第九話 オメガ世代と対戦宣言


 ― 翌日 始業式 ―


「おはよう、来海」

「オッス、心雪」


 昨日と違い満面の笑みで挨拶する心雪に向けて、来海もまた笑顔で挨拶を交わした。


(ああ、いいなぁ。これだよ俺が求めていた学園生活! フェスの控室に入ったら人を豚以下の目で見る、どこぞの兄貴とはえらい違いだ……)


 挨拶一つで来海はこの世の春を、リアル季節とともに謳歌していた。


 椅子に座った来海は後ろの心雪に話しかける。


「なぁ心雪、今日は部活紹介があるけど、電子遊戯同好会が活動停止中なら、自分でゲーム同好会を立ち上げる気はないのか? そうすれば他校とも練習試合が出来るぞ」


「新しく立ち上げるのには部員が最低五人、おまけに、部員の誰かが既に実績を上げていないと認可されないんだ。練習試合はしたいけど、今はプロになることに集中したいね」


(どのみち心雪ならたとえ同好会を立ち上げても、姉貴みたいにバカな真似はしないだろう……しないよな!?)


 ― 来海の姉、百合香と綾女は、同好会の部長になると部員を引き連れ、他校のゲーム同好会へ赴き練習試合という名の、《野試合のじあい》を行っていた。


 お嬢様高校の星福堂学園からの申し込みと聞いた他校は、諸手を挙げて歓迎し、男子のみならず女子までも“わいのわいの”と見物に訪れたが、そこで行われたのは殴り込み、カチコミ、道場破りと形容するのがかわいいほどの蛮行だった。


『星福堂学園が通った後は、RF端子すら残らない……』


 夏フェスの時、学園の名前を聞いた観客たちがどよめくほど、星福堂学園の恐ろしさは知れ渡っていたのである……。―


 始業式後に、元、電子遊戯同好会の部員だった生徒会役員の挨拶が始まった。


(はぇ〜さすがお嬢様校。会長さんをはじめ生徒会役員の人は美人ばかりだな。……ゴメンな生徒会の皆さん。俺の姉貴たちがバカやったせいで……。あのまま同好会にいたら内申点が悲惨だからな。この俺ですら、プロになる前も後も、弟だって公言しなかったし……。人生の一発逆転のために生徒会役員に立候補した気持ち、よくわかるぜ……)


 そして部活紹介。


 来海は


『男子の新入部員も歓迎します!』


と叫ぶ各部の部長の演説を


(ただしイケメンに限ります!)


と、心の中でひたすら突っ込んでいた……。


 ― ※ ―


 下校時間になり、来海は机を持ち上げ、後ろの心雪の机にくっつけると、開口一番。


「オホン。ではこれより、第一回……特に議題も考えていないけど、ミーティングを始めます」


"パチパチパチパチパチパチ!"


 心雪が笑顔で拍手する。


「コーチを引き受けるに辺り、最初に心雪に確認しておきたいんだが……」


「うん、何を?」


「アマチュアフェスではどの辺りまで勝ち進みたいんだ? 俺はアマのフェスはよく知らないんだ」


「僕の目標は予選トーナメントを勝ち抜いて、決勝トーナメントに進みたいね」


「ふむふむ」


「決勝トーナメントは四つの予選ブロックの勝者四人と、ゲストで呼ばれたプロの上位ランカー四人が、舞台ステージの上でトーナメントで戦うんだ」


「はぁ!? そんなの、プロが勝つに決まっているじゃないか!?」


「アマの大会はそんなもんだよ。下手にアマだけで頂点を決めると、出場していない人からのヘイトが集中するからね。アマのフェスは四天王を決めるフェスで、決勝トーナメントはフェスと同じ舞台の上で、プロと戦えるご褒美って言った方がいいのかな?」


「ふぅ〜ん。アマはアマなりの事情があるんだな。ちなみにプロは誰が出るんだ?」


 心雪はこのときとばかり興奮する。


「それがすごいんだ! アマフェスはU18からプロになりたい人向けのフェスだから、出場者は僕らと同年代が多いけど、プロもU15からU18へ移行する上位ランカーさんなんだ」


(……いやな予感)


「まずは昨年度総合ランキング九位の、《レインボー・レイ(Rainbow・Ray)》さん!」


(ああ、あの七色の魔法少女のコスプレをした……《レインボー・プリンセス》ってアニメのファンとか言ってたな……)


「そして、ランキング七位の、《ブレイズ・ブロー(Blaze ・Blow)》さん!」


(炎をあしらった胴着を着たマッチョか。コイツは無口だから、特に俺に対してどうこう言っていなかったな……)


「次に、ランキング五位の、《ニット・キッキー(Knit ・kicky)》さん!」


(ニット帽に丸目グラサンのストリート野郎か。なんだ、このメンバーなら特に俺へのきついヘイトは感じていなかったし、俺が出場しても……って、活動休止中だったな……)


「そして最後は、ランキング三位の、《エレガント・エルフ(Elegant・Elf)》さん! さらに出場はしないけどお付きのメイド兼セコンドのランキング十二位、《マーシャル・メイド(Martial・Maid)》さん!」


(ダイナミック・ドラゴンと並んで、女子ゲーマーの中で俺へのヘイトMAXな二人組じゃないかぁ!? よかった出場しなくて……)


「以上! 《オメガ世代》の方達なんだ!」


「オメガ……世代?」


「うん! オメガ・オークさんをはじめ上位ランカーさんは近年にない強豪揃いって言われているんだ! 先月にU18とU15を卒業する方達で《卒業フェス》が行われたけど、格闘ゲーム部門だけ、U15が勝利したんだ! 兄のダイナミック・ドラゴンも……まぁ、多少は貢献したけどね……」


(ふぅ~ん、でもU18の卒業世代は逆に近年にない弱小って言われていたからな……。だからフェスでは一つ下の、ランキング一位の《淫魔》にコテンパンにやられたんだろうけど……)


「へ、へぇ……か、かなり豪華なメンバーじゃないか。やっぱ将来のプロへ向けて、運営からのサービスってヤツか?」


「うん! アマの大会のゲストは、ほとんどランキング一桁の人なんだ。なぜかオメガ・オークさんは今まで出場したことないけど、やっぱりトップだからスケジュールがびっしりなんだね」


(……ちょっと待て。アマの大会のゲストオファーなんて今まで来なかったし、そもそも、上位ランカーがアマのフェスでゲストで呼ばれること自体、今、初めて知ったんだが……)


「ん? ダイナミック……いや、お、お、お兄“様”は出場しないのか?」


(ぐわぁ〜! 鳥肌がぁ〜!)


 来海は心の中で一人悶えていた。


「気を使わなくていいよ。兄は翌日のスリーS、《Sword Spirit Story》のアマチュアフェスにゲスト出演するんだ。スリーSはイケメンキャラが多いから、ゲストも……約一名認めたくないけど、女性人気の高いゲーマーがゲストで出場するんだ」


「例えば?」

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