第27話 死への旅立ち

「馬鹿止めろ!アースに乗ったらお前が死ぬんだぞ?!」

「ハハハ!いい女に乗れるんなら命かけても惜しくはねぇさ!」


セーデキムの高いテンションに、ベクトは説得できないと即座に判断した。ならばと説得する先を変えて声を荒げる。


「アース!降ろせ!」


大声で叫ぶベクトに、悲し気な顔をしてアースは首を横に振る。ベクトにはセーデキムが無理やり乗ったのが分かっている。アースの行動が頭で理解できなかった。


「……すみません、ベクト。現在転移を使えない以上、降ろせばセーデキムが落下死します。これ以上の降下は蜘蛛の敵意がこちらを向いている以上困難です」


ギリッと歯を噛み締める。まさか自分自身の命を人質にアースに乗るなんて予想もしていなかった。僕を人質にとったり、今のように負傷させる以外にも方法があったなんて。


が、そこでふと疑問が頭をよぎった。アースはずっと上空にいたはずだ、セーデキムは飛ぶこともできないのにどうやってアースに近づいたんだ?


「じゃあセーデキムはどうやって乗ったんだ!?」

「俺が望んだからだ!魔法は意志の強さで反応が変わるんだろ?」


ベクトの言葉に自信満々に断言するセーデキム。セーデキムがアースから得た知識を基に、自らの信念に従った結果がこれだった。


「転移できないなんて考えるから悪いんだよ!俺は俺がやりたいことを命を懸けようがやってやる!アースに転移して乗るんだって魔力を解放したら応えてくれたぞ!」


転移はガウトリアでは再現不可能な魔法である。しかし、かつてアースを作った文明ではあって当然レベルの魔法だった。難しいのではあるが、魔力量がありコツさえ掴めば意外と簡単な魔法なのだ。


それをセーデキムは足りない魔力を強固な意志で無理やり押し上げ、初見でコツを掴んで実行した。十数日倒れ込む程の無理をしでかしてはいたが、確かに成し遂げたのだ。


「アース、本当か?」

「間違いはありません。魔力が転移にて限界だったので、既にセーデキムは満身創痍ですが」

「なら」

「アース!襲っている災害獣を蹴散らせ!」


ベクトの静止の言葉を無視してセーデキムはアースへと指示を告げた。その声にアースはガクンと項垂れ、まるで死体のように動かなくなる。


『命令を受諾』


アースから聞いたことのない無機質な音が鳴った。どこから聞こえたのかすら分からない不安になるような音が鳴り、アースの瞳に光が戻る。


だがアースの身体は既に無機質な音に支配されていた。アスエル・ミーアの本能という機工に。


「ベクト、ごめんなさい。……稼働時間は五分です。あなたはその後死にます」

「ベクトがやった時はもっとかかってたろ!?俺のがベクトより優秀だから十分過ぎるな!」


本人の気質か、自らを鼓舞しセーデキムは大きく声を張り上げる。戦意が高まり過ぎて、満身創痍とはとても思えない声だった。


ベクトには分かってしまう。長年の付き合いが、セーデキムは追い込まれると自らをより強く鼓舞する癖を持っていることを気づかせてしまう。声を大きく張り上げるのは、どうしようもない程に自らが追い込まれているのだと。


そして、そうさせてしまったのは他でもないベクト自信なのだということも。


「セーデキムゥぅぅぅぅぅ!!!」


ベクトには長年の友が死出の旅路へと足を進めるのを、瞳に焼き付けて立ち尽くすことしかできなかった。

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