第13話 再び遺跡へ

転移した二人は最初に出会った場所にいた。アースに管が差されていた場所であり、ベクトが遺跡を最後に探索した場所だ。


「着きましたよ」

「転移だから一瞬だな。魔力使わないから楽でいい」


アースに乗るときの利点はこれだ。ディアイによると転移にはかなりの魔力を消費する。今の僕なら倒れ込む程使ってようやく使用可能だ。以前の僕だと転移したあと十日は寝込むだろう。


アースの膨大な魔力を使えれば話は別だ。魔力は僕の軽く百倍は超えるアースなら転移も苦にならない。


「オカエリナサイマセ、アスエル・ミーア」


アースの声でもない、誰かの声が周囲に響いた。ベクトは驚くも、警戒まではしなかった。知識にはあったからだ。


「これが遺跡の声ってやつか!?」


機能が生きている遺跡には誰もいないが明確に声が聞こえることがある、酒場で話に聞いたことがあった。ここは生きている遺跡だ、あり得るかもとは思っていた。


「ただいま、です」


アースの言葉に何を言っているのか理解が及ばない。言葉の意味が理解できないのだ。


「オカエリナサイマセってのは?」

「おかえり、だけです。後ろはいりません。無事に帰還できたことを嬉しく思う。そういう意味ですよ.。ただいま、と返すのが親愛の証拠です」


ガウトリアではそんな文化は無い。帰還を嬉しく思う親愛なる者には、抱きしめるのが一般的だ。帰還時に言葉に出すことはない。


遺跡には遺跡のルールがあるかもしれない、僕も言っておくべきか。


「僕もそうなのかな。ただいま」

「オカエリナサイマセ、ベクト・ワーカイ」


返事が返ってきた。ルールとしてあるようなので今後も従うことにしよう。

座っていたアースがベクトを下して立ち上がる。ここからは別行動だと態度で示していた。


「ベクトを資料室へ。私は修理機工へ」

「回答。損耗率三パーセント。必要ナシ」

「初期起動ですよ?」

「許可」


遺跡の声と気軽に話すアース。まるでそれが自然の光景なのだと言うようだ。夢の光景のようだが、遺跡も人のように話せるらしい。


「命令。ベクト・ワーカイ。足元ノ青光二沿ッテ移動ヲ開始セヨ」

「わっ!?」


突然名前を呼ばれたせいで脅かされたようにビクッと身体を震わせる。話せるのはアースだけではなかったらしい。


「訂正。移動ヲオ願イスル」

「!?、僕とも話せるのか!?口調まで変わった!?」

「高性能ナノデ」


遺跡の声に従って足元の光に沿って歩いていく。コツンコツンと、金属に当たったような音が足音となり耳に届く。ガウトリアには石の床はお上の居所にしかないため、足音が響くというのも滅多にない経験だった。


「疑問。資料室ニテ調ベルコト」

「アスエル・ミーアの目的だよ」


遺跡の声に歩きながら答える。アースも別の方へ歩いて行った今、遠慮などせずに話せる。遺跡がアスエル・ミーア専用施設だとは言っても整備がメインだ。ディアイから知識としてそう受け取っている。


「回答、アスエル・ミーアノ目的。未来ヲツナグコト」


ベクトは歩きながら、少しだけ目を見開いて驚く。まさか遺跡が答えてくるとは思いもしていなかったのだ。

顔をフルフルと振り、表情を元に戻す。遺跡はベクトの知らないことばかりなのだ。いちいち驚いていたら時間だけが経って先に進めない。


「曖昧過ぎて分からないんだよ」

「助言、資料室ニハアスエル・ミーア開発者……親ガ魔水晶トシテ生存」


思わず聞こえてきた上の方を見上げる。驚愕より、欲しかったものを見つけたと言う感情が勝っていた。

アースは作られた存在だ。なら作った者がいるはずで、そいつがアースの目的を絶対に知っている。ベクトが求めているものを知っているのだ。迷う必要は無かった。


一つ疑問があるとすれば生存がよく分からないことくらいだ。


「魔水晶?」

「回答。自我ヲ灯シタ魔力結晶。現在会話可能状態」


結晶がどうたらとよく分からないが、遺跡の声と同様に話せる代物のようだ。それだけ知れれば十分だ。


「そいつに聞けば分かるかもしれないってことか。助かる」


遺跡の声が途絶えたので呼気を荒くして歩を進める。求めるモノが向かう先に明確にあることが、心臓の鼓動を大きくさせる。


既に目標にしか目が無いベクトだ。小さな声に気づかなかったことも仕方ないとも言えた。


「……親ハ単数形デハナク複数形」


補足のために呟く、遺跡の声など聞こえてはいなかった。

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