第21話 ドカタ達の談笑
小一時間ほどして親方たちのいるドカタの待合場所に到着した。喧嘩がよく起こる場所であるため、周囲にある建物も壊れてもおかしくないようなボロが多い。住む者達の柄も良くなかった。
建物も壊れて問題ないかとアースを呼ぶ。どうせ声を上げて周囲を空けようにも無駄なのだ。ならば人が少なく呼べそうな今は都合が良かった。
「「「んじゃこりゃあ!?」」」
周囲から驚愕の声が上がる。何とか人がいないタイミングで呼び出せたものの、アースの巨体が突如目の前に現れるのだ。無理もないことだった。
周囲から湧き出てくる人の波を、待合場所から出てきたドカタの者達が追い返していく。親方が指揮をとり野次馬を対応していた。
周囲の様子を横目に、アースの目を自身へ向けようとベクトは昨日のことを話していた。リリアンが非常に不服そうな顔をし、横には警護のためかセーデキムも来ていた。
「え、昨日セーデキムと会った?」
「はい。ベクトが来てないかと」
セーデキムに顔を向け、うんうんと頷いている顔に声をかける。アースと話す理由がまるで分からなかったのだ。アースが巨体である以上、偶然という考えは無かった。
「探してたのか?」
「親方に言われてな。ギルドの方にリリアンが、アースの方に俺がってな」
「場所は」
「これだけ大きいんだぞ?」
「……まぁ分かるか」
探していたのならアース程分かりやすい目印は無い。家の高さが十メートル程度であり、巨人族で三十メートルくらいなのだ。それより大きいアースは探そうと思えばいつでも見つけられるだろう。
セーデキムは苦笑しながら視線をアースへと向ける。しかして口にした言葉はベクトに向けられていた。
「お前のこと心配してたんだ。あんまり心配かけんじゃねぇぞ?」
セーデキムの言葉にベクトの視線がアースへと流れていく。日が落ちてきているが、アースの頬は日の光りよりも赤くなっていた。
「そうなのか?」
「ベクトは知らなくてもいいことです」
ぶいっと顔を逸らすアースにベクト以外の全員がニヤニヤと声を上げずに笑い出す。可愛らしいことをするもんだと、誰でも察せるものだった。当人たった一人を除いて。
「アースはあんなこと言ってるけど」
その当人はセーデキムにポカンとした疑問を平然と聞いてきた。聞かれたセーデキムは額に手を当て空を仰いでいた。こんなにも分かりやすいのにと、呆れていた。
「ベクト……お前……」
「まぁベクトには無理だろうな。彼女持ちのルーバスにアホほど嫉妬するようなやつだからな」
いつの間にか人を捌けさせた親方まで横から口を出してきた。しかも明らかに小馬鹿にするような態度と、隠していたことを暴露することまで付いてきた。
「何故それを!?」
驚愕するベクトにセーデキムはニシシと笑い、親方とリリアンは少し離れる。ベクトに聞こえない距離をとって二人だけで話し込む。セーデキムとベクトが小馬鹿にし合うような会話を始める中、親方たちの表情は真剣そのものだ。
「おいリリアン、あいつどう思う?」
「割とお気に入りですよ?見え見えの視線とか、探索者になれる素質持ってるとか、有望ですよね」
リリアンの微笑みにどこか黒い影が落ちる。対して親方はニヤリと笑うだけだった。
「利用する気満々か。いや、あいつにはいい薬かもしれんなぁ」
「ふふふ……もっと私に溺れてもらわないと。心から私に染まってくれるなら好みの男性ってことで」
「怖いねぇ。だが一つだけ気をつけろ。アースの嬢ちゃんが何を考えてるか分からん」
親方の懸念をリリアンはフッと一笑に付す。親方も所詮は男、女同士の戦いとはどういうものなのかを理解しているわけではない。リリアンはそれを察せていた。
「女同士の争いは男を奪い合うことだけ。必要なのは力じゃない」
上機嫌になったリリアンはベクトの方へと近寄っていく。一人残された親方は溜息を一つ付き、ベクト達の様子を見ながらぼそりと呟く。ベクトからアースへと向けられている視線の熱さは、親方だけは分かっていた。
「……その意味で言えばお前は負けてるよ、リリアン」
親方の呟きは誰にも聞こえず空に消えていく。この光景が続いてほしいと願いつつ、背中に向けて親方は近くの酒場へと協力を要請に歩き出した。
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