第二部 僕っ娘ゲーマーの特訓宣言!

第一章 僕チン、鬼コーチ宣言

第一話 遊戯の間とツンデレドラゴン宣言

― 月曜日の朝 ―


 来海が朝食を食べていると母親が尋ねてきた。


「そういえば来海、あんた、校内にある《古道具屋》さんには行った?」


「いや、入学式の日に商店街をブラブラしたけど、そんなお店なかったな〜? 名前からしてリサイクルショップのこと?」


“ふ~”と母親は胸をなで下ろす。


「な、なんだよ?」


「来海、くれぐれもそのお店の中にある、《遊戯の》に入ろうとしてはダメよ!」


「なにそれ? 別にそんな場所、入ろうとしないけど?」


「そう、ならいいけど。そこは母さんもお姉ちゃん達もし、父さんなんかはしゃぎすぎて追い出されたけど、活動休止したアンタには場所だしね」


「それじゃお店の人に

『父と母と姉たちがお世話になりました』

って、挨拶しとこうか?」


「お願いだからそれだけはやめてぇ!」


(星福堂でなにやらかしたんだよウチの両親姉達かぞくは? そういえば心雪がそこで服を買うって言ってたな。後で聞いてみるか……)


 ― 星福堂学園高等部 ―


 教室に入った来海は


「お~す! 心雪、おはよう!」


 爽やかな顔で挨拶するが


「ぁ~ぉはよぅ」


 朝なのに心雪は机の上に突っ伏していた。


「なんだ? まだ疲れが取れていないのか?」


(それとも、

『忍びの者が電子蜘蛛の巣インターネットでその身を衆目にさらすとは何事か!』

と頭領、いや、父親にお説教でもくらったのか?)


「昨日の夜、兄からメールが来てさぁ~、鬱陶しいから放置しておいて、さっき見てみたら……」


 心雪はスマホを差し出してきた。


「……いいのか? 俺が見て」


「うん」


(簡単にみせるんだな。こういうのって女子は抵抗あると思っていたんだが。あくまで俺をコーチとして信頼してくれるからか?)


 スマホを手に取り見てみると……。


「うわ! なんじゃこれ!?」


 画面にびっしりと文字が敷き詰められていた。


「土曜日に『この粗チ○野郎!』ってメールしたよね。アレで怒ったのか、こんなメールを送りつけてきたんだ。ホント、アソコも器も小さいヤツだよ」


(いや、妹から《この粗チ○野郎メール》が来てアソコが大きくなるのは、ラノベの変態シスコン兄貴ぐらいだぞ……)


 しかし、画面をスクロールさせた来海は何かに気がつく。


「……あれ? この内容って、プロゲーマーとしてのマナーからファンへの対応、六大格闘ゲームのバックストーリーから3Match3Charaの勝敗方法。フェスにおけるルールから順位で得られる年間ポイントまで……。なぁ、これってプロテストで行われる筆記試験、SPI(Synthetic Personality Inventory:総合適性検査)の参考書じゃないのか?」


「……やっぱりそう思う? 

『プロになりたいなら最低限これぐらいは頭の中にたたき込んでおけ!』

だって。まったく、人を馬鹿にして! これぐらい自分で勉強するのにさ!」


(ドンだけツンデレなんだよアイツは……。でも俺は実技はともかく筆記の方は適当に勉強したら受かったクチだから、SPIの方は上手く教えられる自信はなかったし。気にくわねぇが四の五の言ってられねぇ。アイツに甘えるか……)


「心雪、これ俺の方に転送してくれないか? 一応俺の目でも確認したいからな」


「うん、いいよ」


“ピロン!”と来海のスマホの音が鳴る。そこへ


「おはようございます。心雪さん、来海さん」


「おはよう! 萌衣さん!」


 心雪は爽やかに挨拶を返した。


「お、おはよう、萌衣……さん」


(まだ言い慣れねぇな)


「ああ、ご学友からの朝の挨拶! 夢のようです!」


 萌衣は胸の前で両手を組んで一人、感動していた。


(コイツほんとにボッチだったんだな。まぁ四六時中あのエルフのそばにいれば、他の女子はなかなか声をかけられなかっただろうし……)


「そうだ萌衣さん。ちょっとこれ見てくれる?」


 心雪はスマホを見せ事情を説明する。


「ほぉ、ダイ……嫌いなお兄様からのメールですか」


(ヲイ今、ダイナミック・ドラゴンって言おうとしただろう!)


 萌衣はメールに目を通す。


「……なるほど、よくぞここまで。さすがですね。SPIの方はこれを勉強しておけばよろしいでしょう」


「へぇ〜。兄もやるときはやるんだね。あ、これって違反にならないの?」


「違反になるのはあくまで実技を教えることです。SPIの対策や問題は先輩プロの方々が動画をe7のサイトにアップしていますし」


 プロが配信するのは舞台のイベントやゲームの実況や攻略だけではない。


 プロ試験の傾向や対策動画も、下位のランカーにとっては貴重な収入源である。


「なにかわからないことがあれば遠慮なくお尋ねください」


「ありがとう!」


「……ああ! 今の私、ご学友から頼られています!」


(いちいち感動する奴だな)


「あ、感動のあまりうっかり忘れていました。心雪さん、e7アプリを立ち上げてくれませんか?」


「あ、はい」


 二人のスマホが近づくと“チャリン”と音がした。


「土曜日の舞台における心雪さんの配当金です」


「え? ええぇ!? 十万eGイーゴールドぉ!」


 eGはe7が発行している電子マネーである。


 1eG=1円としてe7ランドやe7ショップだけでなく、コンビニや星福堂学園内でも使用できるのである。


「で、でも萌衣さん。僕はアマだからお金をもらうわけには……」


「ご安心ください。元々その報酬はスリーピング・サキュバス様へお渡しするつもりでしたが


『そんなはしたお金いらないよ。あ、そうだ、あのドラゴン君のコスプレした子に投げ銭するよ。プロになるには色々と物入りだし、面白かったからさぁ』


と、おっしゃっていましたので、問題ありません」


「……でも」


 来海がフォローする。


「心雪、受け取れよ。サキュバスさんはお前を認めてくれたんだぞ」


「そうだね。ありがたく頂戴するよ」


「……ちなみに来海さんの部分は削除されたため、配信料は発生しませんでした」


「仕方ないわ。アカウントもBANされたし」


「えっ!? そうだったの!?」


「元々放置アカウントだったからな。これを機に新しく作り直すわ」


(……そういうことでしたか。どおりで検索してもヒットしなかったわけですね)


 萌衣は心の中で納得した。


「ちなみに来海さん。本日からトレーニングを行うとが、どのようなことを?」


(だからそれは盗み聞きだろ!)


「ああ、悪い、なにも言ってなかったな。でもフェスまで時間がないから、やることと言えばスタミナをつけるための《ジョギング》と、《体を動かすトレーニング》で、最後に対戦プレイかな」


「ふぅ〜ん」


「思ってたより普通ですね」


「ふふん、ま、楽しみにしてな」


 来海は妖しく微笑んだ。


 ― お昼休み ―


 生徒たちは机を合わせたり、外でお弁当を食べようと中庭へ、あるいは食堂へと足を運ぶ。


「飯だ! 飯だ!」


 来海は弁当箱を机の上に置くと、背後から強い圧力プレッシャーを感じた。


(心雪は中等部から上がってきたんだよな? 友達はいないのか? それとも学長の娘と知れ渡っているから、みんな近寄らないのか? ……ええぃ!)


 来海は机を持ち上げると回転し、心雪の机とくっつけた。


「放課後はミーティングしているヒマはないからな。昼休みをミーティングにするぞ!」


「うん!」


 心雪は満面の笑みで返事をした。


 ……そこへ。


「おや? 今、ミーティングという言葉が弾道ミサイルのようにわたくしの耳に飛び込んできましたが。なら参加するがありますね」


 いつの間にか、萌衣がお弁当と椅子を持って立っていた。


「どうぞどうぞ」


 心雪は相席を勧めた。


「失礼します。あぁ、ご学友とのお昼! これだけでも星福堂に入学した甲斐がありました!」


(いちいち感動するなよ……)


「「「いっただっきまぁ〜す!」」」


 お弁当を食べながら、来海は心雪に古道具屋と遊戯の間のことを聞いてみたが


「う〜ん。僕もリサイクルショップは覗いたぐらいであんまり知らないなぁ」


 そこへ萌衣が声を落としてナレーションする。


『……遊戯の間、そこはこの世のあらゆる遊戯が納められている、遊技者、ゲーマーにとってまさに聖地と崇拝される場所。過去、数え切れない遊技者がそこへ入ろうと挑み、そして朽ち果てた、遊技者の墓場とも呼ばれる場所でもあります……』


「へぇ〜」


(さすがスパイメイド!)


今日こんにちでは、中に入れるのは電子遊戯同好会の中でも選ばれた人のみと聞いたことがあります。ですが今、同好会は活動休止中の為、入れるのは学長様と一部の教職員様、そして、過去に入ったOG様のみだとか……』


「そんなすごいところなんだ!」


(母さんの言うとおり、同好会じゃない俺たちにはあんまり関係なさそうだな)

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