第15話 道場

 8月X日


 今日はマネージャーの林さんに連れられて事務所でお世話になっている道場にきている。


 悪役俳優は逮捕シーンなどでちょっとしたアクションを求められることが多く、ここはそういったオーバーなリアクションや特に受け身の取り方をしっかり教えてくれるらしい。


 横開きの扉を開けて林さんがごめんくださーいと呼びかけると、手前で指導していた壮年の男性がやってきた。スキンヘッドに筋肉の鎧をまとい、その上から道着を着ていてる。


「おらぁ!しっかり腹から声出さんかぃ!あっどうも林さん。今日は新しい門下生をご紹介いただけるとか。こちらの青年ですか?」

「はい。うちに新しく入った緋月です。よろしくお願いします。こちら吉本師範だよ」

「緋月です!吉本さん、これからよろしくお願いします!」

「はぁーこれはまた、、いい子が入りましたねぇ!うんうん。すらっとしていて鍛え甲斐がありそうだ。あんまりゴツくならないほうがいいですよね?」

「そこは緋月次第ですかね、どうする?」

「そ、そうですね。筋肉は欲しいですが林さんまではいかなくていいかな、と。」

「はは!安心してください。林さんまではなかなかいかないですよ!一朝一夕いっちょういっせきでつくものでもないですし、鍛えながら調整していきましょうか!」

「はい!」


 とりあえず見学をさせてもらうことに。器具を使ったトレーニングをしている人や、型をなぞっているグループ、奥の方では数人から十数人で組手のようなことをしている。


「まずは体力と筋力をつける基礎トレーニング、そして受け身の練習をしていただきます。」


「仕上がってきたらうちの道場の型の練習」


「そして最後に殺陣たてですね」

「殺陣?」

「時代劇とか戦隊ヒーローがイメージしやすいですかね、刀で斬り合ったりの戦闘シーンのこと、ですね。」

「迫力がありますね」

「よ〜く見てみてください。実はね、あれ当たってないんですよ」

「えっ、あっほんとだ!当たってない!」


 目をらしてよく見るとパンチやキックは当たっていないのに吹っ飛ぶリアクションを取ったり、投げられているように見えてタイミングよく自分から投げられたかのように跳び、しっかり受け身をとった上で痛がる演技をしているのがわかる。


「さぁ、ではひと通り見学したところでさっそく鍛錬していきましょうか。すでに事務所から月謝も道着代もいただいておりますので」

「えっ、あっ、はい!」


 チラリとハヤシさんを見るとしっかりサムズアップしていらっしゃる。


 道場の着替えスペースで吉本さんから道着を受け取り着替え、マンツーマンで筋トレの仕方とと受け身をみっちり教わった。

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