第二十二話 ユニコーンのエ○チな妄想宣言
ユニコーンはため息をつく。
「あ〜あ、引きこもりのアンタを野に放ったのが間違いだったかな……。
『高専って学校は五年間もウチの娘の面倒を見てくれるのか!?』
って、おじさんおばさんはむしろ喜んでいたけど……」
「ボクも由美子には感謝しているよ。オカルトとゲームとプログラムしか能のないボクを、こんな楽しい世界へと連れて行ってくれたんだからさ」
「……今となっては少し後悔しているわよ」
「おまけにサキュバスのコスプレしてゲームして、由美子と一緒に歌って踊るだけで、みんな喜んでくれるし、お金もたくさん入ってくれるからさ!」
「それを知ったおじさんおばさんは
『裸同然の格好するぐらいならまだ引きこもってくれた方が……』
『いや、あの子が老後の資金を自分で稼いでいると思えば……』
って、葛藤で顔がすんごい引きつっていたけどね……」
「サキュバスのコスプレなんて水着みたいなもんだし、もっとエッチなコスしているゲーマーもいるじゃん!」
「コスよりコスの中身が問題なの! 私ですら……少しうらやましくなるときもあるんだから……」
「ハハハ! でもさ、ラブ・リリィさんやアイス・アイリスさんと同じ
「てかアンタ、冬フェスの《H&H》の決勝戦、ホントにコントローラーが壊れたの? 実は手を抜いたんじゃないでしょうね?」
「ホントだよ。なんで僕がラブ・リリィさんやアイス・アイリスもなしえなかった
《グランドパーフェクトスラム(六ゲーム制覇)》
をわざわざ逃すのさ。それに結果的に、先輩たちの代で何か一つタイトルを獲れたから、e7的にも世代的にもWIN -WINだからいいじゃん」
「はぁ〜。だったらセコンドとして忠告するけど、今年度のフェスは“真面目に”やりなさい。オメガ世代の子たちはオメガ・オークと戦って鍛えられているから、一筋縄ではいかないわよ」
「あ〜そういえば、他校とのスカウト合戦の末、
『暫定一位のダイナミック・ドラゴン君』
はどう?」
「入学式はすごかったみたいね。新入生は女の子が多いって噂があったけど、ランキング四位のメカニカル・マジシャン君やイケメンゲーマーが推薦入学でウチに来るって決まった途端、日本中のIT女子から願書が殺到して、入学式なんて男臭い講堂が女の花園になっちゃったんだから!」
「ハッハッハ! 女子寮つくった甲斐があったじゃん。彼女たちが日本のIT界を引っ張っていくだろうね。あ〜だったら後輩女子を無能な野郎共の毒牙から護るために、学校で“一肌脱ごう”かな……?」
サキュバスは唇から妖しい舌を覗かせる。
「学校でリアルに脱いだら停学ものよ。新入生の女子についてはあたしや先輩方が目を光らせているから安心して。もっとも、ウチの学校に入れば無能な男子ほど、女の子にちょっかいかける暇なんかないだろうけどね……」
サキュバスは大きく伸びをした。
「ふぁぁ〜いいなぁVR-DANCEは。今もゴーグルでミニ舞台のダンスを見てたけど、面白い子がいたよ」
「あぁ、オメガ世代のレイちゃんね。さすが格闘ゲーム部門の上位ランカーだわ。まだプロライセンスは持ってないけど、アマのランカーなんかものともしなかったもんね」
「ん? そのあとにレイちゃんと踊った男の子のことだよ。見てなかった?」
「アンタを探していたから、そのあとは見てないわよ! てか寝てる暇があったらレイちゃんを見習って、ファンサービスの一つでもしてきなさい。格闘ゲームエリアのミニ舞台でも、どこかの上位ランカーがファンサービスしてたわよ!」
ユニコーンは気づかないが、ゴーグルの下のサキュバスの眉毛が“ピクッ”っと動いた
「へぇ〜殊勝な心がけだね。でも、一般ゲーマー相手にしてもつまらないしなぁ〜。どうせ相手するなら上位ランカー……」
サキュバスはゴーグルを操作し格闘ゲームエリアのミニ舞台を映すと、妖しくニヤけた。
「でもアンタがそんなこと言うなんて珍しいわね。その子もアマのランカーなの?」
「い、いいや一般ゲーマーだけど、その男の子……」
サキュバスはゴーグルをずらして、今度は妖しい瞳を覗かせる。
「“あの”星福堂学園の、白い学ランを着ていたよ……」
ユニコーンの眉が少しだけ動く。
「星福堂? あそこの電子遊戯同好会って去年から活動停止していたけど、今年度から復活したのかしら?」
「さぁ、他校の事なんてどうでもいいけどね」
サキュバスは立ち上がるとユニコーンにゴーグルを差し出す
「なんだったらその子のダンス観てみる? リクエストしたらダンスの動画、ダウンロードオッケーしてくれたし」
「咲夜はどこ行くのよ?」
「《お花を摘みに》。大丈夫だよ由美子。ちゃんとeFG内にいるからさ……」
ユニコーンはゴーグルを付け、来海のダンスを観る。
(……彼のオブジェの位置がズレている? 体を再スキャンしてなかったのね。でもオブジェを無視した後半から明らかにダンスが変わった。動きからしてラブ・リリィさんの教室の生徒さんか、あるいは独学か……? ん? このオブジェの位置って……)
VR-DANCE、U18ランキング一位の観察眼は、オブジェの位置から体つきを推測する。
(この体型……どこかで? ……お相撲さん? いや、背が低いし……まぁいいか。もし彼もプロになったら、レイちゃんといい、今年度のVR-DANCEは面白くなるわね……格闘ゲーム部門で退屈している咲夜には悪いけど……)
ユニコーンはゴーグルを外すと、サキュバスはまだ戻ってきていなかった。
(楽しみにしていたオメガ・オークとの対戦も、彼が活動休止しちゃって……。ストレス溜まって素行の悪い男性ゲーマー相手に野試合ばかりしているけど、今年は大丈夫かな……)
ユニコーンではなく、幼なじみの由美子として心配する。
(負けることはないと思うし、ラウンジには警備員や監視カメラがあるから、逆ギレしたゲーマーに襲われる事はないけど、万が一、咲夜が負けたら……)
ユニコーンは、勝った男性ゲーマーにサキュバスが抱かれる姿を妄想する……。
(意外とあの子、肉食系だから……)
ゲーミングチェアに座る男性ゲーマーの上に、黒パンストと黒下着を脱いだ黒セーラー服姿の咲夜がまたがり、サキュバスの名に偽りなく、腰を振っている姿を……。
(なぁに考えているのよアタシは! ……にしても遅いわね……あっ!)
『……ファンサービスの一つでもしてきなさい。格闘ゲームエリアのミニ舞台でも、どこかの上位ランカーがファンサービスしてたわよ!』
『お花を摘みに……』
ユニコーンは自分とサキュバスの言葉を思いだすと
「しまった! もしかしたらあの子!?」
ゴーグルを放り出し跳ねるようにラウンジを出て行った。
再びミニ舞台。
サキュバスの乱入に観客がざわめき始める。
「お、おい、297クレジットって、一体いくらなんだ?」
「一クレジットが一般筐体の十倍だから……」
「エルフさんが出したクレジットを軽く超えているんじゃね?」
「それを一回で支払ったのかよ。やっぱU18ランキング一位は半端ねぇぜ……」
「賞金やグッズの売り上げのロイヤリティーだけでも、オメガ・オークやダイナミック・ドラゴンを軽く超えているって噂だし……」
エルフが颯爽と歩き出すと、舞台の中央で固まるレイの前に立つ。
そしてサキュバスに向かって、つややかな唇を開いた。
『スリーピング・サキュバス様。このイベントはわたくしとマーシャル・メイドがアマや一般ゲーマー様のために設けた場でございます。恐れながら、プロの方の乱入はご遠慮願います』
『レイちゃんが言ったとおり、それはもう終わったんでしょ? だったらボクが使ってもいいんじゃないの〜?』
『それはレイさんたちが乱入して勝手に決めたことです。それに……』
エルフは勝ち誇った顔をサキュバスに魅せる。
『残念ですがこのあと、ツチノコパニックとチンアナゴ抜きのU18上位ランカー様たち対抗、
《スリーS 目隠し&背中&フード&ノーハンド&二人操作特盛りトーナメント》
でこの舞台をお使いになられますので、残念ですが先輩とお遊びすることはできません』
しかしサキュバスもまた、勝ち誇った顔をエルフに魅せる。
『ああ、心配することはないよ。朝までボクがこの舞台を買い取ったから』
『……なっ!!』
『……っと言っても、このあとはさっき君が言ったツチノコパニックとチンアナゴ抜きのランカーの企画しかなかったから、彼らから権利を買ったんだけどね』
エルフは慌ててメイドに目を向けると、すぐさまメイドはタブレットで調べるが……。
『……スリーピング・サキュバス様のおっしゃるとおりでございます』
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