第23話 サキちゃんち
駅前まで向かうバスに揺られながら詳しい話を聞いたところ、「今日、家に誰もいないの」とか「両親にあいさつしてほしい」とかではなく、普通に家族に紹介したいらしい。
それならいいかと話がまとまり、サキの家にお邪魔することに。
バスが駅に到着し、歩いてすぐだからというサキについて歩いていく。10分ほど歩くと、早川さんは『早見』と表札のかかった細長い庭付き一戸建ての前で足を止める。
「あ、あたしの本名早見ね。
「僕は、
けっこう長いこと過ごしているのにお互い本名を知らなかったことに気づいて笑い合う。
「へえー八上ね。八上、八上沙希。うん。いいじゃん。あ〜、なぁに?何を想像してるのかなぁ?」
「あはは、ちょっと照れちゃった」
僕の名字に下の名前をあてがってまんざらでもなさそうな顔をする沙希に赤面していると、ニヤニヤ笑いながらからかってきた。
「じゃ、こんなとこで話してるのも何だし、入って入って。ただいまー!彼氏連れてきたよー」
「お邪魔しまーす」
玄関のドアを開けてくぐると奥から小学生くらいの男の子と幼稚園児くらいの女の子が走ってきた。続いてお母さんらしき人も顔を出す。
「ねーちゃんおかえり!」
「おかえりー」
「まぁまぁ、いらっしゃい」
「ただいま!弟の
「はじめまして、八上恭介です」
サングラスをとってお辞儀をする。翔太君と真希ちゃんが泣きだすんじゃないかとドキドキしていたがどうやら杞憂だったようだ。
「あらぁ、サングラスなんてしてるからどんな子なのかちょっと不安になったけど真面目そうな子じゃない」
「姉ちゃんの彼氏?」
「かれし?」
「あぁ、それは」
「恭介アレやってあげて!アレ!」
アレってアレだよな?ちょっと恥ずかしいけど、初対面の印象は大事だ。やるかぁ。
僕はサッとサングラスをかけ直すと、みんなの注目が集まったのを確認して出来るだけ優雅な所作でスッとはずす。そして目をカッ!と開く。
「オレの目は凶器だ、、だからサングラスを、その、しています」
いかん、キッズたちの純粋なまなざしを受けて尻すぼみになってしまった。早川さんは笑ってるし、ご家族の皆さんは「おぉ〜」と声をあげながらパチパチと揃って拍手をしてくれたのでよしとしよう。
「ぷふっ」
「面白いのねぇ、ほら。あがってあがって!ご飯までまだちょっとかかるから沙希の部屋でくつろいでてね」
えっ、ご飯?ご飯食べてくの?
「いえ、そこまでお世話になるわけには」
「いいのいいの!1人くらい増えても変わんないし、今日は7時にはみんな帰ってくるから」
沙希を見ると頷いているので、お言葉に甘えることにして荷物を持って「こっちだよ!」と階段を登り出す沙希に続いて階段を登っていく。
「あてぃしもいくー」
「オレゲームしてくる!」
後ろを真希ちゃんがトテっトテっと音を立てて階段を一段一段ゆっくり登ってついてくる。翔太君はリビングでゲームをするようだ、ちょっと気になる。なんのゲームするんだろ。
「へへっあたしの部屋にもついに彼氏が入るのか、、ここだよ!さ、入って入って!」
緊張しながらサキの部屋に入る。6畳くらいの部屋に少し大きめのベッド、勉強机があって、机やタンスの上にはオシャレな小物や可愛らしいぬいぐるみが置いてある。あとはクローゼットにローテーブル、クッションなど全体的にオシャレだが可愛らしい感じでまとまっている。あと、いい匂いがする。
「お菓子と飲み物もってくるからちょっと待っててね」
「うん」
手荷物を部屋のすみに置かせてもらっていると沙希が部屋を出ていった。入れ替わりに真希ちゃんが部屋に入ってくる。
「おにぃちゃん、あそぼう!」
「うん、いいよー」
真希ちゃんは屈託ない笑顔でこちらに近づくとクッションをポンポンとたたく。
「ここにすわって!」
「うん。なにして遊ぶの?」
「おままごと!!」
おままごとかー、ちょっと自信ないなぁ。などと思いながら真希ちゃんを見ていると真希ちゃんはクローゼットを開く。オシャレな服が並ぶ下の方に大きな箱があり、そこを覗き込んでガシャガシャと何かを探している。おもちゃ箱かな?
「あったー!これ!これつけて!」
「!!」
真希ちゃんがおもちゃ箱から取り出して持ってきたのはおしゃぶりとよだれかけ、それとガラガラ。そしておしゃぶりとよだれかけをこちらに差し出してくる。
「つけて!おにいちゃんはバブちゃんね!」
「えぇ、、」
想定外であった。躊躇っていると真希ちゃんは「イヤなの?」と言って悲しそうな顔をする。これはいけない。僕も役者の端くれである。赤ちゃんの演技くらいできなくてどうする。
僕は胸元にかけていたサングラスをテーブルに置くと腹をくくってよだれかけを装着。決意をもっておしゃぶりをくわえる。
「ここにねころがって!」
ガラガラを手に持ち、膝が前にくるM字でペタンと座る女の子座りをした真希ちゃんが、膝の間をトントンたたいて促してくる。覚悟を決めた僕は躊躇いなくその位置に頭がいくように仰向けに寝転がる。すると、真希ちゃんは満面の笑みでとても嬉しそうにガラガラを振って語りかけてくる。
「バブちゃ〜ん!ママでしゅよぉ!よちよち!えへーいいこだねー、よしよし」
「あぅ、ぁぅ、ばぶぅー。ママぁ〜!」
ガチャ、ガシャン
赤ちゃんになりきって真希ちゃんになでなでされだしたところでドアの方から物音がし、真希ちゃんと共に目線をやると、お盆をもったまま膝から崩れ落ちた沙希と目があった。
〜〜〜
「あ〜、びっくりした。マジで心臓に悪いわ」
「ごめん、まさかあんなことになるとは」
「おままごと、もぅおわり?」
「終わり終わり、恭介も。早くそのよだれかけとって」
「あっ、ハイ」
誤解は一瞬で解けたが沙希は「NTRを最悪の形で目撃した気分」と言っていた。僕の方もこれ以上彼女に見られたくない絵面もなかなかないと思ったのでちょっと言い訳できない。
よだれかけを外して真希ちゃんに渡し、手荷物からフェイスタオルを取り出して先程少し床に溢れてしまった麦茶を拭き取る。おしゃぶりは食器と一緒に洗うからと沙希が回収してお盆の上だ。
あんまり引きずっても真希ちゃんがかわいそうなので、その話はそこで終わりにし、楽しくおしゃべりすることに。
なんでクローゼットにおもちゃ箱があったのかというと、沙希と真希ちゃんは相部屋なんだとか。ベッドは一つだがセミダブルのベッドで一緒に寝ているらしい。沙希の家族は先程会ったお母さんと翔太君、真希ちゃんの他にお兄さんとお姉さん、お父さんがおり、今のところみんな一緒に暮らしているそう。
今日プールで遊んできた話に真希ちゃんがうらやましがる一幕などもあり、のんびりおしゃべりしていると翔太君が「ごはんできたって」と、呼びにきた。
ぞろぞろと一階へ降りダイニングへと移動する。ダイニングテーブルにつくと既に料理が並んでおり、お父さん、お兄さんお姉さんと見られる男女が席についていた。僕に気がつくと立ち上がって自己紹介してくれる。
「沙希の父の
「兄の
「姉の
「はじめまして、
「うん、末長くよろしく。騒がしい我が家だがくつろいでいってくれ」
「はい、ありがとうございます」
沙希やその家族が僕の顔を怖がらない理由がわかった気がする。沙希のお父さん、良一さんだがなかなかの強面なのだ。がっしりした体つきで雰囲気もある。だが優しそうな人だ。
あいさつを終えたところで由希さんがダイニングに入ってきてみんなで着席する。
「はーい、みんなそろったしいただきましょうか。今日は天ぷらよ。おかわりもあるから恭介君もいっぱい食べてね」
「いただきます」
そしておのおの食べ始める。この大葉にいろいろな具材が組み合わさったの気になるな。数も多いしいただいてみよう。これは、チーズか。こっちは豚肉だ。サクサクしすぎない衣との相性もよくとてもうまい。もりもり食べていると由希さんが話しかけてくれる。
「恭介君お味はどう?お口に合うかしら」
「とても、おいしいです」
「あら!よかったわぁ。お米のおかわりいる?」
「すいません、いただきます」
「あたしがよそってあげる!」
お茶碗を差し出そうとすると沙希が受け取ってよそってくれる。もりもりと、最初についであった倍くらいの量でこんもりと山になっている。
「ありがとう」
「どういたしまして!いっぱい食べてね!」
賑やかな食卓だ。家族で気兼ねなく話し、翔太君と美希さんはちょこちょこ口の周りに天つゆや米をつける真希ちゃんの口をぬぐったりお箸の持ち方を教えたりしている。
良一さんと由希さんに沙希との馴れ初めを聞かれたり、うちは一人っ子な話しなどをしていると、良一さんがそういえばと切り出してきた。
「恭介君、よかったら今日は泊まっていかないか?」
「いえ、そんな。ご迷惑をおかけするわけには」
「迷惑だなんてとんでもない。もう遅いし、うん。泊まっていこう。母さん、ビールを。」
どうやらビールを飲みたかったようだ。駅まで歩いても近いし、帰りたい気もあるが、沙希と真希ちゃんと翔太君から期待した視線を感じてしまい断りづらい。
「すいません、ご厄介になります」
「まぁ、よかったわぁ。ビール持ってくるわね」
「あたしの部屋で一緒に寝ようね」
「えっ」
えっ、沙希の部屋なの?早まったかもしれない。
〜〜〜
そのあと翔太君とお風呂に入ったり、ゲームをしたり良一さんにお酌をしながらお話ししたりして過ごした。
良一君はパワフルな野球選手をサクセスするゲームに熱中しており、僕がけっこう打つのが得意だとわかると重要な場面でコントローラーを渡してくれて、プレイヤー代打でヒットやホームランを打つと「すっげー!すっげー!」と喜んでくれた。
良一さんはお酒を飲んで上機嫌で「沙希から着替えをもってくるよう言われただろう?我が家はもともと準備万端だったんだよ」と、やたら準備がよかった訳を教えてくれた。そしていよいよ就寝する段になったのだが、、
「あの、沙希さん。僕の布団的なものは?」
「ここよ、ここ」
そう言って沙希はセミダブルのベッドをポンポンとたたく。ちなみに今はお互い風呂上がりのTシャツとハーフパンツのラフな格好である。風呂上がりの沙希はいつにも増していい匂いがする。
「真希は今日は翔太と寝ようねー?」
「やだー!まきもきょうちゃんとねるー!」
真希ちゃんはすっかり懐いてくれて僕のことを恭ちゃんと呼ぶようになっていた。
「あの、なんなら僕は床とかでも」
「「だめ!いっしょにねるの!」」
ハモッたよ。どうすっかな。いや、2人で寝ると絶対つらい。我慢できるかわからないし我慢できないっていっても彼女の実家でそういうのはなぁ。真希ちゃんも普段寝るベッドだし。
「よし、ここは3人で寝よう」
「やったー!」
「恭介ぇ、2人っきりじゃなくてもいいの?」
僕は喜ぶ真希ちゃんを横目に沙希をそっと抱き寄せると、真希ちゃんに聞こえないよう耳元に顔をよせて囁く。
「沙希、ごめん。2人っきりだときっと我慢できない。ほら、もうこんなになってる。でもほら、ここはさすがに、な?今度旅行に行こう。2人っきりで」
そしてそっと腰を押し当てると沙希の耳に触れるだけの軽いキスをする。沙希は顔を赤らめ、不満そうだったのが喜色の浮かんだ表情になり、確かめるように僕の股間をそっとさすってくる。
真希ちゃんに気づかれないかチラチラ見ていると両手を僕の頬に添え沙希の顔に向けた向きを変えられた。そしてうっとりした顔で目をつぶった沙希に唇を奪われる。仕方ないので僕も力をぬいて目をつぶり、沙希に応える。
「あぁーおねぇちゃんちゅうしてるー!」
「ふふっ、おやすみのちゅーよ?真希にもいつもしてるでしょ?」
普通に見つかってしまったが、沙希はなんでもないように屈んで真希ちゃんに目線を合わせると、ぎゅっと抱きしめてほっぺにちゅーをする。
「そっか!きょうちゃんだっこ!」
そして納得してしまった真希ちゃんに請われるまま真希ちゃんを抱きあげると、真希ちゃんからほっぺにちゅーをされる。
「えへへ、おやすみのちゅー!おやすみー!」
「じゃあ寝よっか」
「うん、おやすみ」
そして、ベッドに沙希・真希ちゃん・僕の並びで寝そべると沙希が部屋の照明を落として眠りにつく。
緊張して眠れないのではと思っていたのだが、体温の高い真希ちゃんに抱きつかれて思いの外すぐに眠りの中に旅立つことができた。
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