第二十一話 ユニコーンとサキュバスのパ○チラ宣言

 その“モノ”は、黒いセーラー服を纏い、長い黒髪を光らせ、《御殿山》と刺繍がしてある胸元を盛り上がらせ、短い黒スカートに包まれたお尻を揺らしながら、なんの躊躇もなくゲーミングチェアに座ると、黒ストッキングに包まれた脚を組む。


「誰だあれ? イベントはもう終わっ……」

「……まさか!?」

「う、嘘だろぉ! 《御殿山の悪魔》が、なんでここにぃ!?」

「ヤ、ヤベェ……全てにおいてヤベぇぜ!」


 観客のざわめきは恐怖と畏怖へと変わっていく。


(……遅かった)


 まるでメデューサに睨まれたかのようにレイ、キッキー、ブロウ、メイドが固まる。


「……なぁんだ。そういうことでしたの」


 全てを理解したエルフだけは、U15総合ランキング三位のプライドを奮い立たせ、金髪を揺らしながらそのモノを睨み返していた。


 彼らの視線の先に佇むのは、昨年度U18格闘ゲーム部門、総合ランキング一位。


 U18で行われる六つの格闘ゲームの中で、五つの格闘ゲームを制覇したものに与えられる称号、


《グランドペンタスラム》


保持者。


 そして、御殿山高等専門学校三年生の女子高校生。


 ゲーマーネーム、《スリーピング・サキュバス(Sleeping・Succubus)》


 本名、夢路咲夜ゆめじさくやであった。


 サキュバスはスマホを端末の上に置くと


“チャリンチャリンチャリンチャリン……”


 H&Hタイトル右下のクレジットの数字が加速度的に増えてゆき、そして、《297》で止まった。


 そしてサキュバスはヘッドセットのマイクに向かって、全てのオスどころかメスをも魅了するつやを奏でる。


「さあぁ〜坊やたち、お嬢ちゃんたち、3Match3Charaの99回バトル、《33・99(ツースリー・ツーナイン)》を始めましょうかぁ〜!? サキュバスの名の通り、朝まで寝かせないわよぉ〜」


 ― 時は三十分前に遡る ―


 予備のコスプレ衣装に着替えたレイ、そしてキッキー、ブロウは、まるで《悪魔》を刺激しないよう、気配を消し、こわばった表情でラウンジを出た。


「「「ふぅ〜」」」


 三人は揃って息を吐くと、ラウンジに向かってくる一人の女子高校生に気がついた。


 ボブカットの髪に整った顔立ち、


 昭和を思わせる黒いセーラー服の盛り上がりの上には三角の中に《御殿山》の校章。


 だからといってスカートの長さは今風にひざ上十数㎝で生太ももをさらけ出していた。


 なによりモデル顔負けのスタイルと己の体に絶対の自信を持つその歩みは、キッキーの目を釘付けにし、ブロウから見ても隙がなかった。


 三人の顔は再び緊張する。


 通路の両脇に移動し道を空けると、頭を下げ挨拶をする。


 御殿山高等専門学校三年生、本名、都築由美子つづきゆみこ


 ……そして


 昨年度、U18、VR-DANCE部門、ランキング一位のゲーマーへ!


 ブロウが「押忍!」


 キッキーが「ちわーす!」


 そしてレイも


「こんにちは。《アーバン・ユニコーン(Urban Unicorn)》さん」


 ユニコーンは三人の前で立ち止まると


「はぁ〜い。みんなおそろいでこんにちはぁ〜! なぁに怖い顔して〜? 特にレイちゃんはU18のVR-DANCEであたしとしのぎを削る仲だからさぁ〜、仲良くしたいなぁ〜」


 その佇まいと美しさに反し、口調は砕けていた。


「い、いえ、私なんてまだVR-DANCEのプロライセンスを持ってませんし、ユニコーンさんと同じ舞台ステージには……」


「またまたぁ〜さっきのアマのランカーとの対戦ダンス見てたよ〜。観客の目もレイちゃんに釘付けだったし〜。やっぱVR-DANCEはダンスの上手さもさることながら、観客を喜ばせるのが第一だからね〜。あ、これはラブ・リリィさんの受け入れだけどね。こりゃ〜今度のサマフェス、本気出さなきゃ負けちゃうなぁ〜」


「あ、ありがとうございます!」


 頬を染めたレイは再び頭を下げた。


「ブロウ君とキッキー君だっけ? 君たちも素質あるからさぁ〜、VR-DANCEへの参加、いつでも歓迎するよ~」


「押忍!」

「あざっす!」


「あ、ちなみにぃ〜、眠り淫魔ウチのバカ見かけなかった〜? 本部ビルで取材や今度のアマフェスのビデオレターを収録してたんだけどぉ〜、終わったらいつの間にかいなくなっちゃったのよね〜」


 三人はラウンジ内にいた《悪魔》を思い出し、一瞬、言葉に詰まるが、レイが代表して答えた。


「ラウンジで……お休みになっております」


「あちゃ〜! やっぱここにいたのかぁ〜。君たちの顔がこわばっていたのはそのせいか〜!? 大丈夫? 《変なこと》、されなかった!? 特にブロウ君とキッキー君にぃ!」


「いえ、自分らにはなにも……」


「そもそも、俺らなんか眼中にないっすよ」


 ユニコーンは安堵の息を吐き出す。


「よかったぁ〜。とうとう後輩にまでかと思ったよ〜。もしなんかされたらすぐあたしに言ってね。それじゃぁ〜バイバァ〜イ!」


「押忍!」

「お疲れっす!」

「失礼します」


 三人はラウンジへ向かうユニコーンの背中へ向けて挨拶した。


 ― そして、eFG内のラウンジ ―


 三人がけのソファーの一つには、長い黒髪に、ユニコーンと同じ御殿山の校章の黒いセーラー服を着た女子高校生が、顔にVRゴーグルを装着したまま、寝ているというよりは横たわっていた。


 スケベ心に満たされた男性なら、彼女の肢体、特に下半身に釘付けになるだろう。


 なぜならスカーフの下からでもわかるお○ぱいの大きさもさることながら、今の彼女は黒のパンストに包まれた右脚をソファーの背もたれの上に、左脚をソファーの上に折り曲げていた。


 その為彼女の下半身はいわば“ご開帳”状態となり、黒パンストに包まれた黒い下着を惜しみなくさらけ出していたのである。 

 

 その姿を見たユニコーンはつぶらな唇を限界まで開いた。


「《咲夜さくや》! 起きなさい! “また”アンタははしたない格好をして! 脚を閉じなさい! それでもグランドペンタスラムのゲーマーなの? オメガ世代の子たち、顔が引きつっていたわよ!」


「……起きているよ《由美子ゆみこ》。てか、e7の施設内ではゲーマーネームで呼び合うのが暗黙のルールでしょ? “ボク”がU18でデビューしてもう三年目だよ。由美子はボクのセコンドも兼ねているんだし、いい加減ゲーマーネームで呼んでよ……」


「幼なじみを変な名前で呼びたくはないわよ。何? 

《スリーピング・サキュバス》

って?

『オカルト好きだから悪魔の名前にする』

って、悪魔は悪魔でもエッチな悪魔の名前じゃない!」


「いいじゃん、こうしてサキュバスっぽく、脚を開いてパンチラして男を誘惑しているんだからさ」


「パンチラどころか丸出しじゃないの!」


「由美子だって、VR-DANCEの舞台ではパンチラしてるじゃん」


「あれはアンスコ(アンダースコート)よ! 好き好んでパンツ見せているアンタとは違うの!」


「誰かが言ってたな……黒の制服に黒スカート、黒のストッキングに黒パンのこの姿を『ブラックホール大魔王』って。確かこれって、由美子の好きな魔法少女のラスボスの名前でしょ?」


「あたしに言わせれば男性ゲーマーを誘惑して食べる食虫植物よ。ほらほら脚を伸ばして! スカート下ろして!」


「はいはい、でもボクは苗字のとおり“夢魔”だからね。ちょっとゲームが上手いだけで、女の子とエッチ出来ると考えている野郎ゲーマーの夢を叶えようとしただけだよ。ボクに勝てば


『この体を好きにしていい』


んだからさ……」


「その条件が《33・99(ツースリー・ツーナイン)バトル》での勝利? いくらアイス・アイリスさんからここの治安を託されたからって、その条件で挑んできた男性ゲーマーを何人、再起“不能”にしたのよ!?」


「いいじゃんいいじゃん。おかげで素行の悪いゲーマーが掃除できて、運営やアイリスさんも喜んでいたよ。それに、オメガ世代にはかわいい女の子が多いからね。今度はロリコンゲーマーから彼女たちを護ってあげないと……」

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