第二話 最凶ゲーマーへヴァ○ジンあげちゃう宣言

 ダイナミック・ドラゴンは吠える。


『ざっけんなぁ~! 勝ち逃げだとぉ!? そんなこと俺が、全ゲーマーが許さぁぁ~ん!!』


『許すも何も、運営に申請したら受理されたしぃ~、何よりぃ~高校受験が控えているからねぇ~』


『こうこう……じゅけん?』


『そう、高校受験。僕チンこう見えても真面目な中学生だからさぁ~。君たちみたいに、う○こしたりシコ○ている時もゲームのことばかり考えている廃ゲーマーと違って、ちゃんと勉強するんだよねぇ~』


 e7のトークバトルにおいて、下ネタは当たり前である。


 もっとも、下ネタを言う言わないは、ゲーマーのキャラや契約スポンサーの意向に委ねられている。


 ちなみに、オメガ・オークは、ランキング一位にもかかわらず、スポンサー契約をしていない。


 その理由はゲーマーらしからぬ行動と言動であることは、ライトな一般ゲーマーですら理解していた。


 そんなオメガ・オークの言葉にダイナミック・ドラゴンは激昂するのでもなく、力なく唇を開いた。


『受験って……お前……推薦入学の話とかねぇの?』


 ダイナミック・ドラゴンの口調はトークバトルのそれではなく、中学生同士の世間話になっていた。


『推薦……入学? 何それ? おいしいの?』


『何それって……ヲイヲイ冗談か? ほら、野球やサッカーでもあるだろ? 大会で優勝したら、高校の方から“ぜひウチの学校に”って中学にオファーが来るあれだよ。専属ゲーマーやスポンサー契約のオファーが来ないヒールのお前だって、それぐらい聞いたことがあるだろう?』


 会場がにわかにざわめき始める。


『た、たしかにぃ、弱虫ゲーマーのチミたちにぃ〜専属やスポンサーのオファーが来ることは、い、いくら僕チンでも知っているけど、じゅ、受験でも高校からオファーあんのぉ?』


『”あんのぉ?”って、世間知らずのニートじゃあるまいし、ランキング上位で中三の奴ら全員、私立の高校から推薦入学の話が来てるんだぜ。俺なんか十校以上からオファーが来ているぞ』


”おおおぉぉ!”と観客がどよめいた。


「やっぱダイナミック・ドラゴン様は別格よね」

「どこの高校へ入学されるんだろう?」

「うちの高校がいいなぁ。そうすれば、ダイナミック・ドラゴン様と一緒の空気が吸えるぅ~」

「わたし、ダイナミック・ドラゴン様と同じ高校を受験する!」


 女性ファン達は黄色い声でさえずっていた。


『へ、へぇ~そ、そうなんだ。で、でもやっぱ高校受験は……ち、ちゃんと受験勉強して……し、試験を受けないと……』


 初めて見るオメガ・オークの動揺に、ダイナミック・ドラゴンはその牙をむく。


『そうかそうかぁ~! U15で前人未到のグランドスラムを達成したオメガ・オークには、高校の方もびびっちまって、推薦入学の話をするのもおこがましいってかぁ~!?』


 推薦入学の話が来ないってことは、どこの私立高校も来海に入学して欲しくないことを意味していた。


『みんなぁ~! オメガ・オークには飛び級で大学、いや、大学院、それこそM○Tからオファーが来るそうだぜ~』


”ぉぉおおおおお~!!”


 観客も吠える。


 これはオメガ・オークがトークバトルにおいて、初めてマウントをとられた、歴史的瞬間でもあった。


『さぁみんな! グランドスラムを達成し、そして、受験勉強に励む、偉大なるオメガ・オーク様にエールを送ろうぜぇ~! オーク! オーク! オーク!』


 ダイナミック・ドラゴンは拳を突き上げると、コールを開始する。


”オーク! オーク! オーク! オーク!”


 観客たちも名を叫び、拳を突き上げた。


 トークバトルでマウントされ、ヒールな自分の名がコールされているのに、来海は別のことを考えていた。


(ふ~ん、そうなのかぁ~。だったら推薦のない高校を受験すれば、コイツらと一緒にならなくて済むって訳かぁ~……)


『それじゃみんな、ウインターフェスでは俺の優勝を楽しみにしてな! Adios!』 


 ダイナミック・ドラゴンは観客に白い歯と爽やかな笑顔を向けながら、舞台から退場していった。


 そして、優勝したオメガ・オークと観客とのトークタイムが始まる。


 ヘッドセットをつけている観客は、優勝ゲーマーと一対一でトークができるのである。


 オメガ・オークの持つタブレットへ、トークしたい観客の名が一気に表示されていく。


 最初のうちはファンサービスで無作為に選んでいたが


『地獄の門番、ケルベロスに食べられるとしたら、体の中でおすすめの部位はどこ?』


『ご自身の体を、人体実験へ寄付しようとは思わないんですか!?』


『こ、今度、エ、エロ同人RPGを、を、つ、作るので、ま、街娘や女騎士にデュフフしまくるオークにぃ、あ、貴方の本名を使わせて……デュフフ!』


と、むちゃくちゃなトークや質問が相次いだため、女性ばかり限定していたら


『……丑の刻参りの実験をしたいので、ぜひ髪の毛を……ちょうだい……』


『我は偉大なる悪魔、ベルフェゴール様のしもべ!! このたびの召喚の儀式において、貴公ににえの栄誉を与えようぞ! ハッハッハッハッハ!!!』


『今度ぉ〜、SMのお店を開店するのだけどぉ~、オープニングセレモニーでぇ〜、むち蝋燭ろうそく、百回打たれてくれないかしらぁ~? 大丈夫よ。痛いのは最初だけ♥️ 貴方をマゾヒスティックの世界へ連れて行って、あ♥️げ♥️る♥️』


 こちらもむちゃくちゃな内容だったのである。


(せめて最後ぐらいはまともなを……ん? 初めて見る名前だな?)


”ポチッ!”

 

『えっ!? あ、あたしですかぁ~!? うわぁ~光栄ですぅ~』


(お、まともそうだな。どの辺にいるのかな?)


 もちろん、万を超える観客の中から探し出せるわけがない。


『え、えっとぉ、オメガ・オークさんは、どこの高校を受験されるんですか~?』


(よかった、まともな質問で。もしかして存在すら都市伝説である、僕のファンってヤツか?)


『う~ん、ボクチンまだ決めてないけどぉ〜、どこかいい高校があったら教えて欲しいなぁ~。できれば推薦入学のないところでぇ~』


『なんでですかぁ~?』


『そりゃもちろん、僕は孤高のゲーマーだからね。ゲームしか能のない弱小推薦ゲーマー共と、一緒の高校へ通いたくないからだよ』


『じゃ、じゃあ、星福堂ほしふくどう学園はどうですかぁ~?』


 観客がわずかにざわめいた。


(星福堂かぁ~。姉貴たちが通った中高大の名門女子校だったけど、最近高等部・・・は共学になったって聞いたなぁ……。それに中等部からのエスカレーターはあるけど、他校からの推薦はないって聞いたし……。ま、ここはリップサービスで……)


『オッケェ~! ボクチンは星福堂学園を受験するぜぇ~! 学長様・・・よぉ~。せいぜい首を洗って待ってなよぉ~!』


『やったぁ~!』


(かわいいなぁ。クソ野郎共と比べたら清水せいすいとヘドロだぜ。ん? ”やったぁ~!”ってことは星福堂の生徒か? いやいや、むしろ自分の高校に受験しないとわかっての”やったぁ~!”かもな……)


 プロゲーマーになってから無数のヤジ、暴言、煽り、ヘイトを浴びた来海は、人の言葉を素直に信じることができなかった。


“星福堂を受験……する……だと……?”

”すげぇ……。あの女の子、オメガ・オークに死亡フラグ立てやがった……”

”それに応えるオメガ・オークも、やっぱパネェや……”

”奴の顔を見るのも、今日で最後か……”


と、オメガ・オークがクソ野郎共と称する観客たちは、なぜか憐れみの目で来海を見ながらどよめいていた。


『それじゃ〜次はっと……』


 オメガ・オークは別の女の子を指名する。


『わ、わたし!? え、えっとぉ……オメガ・オークさんは、高校に入学したらU18(十八歳、高校三年以下)には出場されないのですかぁ~?』


(おお、今度もまともそうな娘か。神様ありがとよ。いつかそのご尊顔を拝みたいぜ)


『う~ん、ボクチンより強い奴がいればぁ~考えてもいいけどなぁ~。弱っちぃ奴らばかりだと、簡単に全ゲーム制覇しそうでつまらないしぃ〜』


(……U18には対戦どころか関わりたくない《淫魔》がいるけど、ま、いいか! どうせ俺はU18に昇格するつもりはないし!)


 U18の格闘ゲーム部門は


《HELL&HEAVEN(通称、H&H)》

《Sword Spirit Story(通称、スリーS)》


が増えて、全六ゲームとなっている。


 上記二つは乳揺れ、パンチラ等性的描写があるため、R指定(十五歳以上対象)となっている。


“言っちまったぜ!”

“これは《あの御方》への宣戦布告か?”

“《グランドペンタスラム(五ゲーム制覇)》すら、今まで二人しかなしえなかったのによ!”

“淫魔対クソオーク。実現したら最高だぜ!”


(勝手なこと言いやがって。残念ながらその機会は永遠に来ないからよ)


『じゃ、じゃあ、もしU18で《グランドパーフェクトスラム(六ゲーム制覇)》したら……』


 女性観客は大きく息を吸うと……。


『……わ、私の処女ヴァージンを、オ、オメガ・オークさんに……さ、捧げます!!』


 ひときわ大きな声でぶっちゃけた!


(は、はああぁぁ〜!? ヴァ、ヴァージン!?)


”うおおぉぉ~!”


と、めずらしくオメガ・オークのトークタイムで、観客席は歓声の渦に包まれた。


「俺もケツの穴を捧げるぜ~!」

「うちのシェパードの童貞をプレゼントするぞぉ~!」

「あ、あたしの書いた呪詛日記を送りつけてあげるわぁ~!」

「二次元美少女好きのニートのお兄ちゃんもあげるから、BLに目覚めさせてあげて〜!」


(はぇ~、公衆の面前ですっごいこと言うなぁ~。俺のパフォーマンスなんか霞んじゃいそうだぜ……)


『オッケーベイベー。それまでせいぜい女を磨いておくんだな。それじゃあしばしのお別れだ! SO LONG!』


『ありがとうございました。ここで会場の皆様と視聴者の方々へ重大発表です! 来たる九月X日の日曜日、緊急フェスを開催いたしま〜す! 題して……』


『おおおぉぉぉ!!』


 ……オメガ・オークはMCのアナウンスと観客のどよめきなぞ耳に入れず、あさってのことを考えながら舞台を退場する。


(ま、どうせダイナミック・ドラゴンのパフォーマンスと同じで、実際こんなブサイクな俺にヴァージンをヤるわけ……ないよな?)


※作者注

 グランドペンタスラム(五ゲーム制覇)

 グランドパーフェクトスラム(六ゲーム制覇)

は、作者の造語です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る