第二十四話 心雪の変身と、オメガ・オークスペシャル宣言
顔を上げた来海は辺りを見渡すが、
(あれ? もう終わっちまったか? だけどこの後ってツチノコパニックとチンアナゴ抜きのランカーさんたちの面白企画のはずだから、ガチの格闘ゲーマーの観客がこんなに集まるとは思えないけど……)
来海は息を切らしながら大声で叫ぶ。
「ハァハァ……あの〜すいませ〜ん! 謎のゲーマーさんとの対戦企画って、ハァハァ……もう終わっちゃいましたかぁ〜?」
『いえ、まだ終わっていませんよ。どうぞ舞台の上へ。恐れ入りますが観客の方々、道を空けてください』
(ん? この声はレインボー・レイだよな。何でメイドの代わりにMCしているんだ?)
「心雪、まだやっているってよ。全く、コスプレしないと演技が出来ないどころか、一人じゃ恥ずかしいからって俺までコスプレさせやがって。おかげで走って貴重なスタミナが……おい、大丈夫か?」
「ハァハァ……だ、大丈夫だよ来海。そ、それより、来海のおまじない……ハァハァ……早くしてよ」
「わかった。それじゃあ体を起こして、そんで、目を閉じろ」
「う、うん」
来海は小声で呪文のように呟く。
「いいか……
『今からお前はダイナミック・ドラゴンだ……』
『今からお前はダイナミック・ドラゴンだ……』
『今からお前はダイナミック・ドラゴンだ……』
いくぞ!」
来海は左手を心雪のおでこへ近づけると……。
“ピン!”
左薬指でデコピンをした。
「……ま、これだけだ。気休めだけどな。ようし! いくぜ!!」
その声に心雪の目は開き、マントを
「淑女紳士の方々、お待たせした! 孤高の竜! 至高のドラゴン! そして、究極のゲーマーを目指す男! ダイナミック・ドラゴン! ここに舞い降りる!!」
ダイナミック・ドラゴンの口上を叫んだ!
無言で目を見開く来海と観客……。
そして次の瞬間!!
『ウオオオォォォ〜〜!!』
『ド〜ラゴン! ド〜ラゴン! ド〜ラゴン!』
eFGを揺らすような歓声が、火山の噴火のように沸き起こった!
(な、なんだ、こいつ……。まんまあのクソドラゴン野郎じゃねぇか〜!? コスプレするぐらいなら死んだ方がマシだと言ってたくせに、ノリノリじゃねぇか!!)
しかし、来海は右手で拳を握ると……、
(……あ〜演技で誇張してある分、モノホンのダイナミック・ドラゴンを思い出してムカついてきた〜!)
まるで海を割るように観客の真ん中に道ができ、心雪はその中を歩き、来海も心雪の分のリュックを持ち、後をついて行く。
(しっかしなんでこんなに観客が? 百人どころじゃねえぞ?)
舞台の向かって右の椅子に座る人物を見て来海は驚愕する!
(
そして目の前を歩く心雪の背中を見る。
(偽物だとバレても淫魔やエルフたちには素人のやらかしで笑って済ませられるが、観客を怒らせたらブーイングの嵐だぞ……どうする?)
「ダイナミック・ドラゴン様!」
少女が心雪に話しかける。
「……どうしたんだい? お嬢様?」
「ぶ、舞台の上で、あ、悪魔が暴れているんです! レイ様やエルフ様が危険な目に……あっ」
心雪は少女の顎に指を添えると軽く持ち上げた。
「遅くなって申し訳ない。怖い思いをさせてしまったね。でも、俺が来たからにはもう大丈夫だよ」
その瞬間、来海は確かに見た!
二人の間に百合の花が咲き乱れているのを!
(まさか百合香姉さん以外に、“百合”の花を咲かせるヤツがいるとはな……)
少女は
“はにゃぁ〜ん”
と顔の血液が沸騰し、今にも倒れそうであった。
(ここまで観客からダイナミック・ドラゴンって思われちゃ、今更引き返せねぇか……。しゃぁない、地獄の底まで付き合うぜ! 心雪!)
今度はモヒカンの男が話しかけてきた。
「ダ、ダイナミック・ドラゴンさんよぉ、お、俺はあんまりあんたが好きではないが、頼む! あの悪魔をぶっ倒してくれぇ!」
心雪はモヒカンの両肩にそっと手を置く。
「
その瞬間、来海は確かに見た!
二人の間に薔薇の花が咲き乱れているのを!
(あ〜もう、好きにしてくれ!)
そして決めポーズである、人差し指と中指を顔の横で軽く振ると、再び舞台へ向けて歩き出した。
立ち去る二人を見ながら、モヒカンの友人であるツンツン金髪がモヒカンに声をかける。
「ダイナミック・ドラゴンって、意外と
モヒカンは少女のように目を輝かせ頬を染める。
「……俺、何かに目覚めたみたい」
舞台の正面に立つと来海がレイに尋ねる。
「あの〜俺たちはどちらに行けば?」
「向かって左の席へどうぞ」
「よろしいんですか? そっちってプロの方や格上の人の席ですが……?」
レイの返答を待たず、心雪が左の席へと歩き始める。
「お、おい!」
「王者の席は、この俺にこそふさわしい!」
心雪は舞台の左側の階段を上ると、ゲーミングチェアの後ろに立つ。
しのぎを削ったオメガ世代には目もくれない心雪を、エルフたちはいぶかしげに眺めていた。
「ダイナミック・ドラゴン様、オメガ・オーク様、ヘッドセットをどうぞ」
メイドが二つのヘッドセットが載ったトレイを差し出した。
「かたじけない!」
「ありがとう……ございます」
二人がヘッドセットを付けると、ここでやっとサキュバスの唇が開いた。
『ねぇ〜その子、本当にダイナミック・ドラゴン君? 本物っぽいけど、何か微妙に違くない……?』
(やっぱ淫魔の目はごまかせないか……。同僚のゲーマーには目もくれないし、モノホンのダイナミック・ドラゴンなら、俺以外の格上ゲーマーには礼儀正しく挨拶するからな。だったら、正体を明かすのは今か……)
来海はヘッドセットのマイクへ向かって口を開く。
『あ〜実は俺たち……』
被せるように心雪も口を開く。
『我はダイナミック・ドラゴンにあらず!』
(なんでぇ、自分からぶっちゃけやがった。これで説明する手間が省け……)
『過去の俺とはすでに決別した。今の俺はU18格闘ゲーマーとして生まれ変わった……』
心雪はマントを翻しながら観客の方へ向き直ると、再び広げた右手を突き出した!
『スーパーダイナミック・ドラゴンだぁ〜!!』
『ウオオオォォォ〜〜!!』
『ド〜ラゴン! ド〜ラゴン! ド〜ラゴン!』
再び沸き起こるドラゴンコール!
そして心雪は堂々と、ゲーミングチェアに腰を下ろした
(あ〜〜もう! なんなんだよコイツは~!? おっと、舞台の筐体の使い方を教えねぇと……)
来海はマイクのスイッチを切ると
「心雪、まずはスマホでe7のアプリを立ち上げて、ここの端末に置け」
「うむ」
心雪がスマホを置くと、巨大スクリーンには
》UserName : Snow Spirit
さらに、
》Category:Fighting Game
》Amatuer Overall Ranking : 97
と表示された。
「「「えっ!!」」」
観客が同じ声を発する。
「な、なんだぁ? 」
「あいつ、ダイナミック・ドラゴンじゃねぇのかよ?」
「しかもアマの総合97位って……?」
しかし、顎クイ! をされた少女は
「でも、すごいキレイな人だった……」
心雪に目が釘付けとなり、モヒカン頭は
「な、なんでぇ、俺の純情を返せ!」
見当違いの落胆をしていた。
ヘッドセットを付けた来海が、謝罪と説明をする。
『あ〜皆さんすいません。こいつがダイナミック・ドラゴンさんによく似ているので、コスプレさせて物まねさせたんです』
『まぁそんなことだろうと思っていたよ。そんじゃあ始めようか?』
サキュバスの声を来海が制する。
『ちょっと待ってください、コイツ、ゲームパッド派なもんで』
観客がどよめく。
「おいおい、格闘ゲームで悪魔相手にパッドで闘うなんて、身の程知らずじゃねぇ?」
「まぁまぁ、ここはお手並み拝見といこうぜ。アマのランカー様ならそこそこやるかもよ」
来海は、学ランのポケットからパッドを取り出し、筐体のUSB端子に差し込むと、スクリーンに仕様が表示される。
》Checking……OK
》Product : Magicool Co.Ltd
》Controller Name : Magical Pad@e7
「意外といいの使っているな」
……そして
》Special Tuning : OMEGA ORC Special
》Serial Number : 099
と表示されると
「「「なんだってぇぇ〜〜〜!!」」」
再び観客が同じ声を叫んだ。
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