わたしがいなくなった後。

そうだ! 由紀子ゆきこちゃんが助かったなら、直哉なおや君だって助かってるかも!


わたしは急いで佐野家へ走った。


「こんにちは!! 」

「ああ、これは智夏ちなつちゃん、ありがとう!! 悠馬を救ってくれて! どうもありがとう」


和樹かずきく.. 和樹さんはわたしにすがりつくように膝をつき、思いつく限りの感謝の言葉を伝えてくれた。


「あ、あの! ちょっと上がってもよろしいですか? 」

「あ、ああ ..いいよ 」




わたしは居間から奥の仏間にそのまま足を進めた。

仏壇には写真が1枚飾ってあった。


..ぁあ ....直哉君.. 「 直哉くん!! 」


やはり、仏壇の写真はセピア色の直哉君の笑顔だった....


わたしが昭和50年の事故の事を聞くと、和樹さんは理由も聞かないで事故の状況を教えてくれた。


風で飛ばされた麦わら帽子を追いかけ、由紀子ゆきこちゃんが海に転落。

海の様子を見に来た直哉君が、おぼれている由紀子ちゃんを発見し、たまたま落ちていた浮き袋を持って由紀子ちゃんを助けるが、大きな波に飲まれてしまった。

浮き袋を付けた由紀子ちゃんはすぐに海面に浮かんだが、直哉君はそのまま帰らぬ人となった —ということだ。


そこにはわたしの存在はなかった。


和樹さんは、直哉君の写真をみて涙するわたしの手を取り『ありがとう』と言うと、こんなことを話してくれた。


「直哉兄さんはあの時、ある女の子に夢中だった。きっと好きだったのだろう。でもそれが誰だか思い出せないんだ。茜色に染まる海辺に2人で寄り添っていたところを誰かが目撃したらしい.. 夕陽と相まって、うっとりするくらい絵になっていたという。君を見たらそんな昔のことを思い出してしまったよ.... 」


そして、それをわたしに伝える事が、正しい事だと思ったらしい。


・・・・・・

・・


「智夏!! こんなところにいたの? 心配したんだから! 」

「 ..莉子りこ.... 」


胸が張り裂けそうなくらい悲しかった。

涙が止まらなかった。

わたしは莉子にしがみついた。


誰かに抱きしめてほしかった。

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