第十三話 オメガ・オークの行方不明宣言
ナレーションは続く。
『そして春と言えば、さまざまな競技でアマチュアフェスが行われます。参加者はプロランカーを目指して参加するアマチュアのみならず、異種ゲームのプロランカーが道場破りのごとくアマチュアで参戦するのも楽しみなところ。その中でも今回ご紹介するのは、VR-DANCEのアマチュアフェスに参加する《レインボー・レイ》選手です!』
巨大ビジョンには七色の魔法少女のコスプレをした、レインボー・レイが現れた。
「えぇ! レインボー・レイさんって、僕が出場するH&Hのアマフェスにゲスト出演する人だよね!?」
(そういえばU18に昇格したらVR-DANCEに参戦したいって言ってたな……)
『レインボー・レイ選手は昨年度、U15格闘ゲーム部門においては総合ランキング九位の上位ランカー。しかし、今回のフェスではアマチュアとして、予選トーナメントからの出場! その実力は未知数ですが、目が離せないダンスを
「すごいな。上位ランカーなのに新しい競技に挑戦するなんて……。それに、ダンス系ゲーマーの人って、体つきからして違うんだなぁ……」
心雪がレインボー・レイと自分の体を見ながらため息を漏らすが、来海は……。
(俺だって現役時代、自分でテーマ曲を作ったら、
『それに歌詞を付けて歌って踊れ』
って命令されてPVをつくらされたからな……。しかも俺だけ別撮りで……。ま、おかげでアンチがダウンロードしてくれたりカラオケで歌ってくれたから、多少なりとも印税が入ったけど……)
心雪はアマフェスが行われる、観客収容人数二千人ほどのミニドームを見上げながら、まるで独り言のように呟いた。
「……三週間後、僕はこの中でアマのランカーたちと戦うんだよね。今までモニターや配信でしかドームを見たことなかったのに……。なんか不思議な気分だよ」
来海は何も答えなかった。
「……来海。学校で聞けなかったこと……今ここで聞いてもいいかな?」
「ああ……」
「……去年の夏、ここの大ドームでオメガ・オークさんは活動休止してウチの学校を受験するって宣言した。僕は嬉しかったよ。雲の上の人だけど、いっしょにゲームできたら最高だなって……」
(今になって……か。てっきり入学式の時、俺が付き人と知った時点で聞いてくると思ってたが……)
「でも、学校にはオメガ・オークさんはいない。オメガ・オークさん自身もe7公式も何も発表しない。受験をした男子や入学式の時、学校の周りを偵察した人たちのSNSにも、オメガ・オークさんらしき人は見てないって書いてあった……」
(そうか、試験の前にやたらキョロキョロするやつがいたり、入学式のドローン警備はその為だったのか……)
「来海。オメガ・オークさんは今どこで何をしているの? 一番近い君なら知っていると思うんだ。もちろん口外しないしネットにも書かないよ!」
わずかな沈黙の後、来海の口が開く。
「……悪いな心雪。実は俺、去年のサマフェスが終わった時点でクビになったんだ。だから、それ以降のことはわからないんだ……」
「えっ? じゃあ追い出しフェスは?」
「あの人一人で全部準備したのか、他の人を雇ったのかはわからない。でもあの人が倒れたとき、俺はなにもできなかった……」
「……」
「メールやSNSを送ってもなんの反応もない。最後の望みをかけて、俺も星福堂学園を受験したんだ。でも、あの人はいなかった……」
「ゴメン来海。つらいこと聞いちゃって……」
「いいさ。俺も誰かに話せてスッキリしたよ。んじゃ、ゲームエリアへ行くか!」
「うん!」
― ※ ―
二人はゲームエリアへ歩いて行くが……。
「あれ? 来海。ゲームエリアはここじゃないの?」
心雪は西洋のお城のような建物の前で来海に声をかけるが
「そこはクレーンゲームやメダルゲームがある一般用のゲームセンターだ」
来海たちは黒い立方体で所どころ蛍光色の光が移動している、サイバーな雰囲気の建物へと向かう。
「なんか、SF映画に出てくる遺跡やオーパーツみたいだね」
「ここが《e7 Fighting Genesis》! 通称、《eFG》だ! 格闘、VR-DANCE、FPS(First Person Shooting)にRTS(Real-time Strategy)、射撃にレース、《ツチノコパニック》から《チンアナゴ抜き》まで、e7が主催するすべてのゲームがここにあるぜ!」
― ※ ―
《ツチノコパニック》とは、地面から顔を出すツチノコをハリセンで引っぱたくゲームであるが、顔の向きや叩く方向や力によって得点が違うため、瞬時の判断力が求められるゲームである。
《チンアナゴ抜き》とは砂から顔を出すチンアナゴを、グローブで掴んで上に引き抜くゲームで、こちらも首の角度や方向によって得点が違うため、こちらも瞬時の判断力が求められるゲームである。
両方のゲームも子供に人気があり、幅広い年齢層のプロゲーマーが存在するが、賞金やスポンサー、配信での投げ銭が少なく、専業プロゲーマーは数えるほどである……。
両ゲームのファンである来海は、あえて名前を出し、布教活動に努めたのである。
― ※ ―
中に入ると二人は一路、格闘ゲームエリアへ向かうが、
「ねぇ来海、あそこのエリアでは、みんなゴーグルを付けて踊っているね? 何のゲームだろう?」
「VR世界の中で踊る《VR-DANCE》だ。ほらさっき、ドーム前のビジョンで明日フェスがあるって言ってただろ」
「え!? あのレインボー・レイさんがアマフェスに出場するってゲーム?」
「そうさ。ちょっと覗いていくか?」
「うん!」
エリアを見て回っていると、舞台の前で多くの人が集まっていた。
「来海、なんかあそこ、すごい人が集まっているけど?」
「ん? ああ、あそこは各ゲームエリアごとにあるミニ
「イベント?」
「新しいゲームが入荷したり、バージョンアップすると、メーカー専属のプロゲーマーがあそこでデモンストレーションするんだ。あとは……プロが誰かと対戦しているかもな?」
「プロが対戦!」
「各ゲームエリゲームエリアのミニ舞台では、よくプロ同士が対戦するんだ。フェス前の調整とか、顔を売るためにな。そもそもミニ舞台は、プロライセンスを持っていないと使えないんだ」
「来海! 観に行こうよ! ジャンルは違うけどプロのプレイを間近で見れるチャンスだよ!」
「お、おい! 走るんじゃねぇ!」
(たく、お○ぱい以外ホント子供だな……)
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