第24話 翌日

 8月X日


「ふぐっ」


 息が苦しい。顔がなにか柔らかくて温かいもので圧迫されている。なぜか足も痺れている。顔の上の重量物を手探りでそっとつかんで少し持ち上げて大きく息を吸う。そしてそのまま体をよじって抜け出す。


「女の子、、?」


 真希ちゃんだった。どうやらあまり寝相が良くないようだ。安心して起き上がると沙希が僕の太ももの上で寝ていた。どうしてそうなったのか知りたいがこちらも寝相が良くないようだ。とりあえず優しく頭を撫でてほっぺたをつつく。


「んんー」


 しばらく顔をしかめてぐずっていたが、目をつぶったまま観念したかのように起き上がり大きく伸びをして僕にゆったりともたれてくる。そのまま優しく抱きしめられてほっぺたにちゅーされる。


「おはよ〜」

「ん、おはよう」

「えっ」


 あいさつを返してほっぺにちゅーのお返しをすると、沙希は目を見開きいてこちらを見つめている。


「あっ、、朔夜?」

「恭介」

「あっ、うん。恭介。ごめん、真希だと思って。へへっ真希はまだ寝てるね?ん〜」


 チュッ


 優しいキスをされてしまった。いかん、彼女の実家でこんなこと。そう思いつつもどうしても受け入れたい自分がいる。


「顔洗って歯磨きしよっか」

「うん」


 真希ちゃんにそっとタオルケットをかけ、洗面所へ。沙希と交代で顔を洗い、昨日いただいた歯ブラシで歯を磨く。沙希がなんのためらいもなく同じタオルで顔を拭き、仕事を終えた歯ブラシが並ぶのを見てドキっとする。


「朝ごはん作るの手伝ってくる。真希のことお願いしてもいい?」

「いいよ。どれくらいしたら降りたらいい?」

「15分くらいかなぁ?」

「わかった。じゃあ、また後で」

「うん」


 そう言って階段を降りていく沙希を見送って部屋へと戻る。真希ちゃんはまだすやすや眠っている。まだ起こさなくていいかと寝顔を見つめる。姉妹だから当然だが沙希に似ていてかわいいな、将来沙希と結婚したらこんな子が産まれてくるのだろうか。ちょっとだけ想像してしまった未来の我が子は沙希に似て整った顔をしつつも目元だけ僕ににてやたら眼光が鋭かった。


 〜〜〜


 あれからほどなくして目を覚ました真希ちゃんの洗面と歯磨きを手伝い朝ごはんを食べた。


「すいません、朝食までいただいてしまって。ではそろそろ」

「恭介君、水着と服をさっき洗って干してるからね、乾くまでゆっくりしていってね」

「あっハイ」


 お母さんに言われて庭に目を向けると僕の水着と昨日着ていた服が太陽の日差しを浴び風になびいているのが見える。


 ということでまだしばらくお世話になることに。お父さんとお兄さん、お姉さんは仕事に行き、真希ちゃんの相手をしながら翔太君が宿題をするのを見てあげることに。しばらくすると今日の分の宿題が終わったそうで、一緒にゲームをしようと誘われる。


「あっこれ、なつかしいな。リズムパラダイス」


 翔太君が持ってきたゲームの中に、中学生時代にやり込んだゲームを見つける。得意だよというとやってみせて欲しいとせがまれる。どうやら詰まってしまってクリアできるなら新しいステージができるようにしてほしいようだ。


「いいの?」

「いいよ!できるなら全クリしちゃってもいいよ!」


 大丈夫そうなのでプレイすることに。鼻歌まじりにどんどんクリアしていく。真希ちゃんもゲームのリズムに乗って合いの手を入れており楽しそうだ。お姉さんの歌に合わせて合いの手を入れるステージが気に入ったようで3回ほど「もういっかい!」とせがまれてプレイした。


「とん、ととん、ハイハイハイ!」

「すげー!」


 弟とか妹がいるってこんな感じなのかな。一人っ子で同級生としか遊んだことがなかったかは新鮮だ。途中翔太君と交代しながらゲームを進める。


「コツがあるの?」

「うーん、僕は覚えちゃってるなぁ。最初にやった時は翔太君とおんなじ感じだったよ。やり込んだから指が覚えてる」


 気分が乗ってきて小声で合いの手を入れたり歌いながらプレイしていく。ラストステージでも危なげなくパーフェクトがとれた。よしっ!


「ふぅ」

「おお!すげぇ!マジで全クリしちゃった!」


 心の中でガッツポーズをとっていると喜ぶ翔太君に次は野球のゲームをやろうとせがまれ、結局昼食までゲームに興じてしまった。


 〜〜〜


「お昼そうめんでいい?」

「もちろん」


 なんかもうだいぶ馴染んできた気がする。掃除中のお母さんに代わりそうめんを茹でて薬味と麺つゆを用意する沙希を見ているとあっという間に食事の準備が整う。


 僕も申し訳程度に配膳を手伝う。食卓にみんな揃ったところでいただくことに。そうめんをすすりながら、通っている高校や夏の課題などたわいもない話をした。


 食後の後片付けを手伝い、沙希とお母さんとお茶を飲む。事務所や仕事の話などして、お母さんは洗濯物を取り込みに行った。


「ごめんね急に泊まるよう誘っちゃって」

「いや、むしろゆったりしてしまって。今度はうちにも呼ぶよ」

「いいの!?是非行かせて!そうだ、今度服を見に行こうよ」

「いいよ。オシャレな服あんまり持ってないし」

「あたしが選んだげる!」


 次に遊びに行く予定などを立てつつしばし沙希とおしゃべりして、お母さんから乾いて綺麗に畳まれた服と水着を受け取りお暇することにした。


 まっすぐ帰宅してお昼寝でもしようかと思っていたら、家に帰ったら帰ったで嬉しそうな母から根掘り葉掘りお泊まりどうだった?と聞かれ、疲れから夜はぐっすりと眠ることができた。

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