第14話 レッスンと映画

 8月X日


 今日は午後から演技のレッスンに来ている。今日の大崎先生は雰囲気のあるイケメンである。先生ご自身の言によると、先生はなりきり型だそうで毎回指導するテーマに沿って見た目からなりきってくる。つまり先生が女性の見た目できた時は女性的な演技のレッスンになる。


 最初はいつも発声練習。そして台本を渡されてまずはサッと目を通して僕が自分で考えた自分なりの演技をする。その後、先生が身振り手振りセリフを交えてシチュエーションやセリフ、登場人物の心情などの解釈を説明してくれる。その後一回通しで先生の演技を見て、最後に先生の演技を見た上で僕が演技をして指導してもらう。


「そうそう、あごを肩に当てるような感じで。ちょっと目をふせて、影のある雰囲気をつくって。セリフ!」

『どうせ、俺なんて。』

「ブラボー!今日もバッチリモノにしたね!」


 先生がとてもてくれるのでイケメンになった気分だった。演技のレッスンはいつも楽しい。


 〜〜〜


「ありがとうございました!」

「おつかれさま。こちらこそありがとうね。じゃあまた来週の水曜日のレッスンで」

「はい、ではまた水曜日に」


 先生と別れてスタジオを出る。

 スマートフォンを取り出して見るとメッセージアプリに通知がきている。早川さんだ。


『終わったら連絡して』

「今終わりました、と」


 送信するとすぐに既読がつく。そして返信が早い。


『駅の東口のヨンマルクカフェにいるよ』

「すぐ向かいます」


 返信を送り歩いて向かう。10分弱ほどでヨンマルクに着いたが、早川さんが見当たらない。キョロキョロしていると、派手目のギャルがこちらに手を振っているのが見えた。後ろを振り返るが僕の他に客は並んでいない。とりあえず、ギャルに小さく手を振りかえしてコーヒーを注文する。支払いを済ませてコーヒーの乗ったトレーを受け取りギャルのもとへ。


「えっと、早川さん?」

「そだよー。びっくりした?身バレ防止も兼ねて普段はこんな感じにしてるの」

「なるほど。たしかに全然わからなかったです」


 机にトレーを置き、椅子に座る。よく見れば早川さんだってわかるが、髪をウェーブにして濃いめのメイク大きな丸っこいサングラスをかけるだけでこんなにわからなくなるとは。身バレ防止か、考えたこともなかったな。


「キミはわかんないとダメでしょw。でもあれだねサングラス似合うね、そっちも身バレ防止?」

「いえ、僕の場合は、、」


 そう。僕もサングラスをかけている。社長にもらったプライベート用のものだ。それをゆっくりとはずす。


「目が怖いから」


 そして真っ直ぐ早川さんを見つめる。すると、、


「アハハハハハ!ウケるー!たしかにねー。街中にいたらちょっとヤバい系の人かと勘違いするかも。それにしてもサングラスのとり方さまになっててウケるわー。やっぱ練習してるの?」


 さっきのイケメン演技レッスンの名残かもしれない。先程のレッスンの話をしたり早川さんの話を聞くことしばし。お互いの飲み物がなくなったところで映画を見にいこうかと店を出たのだが。


「なんでそんなくっついてんの?」

「やっぱ嫌?」

「嫌ではないけど、ちょっと暑いかな」


 早川さんが僕の腕を抱いて寄り添って歩いている。暑いのも事実だがかなり照れる。そして慣れてないから歩きづらい。


「いや、こんな機会なかなかなないから練習させてもらおうかなって。女の子同士ではやるけど、男性とこうやって歩くことってないじゃん?しかも今後こういうシーンありそうだし」

「練習か」


 なるほど。練習か、練習なら仕方ないな。もしかしたら僕にもカップルの演技が求められる日が来るかもしれないしな。練習なら仕方ない。うんうん。できるだけデレデレせずすました顔で歩こう。


 しかしあれだな、やっぱり女の子と歩いてると時おりチラチラ男性からの視線を感じる。一人で歩いてる時に感じるヤバい人を見る目と違って新鮮だ。、、うっかり目が合うとサングラス越しなのに踵を返していくのはいつも通りだけど。照れないよう気をつけて歩いてるいるとすぐに映画館に着いた。


「今日はね、カップルデーなんだよ。」


 言われて見回すとたしかにカップルが多い気がする。あまり混雑していない列に並びチケットを購入する。『抜け出せ!囚人高校』か、いったいどんな映画なんだろう。


「ねぇねぇポップコーン何味がいい?」

「キャラメルが好き」

「オッケー!ちなみに私は塩バターが好きだから覚えておいて。ハーフで買うねー。ドリンクは?」

「メロンソーダで」

「え?」

「メロンソーダで」

「お、おっけー!お姉さんキャラメルと塩バターのハーフのポップコーンとメロンソーダとアイスティーLサイズで!」


 注文と支払いをしてくれた早川さんにお代の半額を渡して店員さんからトレーを受け取る。


「さ、いこいこ!」


 〜〜〜


『抜け出せ!囚人高校』

 ここは国立囚人高校。中学生までに犯罪を犯したり素行が著しく悪く、このまま一般の高校や社会に出ていくと社会に悪影響が出ると判断されたものが強制的に入学させられる。


 高等学校でありながら学業の授業はほとんどなく、徹底した道徳教育で生徒たちを更生させることを目的としている。生徒たちは入学時に拘束具により自由を奪われ洗脳に近い授業と労役を『更生した』と判断されるまで受ける。1年ほどで卒業する生徒もいれば、創立以来60年間居続ける者もいるという噂もある。


 そんな学校に冤罪により入学することになってしまったオレ、佐藤浩一は入学式で拘束具を取り付けられながらなんとかしてこの地獄を抜け出し、冤罪をでっちあげた元クラスメイトと教師に復讐を果たすことを誓うのだった。


 ⭐︎


 洗脳に近い授業と聞いていたが、机に拘束されてアイマスク、イヤホンから社会のルールを流されるくらいだ。そして1時間ごとに小テストがある。これくらいなら余裕があるな。労役は家具などを作るようだ。間に合わなかったりちゃんと作らないともれなく罰則か、厳しいな。


 ⭐︎


 1週間経った、思ったよりキツイ。同じ音声を聴き続けることがこれほどキツイなんて。しかも昼休憩まで休み時間もないから尿意が、、労役が!体を動かせる労役が待ち遠しい!!


 ⭐︎⭐︎


 ここでの生活も1ヶ月最初はイキり散らかしていたルームメイトもすっかり元気がない。それはそうだ。労役とトイレと風呂の時間以外はガッチガチに拘束されている。食事は朝も昼も夜も栄養たっぷりのシリアルバーと水。正直、おかしくなりそうだ!


 ⭐︎⭐︎⭐︎


 3ヶ月目、60年間ここにいる伝説の初期性のじいさんの介護として風呂とトイレの世話をするようになった。あきらかに、あきらかにボケて見えるのにどうしていまだ囚われているのだろうか。教官にたずねてみたところ、もはや外の世界へ出ても生きていくすべがないとの本人の希望だという。なんてことだ!こんなのは絶対間違っている!ボケてしまったじいさんの世話をしながらじいさんにわれるままにここへくるまでの経緯や、必ずリベンジすると誓った2人について話す。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 ついに糸口を見つけた!!というか、あのじいさんボケてなかった!あれから3ヶ月、もはや模範生とみなされた僕は完全にじいさんのお世話係になっていた。誰もいない2人きりになった時に急にじいさんがハッキリした口調で語り出した時には思わず声をあげそうになってしまった。じいさんが言うには僕のように冤罪をでっち上げられてここにくる人間はやはりゼロではないということ。とはいえこういった学校であることから明らかに模範的な態度であっても擬態ではないかしっかりと見極めた上でいくつかの窓口を経て申請を行い、対象の素行を秘密裏に捜査しを行うとのことだ。

 僕の場合はじいさんが窓口になってくれるとのこと。先に受けたじいさんがここにいる理由はもちろん嘘ではないが、こういった窓口になることを業務として請け負っていて、給金もでるし申請すれば外出もできるんだとか。じいさんまさかの国家公務員だった。でもこれで希望がもてたぞ!!


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 この学園に来て9ヶ月、歴代最速での卒業となった!学長から卒業証明書を手渡される際、僕をこの学校に入れた元クラスメイトと教師は人生の大半をここで過ごすことになるだろうと教えてもらった。少なくても30年、増えることはあっても減ることはないと断言すると言われ、胸がスッとする思いだった。またこの件を調べてくれた刑事さんは、この件に関してあちらの家族や親族、または友人などに類するものから何か言われたらこういってやるといい「あなたもいきますか?」とね。難癖をつけられただけでも犯罪を肯定するのかとの観点から短期間(1年以上)入学させられるらしい。


 力強く「わかりました。本当にありがとうございます!」と答えて退出する。


 門を出るまでに、教官たちがわるわるやってきて、本当に大変だったな!もう隙を見せるんじゃないぞ!と、声をかけてくれる。


 ありがとうございました!そう返事をしながら思う。そうだ。つけいる隙があったからつけいられた。僕は運良くがある時代に入っていたから短期間で出ることができたが、窓口がない時代だったら、心折れて自我が崩壊していたらと思うとゾッとする。ここはを目的に掲げてはいるが本当の目的は。実際ここができてから犯罪率はぐっと減った。


 後ろを振り返るのはやめだ。前を向いて、まずは遅れた勉強を取り戻して真っ当な高校を目指すぞ!


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 モニターの画面がブツンと落ちる。そしてビデオキャプションが表示される。

『国立囚人高校とは』


 ここはとある中学校の教室。生徒たちの手元の教科書を見るに道徳の授業だ。


 大半の生徒が「へぇ」といったとりとめない表情をする中、画面をしっかり見る者、顔を青くするものなどもいる。そして教師は言う。


『これは実話を元にしたノンフィクション作品です。みなさんはもちろん、、入学したくはないですよね?普段から言動には気をつけましょう。』


 そして画面は教室の窓から上空へ、、空から向きを変えると何重にも隔壁や有刺鉄線電波のジャミング塔などがある国立囚人高校が、、


 END


 〜〜〜


「「ふぅ、、」」


 2人揃って息をつく。


「もうちょいコメディだったりなんだりあるかと思ったらずっとシリアスだったね」

「冤罪の恐ろしさと隙を見せないこと、諦めないことの大切さを知れた、、」

「でも勉強にはなったね。全身拘束されてたから頭の中で考えてることのシーンとか」

「そうだね。でも拘束かぁ」

「実は寝る前に夢としてもあもあ出てきた水着のアイドル役のオーディション落ちたんだよね」

「えっ」


 なんだと!?じゃあもしかしたらあそこで早川さんが出ているかも知れなかったのか、、


「ね、朔夜はあの子と私、どっちが好み?寝る時思い浮かべるならどっち?」

「、、、。早川さんかなぁ」


 つい昨日実際に見たし。


「ごめんごめん、これじゃあ言わせたようなものよね。うっし!ダイエットがんばろ!」


 改めて早川を見る。バスト、しっかりとある。ウエスト、引き締まってる。ヒップ、そこそこある。ふともも、excellent!

 早川の目を真っ直ぐ見て言う。


「そのままでいい」

「えっ、なに?」

「ダイエットとかせずにそのままの体型を維持してほしい。すごく、いい体をしていると思う」

「ま、マジ?えー?じゃあ、ちょっとだけこのままでいようかなぁ?」


 早川は照れているようだ。


 早川の最寄り駅まで送って帰宅した。帰り道やたら早川が上機嫌だった。

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