第二章 僕チン、僕っ娘のゲームコーチ宣言!

第五話 イケメン主人公へ勝利宣言

 「た、たいふぇん? あ、あぁ、ぶべっつにぃ、いいいぃ〜けどっど……」


 突然のゲームの誘いに、来海の方がコミュ障となっていた。


(なんだ? 教室では仏頂面だったけど、いきなり俺の領域エリアに踏み込んできやがって……もしかしてこいつ……姉貴たちが読んでいるBLってヤツか?)


 スマホ同士をリンクさせると、冬梅は来海に尋ねる。


「ところで、対戦形式はどうしようか? 実は僕、リアルであまり対戦したことないから……」


「メニューにある、《3match&3chara(スリーマッチ&スリーキャラ。通称:スリーエムスリーシー)》で。どうせなら“本格的に”やろうぜ」


 ゲームのこととなると、来海は落ち着きを取り戻していた。


「……君、eスポーツ団体のe7を知っているの?」


「ま、ゲーマーとして、たしなみ程度にはね」


 ―《3match&3chara》とは、e7の格闘ゲーム部門における対戦形式の一つである。


 最初に双方、自分が使う三つのキャラの順番を決めるが、同じキャラは使えない。


 1match目はどちらかが三勝した時点で終了。

 2match目は双方キャラを変えて同じように対戦。

 3match目も同様である。


 格闘ゲームにおいて各キャラの強さは同等とメーカーは公式に見解するが、やはりキャラによっては相性、得手不得手がある。


 自分の得意キャラと相手が使うであろうキャラとの相性を考えて、三つのmatchに使うキャラの順番を決めるのである。―


「ふぅ~ん。最初に言っておくけど、僕はそこそこ強いよ。こう見えても格闘ゲーム部門のアマチュアランカーなんだから」


「おお、すげぇじゃん。ちなみに何位?」


 冬梅は得意げにスマホに映し出された自身のステータス画面を見せる。


 そこにはゲーマーネーム《Snow Spirit》、雪だるまのアバター、各キャラの勝率、技の成功率等、そして

《格闘ゲーム部門 アマチュア総合ランキング 97位》

と表示されていた。


 わずかな沈黙が二人の間に流れる。


「あ〜馬鹿にしたなぁ! ここまで上げるのにどれだけネット対戦で苦労したか! それにプロもアマもランキング二桁なら《ランカー》って名乗ってもいいんだよ!」


「いやいやいや、《百位の壁》を突破しただけでも十分すごいよ」


 ―アマはそれほど厳しくはないが、プロゲーマーには《総合順位の壁》が存在する。


 U15格闘ゲーム部門なら、四ゲームにおける総合順位が百位以内ならランカーを名乗れ、さらに五十位前後ならスポンサーが付く可能性があり、二十五位以内なら上位ランカーと呼ばれ、大会やイベントの招待権やシード権を得ることが出来る。


“二十五位で上位ランカーを名乗れるの?”


とお思いだろうが、あくまで総合順位であり、このクラスになると、一つか二つのゲームはランキング一桁の力を持っているのである。―

 

「キャラ決まった?」


「おう」


 1match目、冬梅は薄桃色の忍び装束をまとった、オールマイティーなくノ一キャラ、《霧乃きりの》。


 対する来海は、デニムのオーバーオールを着たおデブキャラの《グッフー》。


「グッフー使いは珍しいね。いいの? リーチの長い霧乃との相性最悪だけど?」


「負けたときの言い訳さ」


「……それじゃ、目にもの見せてあげるよ」


「お手柔らかにたのむぜ」


(なんかコイツのこと、ラノベの主人公どころか、最初に主人公に倒されるイキリ野郎に思えてきたな……)


 険しい顔つきの冬梅は、スタートボタンを押した。


『MATCH ONE! Round ONE! 』


(おっといけねぇ。んじゃ半年ぶりに、『オメガモード。発動!』)


“ピン!”


 来海は左手の薬指で自分の額に軽くデコピンした。


(相手はアマだ。このコントローラー自体がハンデみたいなもんだが、それでもできる限り力をセーブしねぇと……)


 自己催眠にかかったように、来海の顔から表情が消え、顔の脂肪こそないが、オメガ・オークの闘う顔つきだった。


(?)


 冬梅は来海から漂う気の変化に気づく。


『READ〜Y FIGHT!!』


"ビシッドシュガシッシャラララ〜"

霧乃『朧三日月おぼろみかづき!!』


"ドギュドガッバキュ〜ンボヨヨォ〜〜ン"

グッフー『ストマックボンバ〜!!』


 結果は……。


「……そ、そんな……こ、こんなことって……?」


 目を見開いた冬梅のスマホの画面には『You Lose!』の文字が表示される。


「いやぁ、さすがランカー、お強い! 3match中2match勝利しちゃうんだからなぁ!」


 わざとらしくニヤける来海の画面には、『You Win!』の文字が表示されていた。


《3match&3chara》のもう一つのルール。


 それは、勝利条件が二つあること。


 一つ目は、3match中2matchで三勝すること。


 そして二つ目は、《総勝利数》が相手を上回っていれば、たとえ相手が1,2matchで三勝しても、自分の勝利となるのである。


 そして二つ目の勝利条件の方が優先されるのである。


 今回の試合では1match目。


冬梅:三勝 来海:二勝


で、冬梅が1match目を勝利。


 2match目も同様に


冬梅:三勝 来海:二勝


で、冬梅が2match目も勝利しても、


 3match目で


冬梅:ゼロ勝 来海:三勝


すれば、たとえ冬梅が2match勝利しても、全体の勝利数は


冬梅:六勝 来海:七勝


で来海の勝利数が多くなり、ゲームの勝者は来海になったのである。


 これは上位ランカーが新人プロゲーマー相手によく行う作戦である。


 1matchと2matchは自分自身の体力と精神力を温存しながら相手を観察し、なおかつ、四勝六敗して観客を沸かせつつ、3match目で一気にボコボコにし、対戦相手に致命的なトラウマを負わせる意味もあった。


「も、もう一回!」


「いいぜ」


 何度やっても結果は同じであった。


 冬梅は2match取るが、全体の勝利数は来海が上回り、冬梅の画面には『You Lose!』の文字が幾度となく表示されていた。


 しかも来海が使うキャラは、冬梅の使うキャラとの相性が悪いのばかりであった。


(さっきちらっと見たとき、こいつの使いそうなキャラを予測しておいたからな……)


 活動休止していても、元ランキング一位の戦闘力は伊達ではないのである。


「ハァハァハァ……」


 度重なる敗北と疲れで、冬梅は汗びっしょりな顔でうなだれてしまった。


 心雪はチラッと横目で来海を見ると目を丸くする。


(ちょっとやり過ぎたかな……。って、すごい桜の花びらだな。


 来海の体には頭や体中に桜の花びらが雪のようにくっついていた。


「……ねぇ君、もしかして、《接待プレイ》をした?」


(気づかれたか。無理もない、接待プレイなんて初めてやったようなモノだからな……)


 接待プレイとは、相手に勝たせ、なおかつ手を抜いたと気づかせないプレイのことである。


『僕チンは下位ランカーのアリンコと対戦するときでも、容赦なく踏み潰しちゃうんだからね!』


 ヒールゲーマーであるオメガ・オークのポリシーである。


 一見、無慈悲に思えるが、どんな相手でも全力で戦うその姿勢は、他のゲーマーや観客からは憎まれこそすれ、軽蔑されなかったのである。


 もっとも、その為に追い出しフェスではすべての対戦相手に全力を出し、最後には倒れてしまった。


「ああ、やったよ。それがどうかした?」


 嘘はつかない来海だった。


「そう……」


 冬梅は一言だけ呟くと再びうなだれ、両肩が震えだした。


(やべえ! 怒らせちまったかな? ダイナミック・ドラゴンみたいにチェーンソーは振り回さなくともカッターナイフぐらいは!?)


「フフ……フフフ……あ〜はっはっはっはっ!」


 顔を上げた冬梅は、青空に向かって高笑いした。


「いやぁ〜完璧に負けちゃったぁ〜! やっぱり上には上がいるんだなぁ〜!」


 春の日差しが、冬梅の顔に流れる汗を輝かせていた。


(あ〜びっくりした。何だ、やっぱりイケメン陽キャだからサバサバしているんだな。チェーンソーを振り回すどこぞのバカよりも人間が出来ているし、こんな奴と毎日ゲームできればなぁ……)


 来海は自身の夢が叶いそうな気配を感じていた。


「ああ、そうだ、僕はG組の冬梅心雪ふゆうめこゆき。君の名前は?」


 来海はちょっとムッとする。


「同じG組の那良来海ならくるみ。ちなみに君の前の席な」


「えっ? あ、ああ、そ、そうなの? ごめんごめん。でも僕の前の席じゃ後頭部しか見えないから顔がわからないよ」


(挨拶したことも覚えていないのかよ……。おっと、笑顔笑顔)


「ま、いいや。よろしくな。えっとぉ、冬梅君でいいのか?」


「心雪でいいよ。その代わり僕も来海って呼んでいいかい?」


「ああ、いいぜ。こ、これで俺たちは……げ、ゲー友だな!」


 ちょっと詰まった来海。


「ゲー友かぁ……いい響きだなぁ……高等部へ進学したらゲー友を作るのが夢だったんだ」


(コイツ、俺と同じ夢を……ん? 高等部へ進学?)


 しかし来海は、心雪の言葉にどこか引っかかりを感じていた。


「ね、ねぇ、ゲー友になった来海と、や、やりたかったことがあるんだけど……いいかな?」


「ん? 別のゲームか?」


「ほ、ほらぁ、スポーツとかでよくやる、グータッチだよ」


「なんだそんなことか。ほらよ」


 来海は右拳を差し出すと、心雪もゆっくりと右拳を突き出し、そしてタッチした。


 ……拳を会わせたまま、時が流れる。


(汗びっしょりだからか? 冷たい手してんな?)


「あ、ありがとう」


「いいさこのぐらい」


 しかし、心雪はわずかな悲しみを顔に浮かべる。


「来海は感謝するよ。プロになる厳しさを教えてくれて……」


「えっ? 心雪、プロになりたいのか?」


「うん、ゴールデンウィークにU18から追加された二つの格闘ゲームの《アマチュアフェス》があるんだ。それのH&Hの方に出場できることになってさ、アマの大会だけどいいところまでいったら、六月のプロ試験を受けてみようと思ってたんだ……」


 笑顔で話す心雪であったが、どこか寂しげであった。


「だけど、フェスには来海のような強いゲーマーが大勢集まるんだろ? どうせ僕なんか一回戦落ちで、その後のプロ試験でも……。でもせっかくだから楽しんでくるよ……」


「いいのかそれで……。プロになりたいんだろ? フェスがあるゴールデンウイークには一ヶ月弱、プロテストには二ヶ月はある。まだやりようは……」


「ありがとう。でも僕にはプロになれない致命的な欠点があるんだ……」


「欠点?」


 心雪は学ランのボタンを一つずつ外し、“ガバッ”っと広げると、そこにはカッターシャツのボタンを弾き飛ばすほどの


“おっぱい”


が、白いレースのブラに包まれて


“たたゆゆんん”


と揺れていたのだ!

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