六首目 コーポ202号  短文付き


あの頃の

 絵本はここに

  あの人の

   ジッポと吸い殻

    しおり代わりに


 部屋?

 と呼べる程のものか、扉と呼ぶものは軒並み吹き飛んでしまい、壁には弾痕が嘘のように刻まれている。

 ベランダからは好きなように風に吹きこんでくる。

 久々に訪れたこの場所が記憶よりも小さいことに驚いている。

 後方の従者に立ち入らないように釘を刺し、一人室内を歩く。

 瓦礫に押しつぶされた一冊の絵本を拾い上げる。

 汚い猫が描かれた絵本。

 ページをめくると記憶のページも同軸を開く。


 幼かった私があなたに読んだ絵本。

 あなたがお気に入りだったページ、よく煙草の煙をぶつけていたページ。

 床から吸い殻を拾い上げ、コートのポケットからあなたのジッポを取り出し、

 絵本に挟んで閉じる。


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