由紀子の駄々

「いやだぁ! ずるい! いつも由紀だけお留守番! ねえねばっかりパフェ食べてずるい! 」

「だめ、由紀子。外に出たら危ないんだから」


「どうしたの? 」

由紀子ゆきこが今日に限って外で遊びたいって駄々こねてるの。今、台風が近づいてるから、『外に出たらだめだよ』って言ったら、この状態」


智夏ちなつお姉ちゃん、由紀子も街に行きたい! パフェ食べたい! 」

「うん。わかった。じゃ、今度、智夏お姉ちゃんと街に行こう。だからいい子にしようね」


「ぜったい? 」

「うん、絶対 」


「約束破ったらいやだから! 」

「わかった。由紀ちゃん、ちょっと待ってて....ほら、この麦藁帽子あげるから、これ被って一緒にお出かけしようね」


直哉君に買ってもらった麦藁帽子を頭に乗せる。上機嫌になった由紀子ちゃんは、わたしの周りでステップを踏み始めた。


「智夏おねえちゃん、指切り! 」

「指切り」


『『指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ぉます。指切った』』


どうやら裕子ゆうこちゃんが街に言ってパフェ食べたってことにかなりフラストレーションがたまったようだ。


それに加えて水族館に行ったなんて話したら、もっと手が付けられないかも。


「別にいいのに。由紀子はもともとわがままなんだから」

「わがままじゃないよ。ねぇねなんかイーっだ! 」


「ったく.. ねぇ、それよりお姉ちゃん、昨日、直哉兄ちゃんとデートしたんでしょ? 」

「な、なんで? 」


「もうみんな知ってるよ。海辺で寄り添ってたっていう目撃証言もあるし、キスしてたとか」

「なに!? してないよ、キスは! 」


「じゃ、キス以外は本当なんだね 」

「あっ! 」


11歳のくせに、『ずるがしこい』というか『狡猾』というか....


「どうだったの? 楽しかった? いいなぁ」

「た、楽しかったよ。そりゃ水族館だもん 」


「なに、なに、おねえちゃん、水族館行ったの? もう由希子ばかり置いてけぼりにしてずるいよー」


ああ、もう、誰か助けて....



・・・・・・

・・



ビュゥゥー ガタガタガタッ



その翌朝、わたしは風の音に起こされた。

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