第二十話 正体明かしと最凶淫魔の乱入宣言

 ― ※ ―


 来海は心雪を格闘ゲームエリア内の休憩所へ連れて行く。


「どうしたんだよ来海? いきなり制服を引っ張って……」


「あぁ、悪い。ゲーマーにとって手や腕は大事だからな。下手に引っ張って痛めることもあるし」


「べ、別に僕は手をつなぐぐらい……」


 心雪はほんのわずか頬を染めるが、すぐに切り替えた。


「……で、作戦会議って?」


「ああ、実はな……」


 来海は説明する。


「心のコスプレ?」


「そうだ。今の心雪じゃ緊張しすぎて対戦どころかミニ舞台に立つことすらままならないぞ」


「う、うん、そうだね……」


「そこでだ、演劇のように自分の知っているキャラの演技をするんだ! 心雪だって学芸会で何か演技したことあるだろう? あんな感じだ」


「なんでそんなことを?」


「演技をすることで心雪じゃない、別の自分になりきれば、緊張感がなくなると思うんだ」


(今思えば、俺もよくオメガ・オークってヒールキャラを演じることができたな……。ま、イケメン陽キャや、ちやほや美少女を馬鹿に出来るのが面白かったってのもあるけど……)


「言っていることは分かるけど……だからといって、そうすぐに何かのキャラになりきるのは無理だよ」


「いいや、なれる! しかも今すぐにだ!」 


「そこまで言うんならやってみてもいいけど……ちなみになんのキャラ? ゲーム? 漫画? アニメ?」


「そのどれでもない! 心雪にしかなれない一番身近なキャラだ! それは……」


「……ええぇぇ〜〜!?」


 ― 格闘ゲームエリア内のミニ舞台 ―


 ……の袖にあるドアはマジックミラーになっており、レイ、キッキー、ブロウはドアの裏から謎の二人組ゲーマーを注視していた。


 ブロウがコントローラー裁きや立ち振る舞いを見て


「……あれは、エレガント・エルフとマーシャル・メイドだな」


 キッキーが男装コスプレ衣装の下から、わずかに浮かび上がる女性の体つきから


「ああ、そうだな。いつも俺をボコボコにしてくれたヤツ(の体)と、この俺にハニトラ仕掛けたヤツの(体の)ことは忘れねぇぜ」


 そしてレイは二人のコスプレ衣装を見て


「あのバカ共なんでエルフが癒やし系の《群城ぐんじょう》君の青い衣装を着てメイドがプリンスリーダーで天然系の《暮内くれない》君の赤い衣装を着ているのよ着こなしは素人だから大目に見るとしてそもそも《ブラック・プリンス》は七人の王子が曲ごとにリーダーとサブを決めるんだけど時には自分のキャラに合っていない曲のリーダーやサブになることもあってそれを他のメンバーが助け合って苦しみや葛藤を乗りこえライブを成功させるのが最高に萌えるのよだけど未だ群青君リーダー暮内君サブの組み合わせは公式では行われていないからコスプレやファンアートですらタブーとされているのにそれをあの二人は勝手に組み合わせてメチャクチャにしてあれじゃ作品の世界観どころか宇宙そのものを破壊するブラックホール大魔王以上の所業じゃない!」


 キッキーが


「……うわぁレイちゃん、めっちゃ早口で怒ってる!」


 ブロウが


「息継ぎも無しでまくし立てるとは、さすがVR・DANCEで鍛えた肺活量だな。さて、あの二人をどうするべきか……」


 レイが大きく息を吸うと一気に吐き出した


「ふぅ〜〜。一般ゲーマーの列が途切れるまで何も出来ないわ。途切れた瞬間飛び出して、マスクを剥がして正体を明かして、なんだかんだ理由を付けて強引に舞台の袖まで引っ張っていくしかないわね」


(どうせなら衣装も脱がした方が、より正体が……)


の言葉をキッキーは飲み込んだ。


 レイは声を落とす。


「そもそもあの二人……ここにがいることすら知らないみたいだし……もし野試合を挑まれたら……」


 ブロウの背中に冷たいものが流れる。


「……そうだな。ラウンジならともかく、ミニ舞台の上で野試合を挑まれたら、同じプロとして断ることは出来まい。そして試合方法はあの御方の十八番……」


 キッキーも舞台の上の二人を見ながら身を引き締める。


「いくらランキングを争うライバルでも、美少女二人が目の前で潰されるのは、ゲーマー以前に男として見て見ぬ振りは出来ねぇ!」


 ブロウが顎に指を当てる。


「しかしだな、どう理由を付けてあの二人を舞台の袖まで引っ張っていくのだ? 舞台での乱入行為は『なんでもあり』のe7は認めても観客は……」


 キッキーが何か思いついた。


「ちょうどここにいるメンバーは今度のH&Hのアマフェスのゲストだからな。

『宣伝の一環のサプライズイベントで〜す!』

と言えば、観客は納得してくれるんじゃね?」


 珍しくレイがキッキーに笑顔を見せる。


「そうね、それでいきましょう。キッキーとブロウ君は二人を押さえて。私はMCになって観客に説明するわ。私はついさっき、VR-DANCEのアマフェスの宣伝もしてたから怪しまれないでしょ!」


 そう言うと、レイはヘッドセットを頭に取り付ける。


 そして最後のプレイヤーとの対戦が終わるとメイドが


『……他に対戦したい方はいらっしゃいませんか? それでは以上をもちまして、本日の対戦を終了させていただきます』


「今だ!」


 キッキーの声を合図にドアが開き三人が飛び出す。


 すぐさまメイドはエルフを護ろうと立ち塞がるが、三人の顔を見て警戒心を解いた。


「エルフ殿すまぬ」


「えっ!?」


 ブロウがゲーミングチェアに座っているエルフの後ろからヴィッグを取ると、まばゆいばかりの金髪が現れた。


「いけませぬキッキー様、公衆の面前でそんな! お望みならお嬢様の目の届かぬところで心おきなく……」


 メイドは両腕で体を抱きしめて身もだえるが、


俺はなにもしてねぇぞ!」

 

 キッキーは両腕を広げて叫んだ。


 ブロウがエルフのヴィッグと仮面を剥がし、メイドはキッキーに触られる前に自分でヴィッグと仮面を取って銀髪と顔をさらけ出した。


 観客の目が見開く。


「謎のゲーマーって、エレガント・エルフとマーシャル・メイドだったんだ!」


「なんであの二人、こんなところで?」


『こんにちは〜! レインボー・レイでぇ〜す。みんなぁ〜、サプライズイベント楽しんでくれたかな〜?』


 レイはぶりっ子口調でMCを始めた。


“サプライズイベント?”


 あっけにとられる観客に向かってすかさずレイがまくしたてる。


『今度のぉ〜ゴールデンウィークの○月○日にぃ〜、《HELL&HEAVEN》のアマチュアフェスが行われま〜す! その宣伝を兼ねまして〜、先日よりゲスト出演者であるエレガント・エルフさんとマーシャル・メイドさんによる、無料の対戦イベントを行ってまいりましたぁ〜!』


『おおおぉぉぉ〜!』


 レイのMCにより、観客が叫ぶ。


「な~んだ、そうだったんか〜」


「セレブお嬢様のエルフさんなら、ミニ舞台のゲームを俺たちに奢ることぐらいわけないよな」


「エルフさん大ファンの俺としては、一生の思い出になるぜ!」


「ああ、エレガント・エルフ様、いつ見てもエレガントで。あの御方と対戦できたなんて夢みたい……」


(どうやらこのまま上手く収まりそうね……)


 納得してくれそうな気配を感じたレイは、いっしょに飛び出したブロウとキッキーに手を向ける。


『アマチュアフェスにはお二人の他に、壇上にいるニット・キッキーさん、ブレイズ・ブローさん、そして私、レインボー・レイもゲスト出演するからね〜! 出場するアマチュアの方、観戦チケットを買って下さった方、そして配信を視聴される方、みんなみぃ〜んな、楽しみしてね〜!』


 ぎこちなくキッキーとブロウは観客に向かって手を振った。


『うおおおぉぉぉ〜〜!』


 しかしエルフは小声でブロウに問いただす。


「ブロウ、貴方、これはどういうこと?」


「エルフ殿、ここはレイ殿に任せていったん舞台の袖へ……」


 そしてメイドはキッキーと腕を組み、胸を押しつける……。


「さぁキッキー様、逢瀬は誰もいないところで……」


「や、止めろ! こんなとこレイちゃんに見られ……たらぁ〜」


 と言いながらも、キッキーの鼻の下は伸びていた。


 場をしめるようにレイはひときわ大きな声で叫ぶ。


『それじゃあみなさぁ〜ん、バイバ……』


“カツーン”

“カツーン”


 レイの唇と舌が固まる。


 ラウンジから目覚め……

 

 視界の左端に映り……


 舞台の階段を上る……


 

《悪魔》によって……。

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