第十話 最強(?)パッドゲーマーの誕生宣言
再び心雪は興奮する!
「ランキング四位の《メカニカル・マジシャン(Mechanical・Magician)》さん!」
(ああ、あの中二病マックスの魔法使いコスプレ野郎か……。なぜかダイナミック・ドラゴンと仲いいんだよな……)
「ランキング六位の《ブリリアント・バード(Brilliant・Bird)》さん!」
(爽やかな顔で俺に向かって毒舌を吐く、腹黒男子アイドルか……)
「最後に女性だけど、ランキング八位の《テリブル・テラー(Terrible・Teller)》さん! 占い師だから女子から人気が高いんだよ」
(俺にいつも死の予言をする女占い師か。でもまぁ、俺は実際に活動休止したから
『見よ! 我の予言通りになったわ!』
と喜んだかもな……ん? これって……)
来海はプロゲーマーの振り分けの理由に気がついた。
「そういわれてみればH&Hは美少女キャラが多いから、野郎人気があるゲーマーばかりだな。ふぅ〜ん、運営もいろいろ考えているんだな……。わかった心雪、とりあえず予選を突破して、
「うん! コテンパンにやられて恥をかくかもしれないけど、プロの力を全身で感じてみたいんだ!」
「わかった、それじゃ当面の方針としては……」
「うん!」
「……いきなり結論を言うと、コーチとして、実力テストが終わる今週末までは、なにも出来ない。部の勧誘も来週からだしな。下手に何かやって学校や生徒会に目を付けられたら、プロテストどころかフェスの出場すら危うい」
「そういうと思ったよ。じゃあ一応自主練として、今まで通りランキングを上げることに専念すればいいのかな?」
「いや、できればログインせず、対CPU戦をしてくれ」
「何で?」
「心雪のステータスの備考欄には、運営から『アマチュアフェス参加予定』と記されているからな。ログインすればフェスに参加予定のゲーマーが次々と対戦を挑んでくるだろう。なにも今からこちらの手の内を明かすことはない」
「で、でも逆に、僕も相手の手の内を知ることが出来るから……」
来海は真剣な眼差しで心雪を貫く。
「……心雪は今まで対戦した相手の中で、強敵と感じた十人の名前とプレイの癖、使うキャラを覚えているか?」
“うっ”っと心雪は言葉に詰まる。
「プロのフェスでは、参加予定者のプレイ内容を研究するのは当たり前だ。アマでも同じことをするゲーマーがいてもおかしくない。水面下ではもうフェスは始まっているんだぞ!」
“ゴクリ”と、昨日に引き続き、心雪は喉を鳴らした。
「……とまぁ、最初だから厳しいことを言ったけど、焦る必要もない。それに、フェス参加者の中で苦手なゲーマーを何人か研究しておけば、最低一人はトーナメントで対戦するだろう。それに勝てば大きい。その頃合いは俺に任せてくれ」
「う、うん。お願いするよ」
「だが問題は……」
「ま、まだ何かあるの?」
「なぁ心雪、いっそフェスは運営が用意した筐体付属のスティックコントローラーじゃなく、パッド型のコントローラーを持ち込んで挑んでみないか?」
「パッドで……?」
「そう、それなら胸も邪魔にならないし、現にパッドでアマの九十七位まで行ったんだからさ。e7公認のゲームパッドもあるぞ」
「う〜ん、アマの中にはパッドにこだわる人もいるけど、プロのランカーで使っている人がいないから……」
― 『格闘ゲームはスティック型コントローラー』
これは格闘ゲームが生まれてから語り継がれる不文律とも言える。
パッド型コントローラーにも親指で操るスティックが装備されているが、キャラの動きや技のきまり具合は五指で操るスティック型に及ばないのが通説である。
さらにボタンも親指が主であるパッドに比べスティック型は五指で素早くボタンを押せるので、攻撃や防御が出しやすいメリットもある ―
「そうか……。とりあえずお前のパッド、見せてもらっていいか?」
「いいよ」
(ん? これって、見たことあると思ったら姉貴も使ってた初期型!? しかもブルートゥースの規格が古いヤツ!?)
「ちょっと使っていいか?」
「いいよ」
来海は自分のスマホに接続してH&Hをプレイすると
"カチャカチャ……"
(なんだこれ!? 接触が悪くて強めに押さないと反応しねえ! しかもコンマ数秒入力ラグもあるから、キャラの動きを先読みしねぇとまともに戦えねぇ!?)
「心雪、本当にこのパッドでアマの九十七位まで登ったのか!?」
「うん、それは店長さんがくれたんだ。娘さんのお古だって。『かおる』、『かおり』さんかな? 裏に薄く漢字一文字の名前が残っているけど……」
(百合香姉さんのか!? どんだけ昔のヤツあげているんだよ!? まぁ親父は最近のハードやゲーム事情はからっきしだからな……)
「心雪、俺のヤツ貸してやるから、ちょっと対CPU戦やってみな」
「うん、ありがとう」
スマホに挟み込む来海のコントローラーで、心雪は対CPU戦をすると、
「えっ? 何これ? スティックが軽すぎて技が決まらない!」
「心雪。指に力を入れず、技の入力だけに神経を集中してみな」
……すると。
「あ、技もサクサク決まるようになった! ボタンも軽いし、さすが来海。このパッドは特別製なんだね」
(俺にはいまいち使いにくかったけどな)
「いや、今はそれが普通なんだ。それに、心雪のコントローラーは古い上にガタがきていたんだ」
「えぇ!? そうなの!? でもこれならパッドでもいいかなぁ」
「わかった。明日にでも俺が持っているe7公認のパッドを貸してやるよ」
「……いいの?」
「ああ、これもコーチの仕事さ。そういえば心雪、昨日、初めてやったレトロゲームで最高点出したって言ってたよな? なんてゲームだ?」
「ちょっと待って。確か嬉しくてスマホで写真撮ったんだ……。ああ、これこれ、《アンドロメディアン》だ!」
ゲーム画面には『1:KOYUKI.H』と表示されており、そして
(『2:ZZZZzzzz』って俺じゃないかぁ!? プロになってから親父の店のレトロゲーはやってないけど、まさか心雪に更新されるとは……)
「なんか僕には先読みの才能があるって。店長さんからはロボットアニメのなんかにちなんで、《ニューゲーマー》って呼ばれたけどね」
(……格闘ゲームは新しいほどモーションキャプチャーを使ってより細かい人間の動きを再現する。たとえ入力ラグがあっても、キャラのほんのわずかな動きで技を先読みしていたのか……)
「……なぁ、ちなみに心雪はどんな習いごとをしてたんだ」
「う〜ん、茶道、華道にピアノ。競技カルタと弓道もやってたけど、胸が大きくなっちゃたから中等部の時に辞めちゃったけどね」
(全部指先を使うヤツじゃないかぁ! こりゃ、ひょっとしてひょっとするかぁ!? スティック型を信奉するゲーマー供よ。お前らの度肝を抜かしてやるぜ!!)
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