の心配そうな声を無視し、銃を撃って窓ガラスを割る。


「良かった〜、銃弾残ってて」


「ねぇ、紫呉くん…?!」


紫呉は真鈴を抱えたまま窓に近付き、縁に手を掛けた。


「………。」


紫呉は後ろを振り向き男の姿を確認するが、男は感情を無くしたように立ち尽くしていた。

そして火が迫ってきたと思うと、そのまま男は炎の中へ呑み込まれ、消えてしまう。


「………最後は死んで逃げるとか、1番だせぇ」


紫呉はそう小さく呟いて前を向き直す。


「紫呉くん…、なんか言った…?!」


「んーん、なにも?じゃ、行くよ〜!」


「待って…!!もしかして…ここか___」


真鈴が言い終わる前に紫呉は窓から飛び降りる。


「キャーーーーーーッッ…!!!!し、紫呉くっ……!落ちてるッ………!!!!」


真鈴は身体のふわっと浮くような感覚に叫び声を上げ、紫呉の服を強く掴む。


紫呉は燃えていない途中途中のフェンスや屋根に軽い身のこなしで飛び乗っていき、最後には竪樋の上を滑り降りた。



「お、組長と真鈴ちゃん来たで!!」


降りてきた2人を見て慶が皆に知らせる。


「紫呉…!人を抱えてあんな所から…!!危ないですよ!」


「叶愛も見習いたいですね」


「真鈴が軽かったから出来たことだな」


「…お疲れ様です。」


各々が紫呉に向かい話しかける。


「え、みんな血だらけじゃん?どーしたの?」


「意外と相手の数が多くて…それに武器も持っていましたからね。返り血もあると思いますが」


「でも抱えられてただけでしたよね」


宇佐美は恵の適切なツッコミに「う゛っ」となる。


「誰が抱えてたの?…しば?!」


「んなわけねぇだろ。…足でまといが」


「俺が抱えながら急いで逃げたんや」


「…伊吹様が最初は抱えてくれようとしたんですが、桐ヶ谷さんが代わって」


「女に持たせる訳には行かんやろ…?!」


「なっ!持たせるって…物じゃないんですから!!」


「物と一緒だろうが」


「皐!貴方ねぇ…!失礼極まりないですよ!」


「…まぁみんな逃げれたならそれで良いんじゃねぇか?」


伊吹が呆れた表情で言う。


「そうですよ!色々あったけど安心しました」


叶愛も今日1番の笑顔で伊吹の言葉に共感した。




「あの…ありがとう…!紫呉くん…、ごめんねお礼言うのが遅くなって…」


「お礼も謝罪もいらねーよ?当たり前のことだし。…でももし言われんならありがとうだけで良い」


そう言って紫呉は真鈴の頭を撫でながら本当に安心しきった顔で笑いかけた。


「あ〜疲れたし腹減ったわ」


慶が軽く伸びをしながら言う。


「ならファミレスに行くのはどうですか?叶愛、美味しい場所知ってますよ」


「宇佐美くんの奢りで行こうか」


「私ですか…?!」


皆は楽しそうに騒ぎながらファミレスへと歩いていく。


「俺らも行こっか、……あ」


紫呉は何かを思い出したように少し前を歩く獅波を見る。


「ねぇ、しば。爆発しないって分かって渡したの?あれ」


「…高3なら分かんだろうが。煙が充満してんなら二酸化炭素、もしくは一酸化炭素が多い。酸素がある程度の濃度にならねぇと引火もしねぇし…爆発もしねぇ」


獅波はそう言い切ると足早に行ってしまった。


「んー、俺勉強出来ねーからな〜。ね、今度教えてよ。真鈴」


「えっ…?!…う、うん!勉強会しようね!」


________



"血塗られた夜"…つまり暁闇はその"姫"を報酬として…いや、奪還し全ダンジョンをクリアした………。



…ゲーム風に言うのなら。



《終》

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