第29話 ライブ配信

 9月X日


 今日は自己紹介動画を投稿してから初めての土曜日。あれから数回、限定配信なるもので林さんとテストを重ね、そろそろ生で配信してみようということになった。


 チャンネル登録してくれた人数もあの後10人も増えて30人になった。今日は午後から撮影があるものの午前中は時間があるので、事務所のホームページで告知をし、初めての生配信をする運びとなった。


 自宅の自分の部屋、パソコンの前でスマホからサムネイルをクリック、待機画面を眺める。


 待機のコメントをしてくれている人が3人もいる。今さらながら自分の部屋をネットに公開するのが恥ずかしくなってきたな。


 若干緊張していると、配信が終わった後の送迎もあるしと後ろで控えてくれている林さんから声がかかる。


「緋月くん、そろそろ5分前だから廊下に出ているよ。なにか不足の事態があったら呼んでね!ふすまあけて駆けつけるから」


「ありがとうございます。でも、林さんが勢いよく出てきたらみんな驚いちゃうかもですね」


「大丈夫、大丈夫。前に日向ひゅうが君のときやったけど盛り上がってくれたよ」


 やったことあるんだ、、、


 〜〜〜


 時間だ。カメラよし、マイクよし、LIVE配信ボタンをクリック。タイムラグがあるだろうから5秒くらいそのままで、、よし。手を振って。


[おっ、映った!]

[緋月くーん]

[自宅かな?]


「みなさん、おはようございます。そしてはじめまして。緋月朔夜です。ちょっと緊張してますが、よろしくお願いします」


[はじめまして!]

[いや、ゆうて今ここにいるメンツはファンやろw]

[おおー!オフの朔夜きゅんだ!]


「僕のファン、、そうか。そう思うとちょっと気が楽になるかも」


[おー!気楽にいこうぜ]


 そうか、初配信にまで駆けつけてくれた人たちだ。きっと少なからず僕のことを知ってくれてるんだろうな。まだ新人もいいところなのにありがたい。視聴者さんのコメントを見ていたらちょっと緊張がほぐれてきた。


「ここにいるみんなは知ってくれてるかもだけど、ちょっとだけ自己紹介を。今年の7月にデビューしました、ヴィランズ所属緋月朔夜です。緋色の緋にお月様の月、朔月の朔に夜でひづき・さくや、です。誕生日は11月2日、まだデビューして2ヶ月たってない新人ですが、どうぞよろしくお願いします」


[おー知ってる]

[ピッチピチだねー]

[あらためて聞くと名前めっちゃ月]


「名前は社長がつけてくれたんだけど、イメージは赤いニュームーンだ!って言ってましたね」


[まんまやないかw]

[緋色の新月w]

[いや朔って月の初めみたいな意味じゃなかった?]


「まぁその、僕も気に入って名乗らせてもらってます。えっと、、なにか質問とかありますか?」


[好きな食べ物は?]

[彼女いるの?]

[仲のいい先輩は?]


「好きな食べ物は手の込んだ料理、彼女はまぁ、いますね。仲のいい先輩は同じ事務所の日向先輩です」


[いるんだ彼女!?それ言っていいやつ?]

[グリードハイスクールのおまけは事実だったんだ!!えっ、沙希ちゃんだよね?]

[日向さん推してるわー]


「えぇ、言っていいやつですよ。もちろん沙希ちゃんですね」


[まじかー、、最近の芸能人すげー]

[あの告白させられてる時の顔めっちゃよかった]


「うっ、あれほぼ素の表情だったのでちょっと恥ずかしいですね。撮られてるの全然気づいてなかったので。、、話題変えませんか?」


[ゲーム好きっていってたけど何系が好き?]

[そうね]

[恥ずかしがってるのもいいな]


「ゲームは、RPGとアクション系をよくやりますね」


[リクエストしたら配信でやってくれる?]

[FPSとかはやらんの?]

[リズムゲームしてるとこ見たい]


「手続きがあるんですぐには難しいですが、リクエストOKですよ。FPSはあんまりやったことないなぁ。リズムゲーム、、」


[そっかー]

[お?なんかあるのかな]


「配信の最後にやろうと思っていくつか事務所に許諾をとってもらってて、えっと、これを立ち上げて」


 キャプチャーボードを立ち上げてゲーム画面を配信画面に映す。そしてカメラの横に置いていたコントローラーを手に取る。よし。


[そんなところにコントローラーがw]

[急にカメラに近づいてきたからビビったー!」

[おおー!リズパラ!まじで?]


「はい、リズムパラダイス。コメントにもありしたが通称リズパラですね。今日はこれをちょっとだけやって終わろうと思います」


 少年時代にやり込んでいたからステージはどれでもプレイ可能だ。なんならここ数日練習もした。軽快なBGMを聴きながらラストステージのリミックス10を選択。


[おー全部パーフェクトマークついとるやん]

[流れるようにリミックス10w]

[さてはやり込んでるなー?]


「昔やり込んだゲームなんですが、最近ちょっとプレイする機会があって、これなら見ていても楽しそうだな、と」


[うれしい]

[はじまったぞ]

[けっこう難しいよなこれ]


 時おり掛け声を出しながら、プレイを進めていく。


[うっま]

[体揺れてるw]

[掛け声w]


 このゲームは恥じらってはいけない。ハイスコアを目指して声もどんどんだしていく。


[草]

[めっちゃ怖い真顔で『大好き』は草]

[レスラー好きだなぁ]


「最後もどってきて、、よし!」


[おおーパーフェクト!]

[ないすぅ]

[いいじゃん、コレ切り抜きしてもいい?]


「ありがとうございましたー。楽しいからみんなもやってみてくださいね。えっと、切り抜きがちょっとわからないですね」


[やったことあるわw]

[レトロゲーで手に入らない件]

[配信の面白いシーンをトリミングして字幕つけてアップ?みたいな感じかなー?]


 なるほど。これは、林さん案件だな。


「すいません、マネージャーチェック入ります」


 声で呼びかけつつ、指を鳴らす。


 ふすまをパシィンと開けて林さんが部屋に入ってくる。そしてそのままのしのしと僕の隣にやってくると中腰になってカメラに顔を向けた。


「どうも、失礼いたします。マネージャーの林です」


[!?!?!?]

[うわぁ!びっくりしたー]

[林さんだー]


「切り抜き動画を作っても大丈夫ですか?との質問ですが、当事務所の方針といたしましては、基本的に大丈夫、という方針となっております」


[あっ、いいんだー]


「ただし、悪意のある編集をされたもの。そうですね、所属タレントを貶めたり著《いちじる》しいイメージダウンにつながる、またはそうなることを目的としたと思われるものに関しましては、所属タレントと相談の上事務所の方からお声がけさせていただいたり、削除申請をする場合がございます」


[まぁそれは大事なことよ]

[画面の圧がすごい]


 うむ、強面の林さんだ。物腰も柔らかいし口調も丁寧だが画面の圧はすごいかもしれない。


「応じていただけなかった場合や重大な損失があった場合などには法的措置を取らせていただく場合もございますが、ファンの皆様が健全な推し活動の一環としてしていただく分には問題ありません。それでは、失礼いたします」


 林さんは最後に笑顔を見せて画面から去っていく。


[マネージャーも強面なのか、、ヴィランズすげーな]

[丁寧な人だったな、、顔は怖かったけど]

[林さん日向君の配信にもでてたよ]


「えっと、そういうことなので、大丈夫そうです。それでは、またの機会に」


[おつかれさまでしたー]

[またねー!]

[おつかれさまー]


 LIVE配信を終了し、画面を閉じる。


「ふぅ」

「おつかれさま」

「ありがとうございます、おつかれさまでした」


 今度はそっと襖を開けて入ってきた林さんのねぎらいの言葉がしみる。


「ちょっと早いけど、現場の近くでお昼ご飯食べましょうか」

「一緒にうちで食べていっても大丈夫ですよ?」

「いやいや、さすがにそれはご迷惑に。それに今日は打ち合わせもしたいですし」

「了解です。じゃあ、すぐに仕度したくしちゃいますね」

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