第二十七話 サキュバスの『ざぁ〜こぉ! ざぁ〜こぉ!』とUnlimited Mode宣言

 サキュバスの選んだキャラは、背中に小さいコウモリの羽を付けた小悪魔アイドルの《サッキュー》。


 そして来海は心雪と対戦した時と同じ、デニムのオーバーオールを着たオデブキャラ、グッフー。

 

『MATCH ONE! ROUND ONE! 』


『READ〜Y FIGHT!!』


 1Match目が開始された!


“ドガ! バキ! ビシ! ドゥ!!”


「は、はえぇ〜! 悪魔のキャラの動き、さっきのドラゴンもどきの時とは桁違いだぜ」


「こ、これが、悪魔のスティックさばき! 正に《魔速まそく》!!」


「《神速》とうたわれている、アイス・アイリスさんに勝るとも劣らないぜ!」


 1Matchめはサキュバスの三勝ストレート勝ち。


 そして2Match目。


“ドガガ! ガキッ! ドドス!”


「やっぱ勝負にならねぇか」


「でもよ、オークコスプレ野郎も大口叩く程のことはあるな。1Match目より持ちこたえているぜ」


「なぁに、どうせすぐ力尽きるさ」


 そして2Match、計6Round終了。


 2Match目もサキュバスの三連勝ストレート勝ちであった。


 防御でもわずかにダメージが入る設定ゆえ、サッキューのライフはわずかしか減っていなかったが、それでもRoundを重ねるごとにわずかながらダメージが増えていった。


 サキュバスはゲームを一時停止させると、珍しく相手を挑発する。


『あれ〜ひょっとしてこんなもんなの〜? さっきの威勢の良さはど〜したのかなぁ〜? このままじゃなんの見せ場もなく終わっちゃうよ〜』


『その言葉は、負けフラグどころか死亡フラグですよ』


『ふぅ〜ん、じゃあもっと死亡フラグ立ててあげよっか〜? あ、これは三つの願いにはノーカン(ノーカウント)にしといてあげるね』


 サキュバスは左腕を高々と上げると、


「お、おい、あれって!?」


「オメガ・オークの勝ち名乗りのポーズじゃねぇか!」


『一流と凡人ゲーマーの違いがこれ。《薬指》! こいつを使いこなせないといくら練習しても凡人のままだよ〜。君にはぁ、これが出来るかなぁ〜?』


 来海は何も答えなかった。


『ま、いいや、せっかくこのポーズをとったんだから、たまにはサキュバスっぽい台詞を言って観客にサービスしないとね』 


 サキュバスは立てた薬指をゆっくりと来海に向けると、


『やぁ〜い、オメガ・オークのざぁ〜こ! ざぁ〜こぉ〜!』


『……俺は、オメガ・オークさんじゃありませんよ』


『君がオメガ・オークのコスプレしているから練習させてもらったのさ。ファンを馬鹿にされたオメガ・オークが“ブヒブヒ”怒って、ボクに挑戦してくるかもね。いわば撒き餌さ』


『……そういうことですか。それじゃあ、、三つ目の願い、今いいっすか?』


『いいよぉ〜、なんなら子豚ちゃんみたいに尻尾をくるくる巻いて逃げてもいいよ〜』


『もう一度、コンフィグ画面にしてください』


『ふぅ〜ん、まだやるんだ。でもこれ以上いじったら、ただの接待プレイだよ』


『ええ、接待プレイです。今度は俺が貴女を楽しませてあげますよ。それこそ俺の顔、いや、

くらいに……』


『まぁ〜だそんな口をきけるんだぁ〜』


『今からちょっと表に出せない、文字通り裏技を使いますので、ヘッドセットを俺との《パーソナル通話トーク》モードにして下さい』


 パーソナル通話とは、電話のように対戦相手と直接話すモードであり、観客には聞こえない。


『ふぅ~ん、何やるか知らないけど、三つの願いだから仕方ないか』


 観客たちが首をかしげる中、来海とサキュバスはヘッドセットをパーソナル通話モードにする。


“これでいいかい?”


“ありがとうございます。そちらのスティックとボタンで俺の言うコマンドを入力して下さい”


“そっちじゃできないのかい?”


“e7運営がへそ曲がりでしてね。からじゃないと入力を受け付けないんです”


“ま、いいや、いつでもいいよ”


“まずスティックを動かしますが、入力したら必ず中央へ戻してください。ではいきます。

《左、左斜め上、上、右斜め上、右》

です”


 サキュバスは正確なスティック捌きで入力する。


“できたよ~”


“次はボタンを押してください。《Aボタンを十五回》、《Bボタンを十七回》、最後に《Cボタンを一回》です”


 サキュバスが最後に“ポチッ”とCボタンを押すと、いきなりスクリーンが真っ暗になり、中央に


《Please Wait……》


《Discussing(審議中)……》


と表示され、“おおっ!!”っと観客がどよめく。


だとぉ……ま、まさか、まさか……をやるのか!?」


 モヒカンと数名のベテランゲーマーがスクリーンを注視する。


“なにこれ? ひょっとしてバグった?”


 サキュバスの疑問に来海は答える。


“今頃、eFGのコントロールセンターがe7の本部、いえ《会長》にお伺いを立てている最中だと思います。まだβですが


《Unlimited Mode》


を起動していいか? ってね!”


“!!”


 サキュバスが初めて驚いた顔をする!


そして……。


《The Unlimited Mode [Version β]……Accept!!》


と画面に表示されると


“ビィ~! ビィ~! ビィ~!”


警告音が鳴り響き、照明が赤く点滅する。


 そして


《Start up The Unlimited Mode!! Start up The Unlimited Mode!! Start up The Unlimited Mode!! Start up The Unlimited Mode!!Start up The Unlimited Mode!! Start up The Unlimited Mode!! Start up The Unlimited Mode!! Start up The Unlimited Mode!!  ……》


 画面一杯に《Start up The Unlimited Mode!!》の赤い文字が、次から次へと表示されていった。


『Unlimited Modeガ了承サレマシタ! タダイマヨリeFGハ、Unlimited Modeノ起動ト実行ヲ最優先事項トシマス!』


 合成音声でアナウンスが始まった。


『Sub Generator Start up! ……OK!!』


『Cooling System Full Power! ……OK!!』


『System Board and All Device Overclocking MAXIMUM! ……OK!!』


『Sub HPC(High Performance Computer) Connected! ……OK!!』


『Player Monitor and Big Screen Refresh Rate MAXUMUM! ……OK!!』


『e7 Standard Controller & Gaming Chair Unlimited Mode Setting! ……OK!!』


 そして


『Welcome The Unlimited Mode!!』


『Let's Play and Enjoy! 《The Unlimited World》!!』


とアナウンスされると、まるで何事もなかったかのように、スクリーンは2Match終了後の画面に戻っていた。


「は、はじまっちまったぜ……Unlimited Modeが……Unlimited Worldがよぉ!」


 モヒカンが一人叫ぶと


「お、おい、どうしたんだよ《モッヒー》! さっきからお前おかしいぞ!?」


 ツンツン金髪が肩を掴んで揺らしていると


(そんなかわいいあだ名なのか……)


 周りの観客がツッコんだ。


 モッヒーが語り始める。


「《ツッキー》。近年、格闘ゲーム界ではこんな噂がある。

『格闘ゲームはもう伸びしろがない』

『格闘ゲームはこのまま衰退する』

と……」


「……なにいってんだおめぇ? 《オメガ・オーク呪いの儀式》のやり過ぎで、とうとう頭がおかしくなったのか? 現にこんなに観客がいるのによ」


(コイツらが呪いの儀式の首謀者か?)


と来海はジト眼でモッヒーとツッキーを睨みつける。


「聞け! 例えば弱パンチボタンをオメガ・オークが押そうが、俺が押そうが、キャラのパンチのスピードが変わらない。スティックでキャラを動かしても同じだ」


「はぁ? そんなのゲームだから当たりめぇだろ」


「だが実際の格闘技ではどうだ!? ボクシングの世界チャンピオンのパンチと、俺が自作したオメガ・オークの人形に思いっきり放ったパンチとじゃ、ジェット機とカメ、ミサイルとデコピンほどの差がある。これが長年、


『e-スポーツはスポーツではない』


と世間から蔑まされてきた原因の一つだ」


 観客もモッヒーとツッキーの会話に注目する。


「それに対するe7の回答がこのUnlimited Modeだ! 俺も噂程度しか知らないが、理論上、マッハのスピードでスティックを動かしボタンを押せば、画面上のキャラもマッハのスピードで動き、マッハのパンチやキックを放つと……」


「はぁ? 昭和のゲーム漫画や格闘アニメじゃあるまいし、人間がマッハの動きをできるわけねぇだろ! もしできたとしても、その瞬間、指がちぎれるどころか腕がもげちまうわ!」


「だ、だから、俺も噂しか知らねぇんだよ! だが、なにか……恐ろしい予感がするぜ……」


「まぁいいや。そのUnlimited Modeとやらを、とくと拝見させてもらうぜ!」

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