第11話 検査

何かを書き続けていた受付の人は顔を上げベクトの方へと目を向ける。長い耳に色白、青い両目、エルフの血を引いている人の特徴がそこにあった。同時にベクトの視界に名前札が入る、レキサという名前だった。


「ベクトさん?どうかしましたか?お上でも来ました?」

「お上?いや、そんなことよりアースがここに来る。ギルドの前に来させるから空けてくれないか?」


ガタンと立ち上がり、レキサは声を荒げて周囲へと聞こえる声で協力を叫んだ。


「ホントですか!?。分かりました!探索者の皆さん!手伝える方は協力をお願いします!」


ガヤガヤと周囲にいる探索者がざわつく。協力する気はありそうだが、未知を探しにでるでもなくお金も出ない協力依頼であり、ためらっていた。


「アースさんがここに来ます!」


騒々しさがピタリと止む。同時に探索者達がどんどんギルドの外へと出ていき始めた。何が起きているか分からないベクトはレキサの方へと視線を向ける。視線の先にはニッコリと笑うレキサがそこにいた。


「外へ、付いてきてください」


レキサに手を引かれ共に外へ出ると、周囲百メートル近くを封鎖している探索者達の姿があった。アースが来るから協力しろと言うだけで既に行動を始めてくれていたようだ。よっぽどアースに興味津々らしい。


ギルドの前にあった建屋からも人影が見えない。どうやらここら一帯から離れるよう探索者達は動いてくれたようだ。これならアースがもし家を壊しても問題ない。


「ではこちらでどうぞ。五十メートルと聞いてますので、問題ないはずです」


レキサからギルドの前の道でとお願いされる。道幅は三十メートルもないが、アースが横たわるわけでもない。問題ないとアースを呼び出す。


「アース、来てくれ」


ディアイに呼びかけると即座に目の前にアースが現れた。転移による移動だが、少しだけ浮いていたのがズンッという重厚な音が地面から響く。

同時に起きた粉塵が晴れると、そこにはさっきまで話していたアースの姿があった。


「「「おお……!」」」


探索者達の驚きの声がそこかしこから聞こえる。アースを見たことがある人は二人しかいないのだから当然ではある。昨日酒場で聞こえた話では遺跡からの持ち帰りという代物は少ないらしいし、とんでもないお宝と言えるだろう。


「ここが探索者ギルドですか」

「「「喋った!?」」」


そっか、アースが作られた種族であり生きていることさえ知らないのか。それなら驚きが加速するのも仕方ない。剣や鎧なんてレベルの代物どころか、遺跡で人が生きてたともなれば動くことさえ頭が拒否するだろうし。


「あー……アース、うるさいかもしれないが我慢してくれ」


周囲の喧騒に眉をひそめ始めたアースに申し訳ないが、我慢を頼む。ここに来させたのが僕だから猶更申し訳ない。


「ベクトの頼みですから」


ふぅと一息ついたアースは深く目を一度閉じた後に承諾してくれた。目立つのは好きではないのだろうか、そんなことさえ僕はまだアースを知らない。この後に遺跡に行く予定だと自分に言い聞かせ、アースへと声をかけた。


「アース、俺は中で検査受けるから、可能な限り周りからの質問に答えてもらえるか?」


僕の本音としてはアースにはガウトリアにいてほしい。いつ災害獣が現れるかも分からないし、何よりも僕が頼る者だからだ。別に誰かに力を向けると言う訳じゃない。ただ話相手になってくれるだけでもいいのだ。頼るとは何も戦う時の協力態勢だけではないのだから。


「内容によりますが……分かりました」


渋々だったがアースへの指示も終わった。ただ質問には割と寛容に答えている感じ、嫌というより面倒といった様子だった。


さて、こちらも用事をさっさと済ませよう。昨日助言してもらった、探索者ギルドでの検査だ。と言っても何をするのかは全く知らない。探索者基準の検査だろうか?


アースを見上げ感激に浸るレキサへ、躊躇しながら声をかける。様子が周りの探索者達と同じあたり、レキサさんも元探索者なのは間違いなさそうだ。


「レキサさん、ちょっといいか?。親方から身体検査受けろって言われたんだけど、何すればいいんだ?」


声をかけられ、ハッと我に返るレキサ。誰に声をかけられたのかすら認識できておらず、周りをキョロキョロと見回す。数秒の後に誰が声をかけたのかようやく認識し、ベクトへと返事を返してきた。


「親方……ああ、デンダさんですか。デンダさんから言われた身体検査ならこちらへどうぞ。一応聞いておきますが、デンダさんからはそれだけですか?」

「それだけだけど」

「いえ、それなら構いません」


レキサがギルドの中へと案内して歩いてく。ベクトも置いていかれないように付いていく。

ギルドの裏手、そこには大きな円上の、訓練場とでも言うべき広場があった。今は誰もいないが、ところどころで焼け付いた跡や拳が撃ち込まれた跡が残っている。


「土魔法が得意と聞いています。ならやることは簡単です」


親方から聞いていたのだろう、レキサは直径一メートルほどの石が置かれた場所まで案内した。綺麗にならした石だ、角が綺麗な角度を描いていた。目安とする扱いなら便利なものと言えるだろう。


「この石と同じ強度、サイズのものをいくつも複製し、素手で破壊してください」


レキサがやるよう言ったことは理解できた。理解できたが信じたくはないモノだった。

コンコンと叩き硬度を確かめる。かなり硬く、殴ったらこちらの拳が壊れる可能性すらある。身体強化できない僕だとできて試しの一回くらいだろう。


「かなり硬い、これを素手で?」

「はい」


即答で返すレキサにゴクリと唾をのむ。探索者達ならこの程度できて当然なのだ。即答するというのはそれがあって当然と確信していなければできないことだ。


そしてもう片方の課題、複製も困難なものだ。壁を作るよりどでかい石を作る方が難しい。なぜなら壁はいくつもの小さな石からできているからだ。それを粘土でつなげるような形で壁となる。対してどでかい石は一個だけだ、量より質が測られるものであり、僕の土魔法でも何回もできるかどうか。


「複製もきついんだけど……」


チラリとレキサの方へ視線だけを向けるも、変わらずニッコリと笑うレキサの姿しか視界には入らない。


「魔力総量を測るためです」


きっぱりと断るように口にするレキサにベクトはたじろいでしまう。圧力すら見えるレキサの視線から避けるように石の方へと顔を向ける。


思いっきり息を吸い込み全力で声を出す。気合の一つでも入れないと岩の複製も、破壊もできる気が全くしなかった。


「やってやらぁ!」

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