第28話 動画

 9月X日


 学校帰りに林さんに迎えに来てもらい事務所へ向かう。僕のパソコンのセッティングが終わったあとすぐにチャンネルは開設しており、もう20人の登録者がいるらしい。20人のうち15人は事務所の人、僕もプライベートのアカウントで登録しているから本当のところ4人くらいなわけだけど、その4人はいったいどうして登録してるんだろう?


「あはは、一応今日の10時に事務所のホームページにチャンネル開設のお知らせを貼ったからね。それを見てくれたんじゃないかな?」

「なるほど、それで」

「それはそうと今日は自己紹介動画として出す映像の撮影と編集、テロップを入れてアップロードまでしちゃおうと思ってるけど時間はとれそう?」

「大丈夫です。」


 事務所に着くと、まずはスーツに着替えてサングラスをかける。そしてなぜか社長室へ。


「おはよう緋月君。事務所のタレント全員、デビュー動画はここで撮るのが恒例になっていてね。さ、ここに座って?」

「えっ、と。はい。失礼します」


 社長に促されるまま社長の椅子に座り机につく。うぉ、ぬくもりが。椅子にさっきまで座っていた社長のぬくもりが残っている。


 僕の周りにカメラが5台、さまざまな角度で置いてある。何を喋るか、どんな感じで編集するかをざっと打ち合わせする。


「じゃあちょっとテスト本番してみよっか?」

「はい。いけます!」

「じゃあ、回しますよー5、4」


 3.2.1と林さんが指折り数えて、どうぞ!のジェスチャーで語り出す。


「こんにちは、緋月朔夜です。このたび個人チャンネルを開設することとなりました。まだまだテレビに出る機会などは少ないと思うのでこういった場で皆様と交流できたら嬉しいです。まだまだ決まっていないことばかりですが、僕はゲームが好きなので、配信ではゲームとかできたらいいなと思っています。それでは、また」


 せっかく社長の机にいるので、ちょっと重役感のあるどっしりした動きで自己紹介してみた。

 その後、節々で区切って5台のカメラそれぞれを向くパターンを撮影して、撮影は終了。


 編集よリクエストをしていいとのことだったので自分のかっこいいと思う繋ぎで切り貼りしてもらい、テロップが入っていくのを見守る。最後に小気味のいい音楽とともに宣材写真の撮影風景がパッパッと入りcoming soonのテロップで閉める。近日公開はちょっと違うかなと思ったけどかっこよく閉まったから良しとした。


 〜〜〜


「できたわよ!」


 なんでもできる事務員にして林さんの奥さんの里子さんに教えてもらいながら編集することおよそ3時間。2分ほどの自己紹介動画が動画が完成した。


 さっそくみんなで試写をすることに。


 落ち着いたBGMとともにまずは正面のフィックス。椅子に浅めに座り、前腕ぜんわんを机のふちに乗せて手を組んで話しかける。


「こんにちは、緋月朔夜です。このたび個人チャンネルを開設することとなりました。まだまだテレビに出る機会などは少ないと思うのでこういった場で皆様と交流できたら嬉しいです。」


 右から撮影したカメラの方を向く。


「まだまだ決まっていないことばかりですが、僕はゲームが好きなので、配信ではゲームとかできたらいいなと思っています。」


 最後はちょっと見上げたあたりに置いたカメラで撮影したカット。最初から目線を合わせておいて言葉に合わせて手を上げる。


「それでは、また」


 BGMが軽快な音楽に切り替わり、写真撮影の動画が流れる。右斜め前、左の横顔、正面の全身、後ろから、そして宣材写真で使用しているバストアップとパッパッと切り替わり、BGMがなくなる。


 椅子に座ってひと息つく僕に社長から声がかかる。頷く僕。立ち上がって位置につくと、左手をポケットにいれカメラのほうへコツコツと歩いて行き顔をレンズの前へ。そしてサングラスをゆっくりと外す。


 そして画面を少し揺らしブラックアウト。右下にcoming soonの文字。


「いいんじゃないの?」

「僕もいいと思います」

「テロップにも誤字はなさそうですね」

「じゃあさっそく!アップロードしちゃうわね!」


 そのまま里子さんが動画をアップロードしてくれるのを見守り、お開きとなった。


 翌日、動画アーカイブを確認すると20回ほど再生されており、高評価が4つ。


 コメント欄には

[最後ちびりました]

[最後めっちゃドキドキしました♡(恐怖♡)]


 の2つのコメントが並んでおり、なんだか微妙な気分になった。

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