第13話 その後

「エロい、、」


 監督が思わず、といったように呟く。

 やりすぎてしまっただろうか?


「すいません、、」

「いや、大丈夫大丈夫。つないだら思いのほかってだけだから。でもこの、最後の健一が去ったあとの声すごいな。なにやったの?」


 あぁ、それは


「私、耳舐められたのって初めてで。みなさんが健一君が走り去るシーンを撮りにいったときに緋月君にお願いしてもう一回やってもらったんです。そしたら、周りに人がいなかったからか思いのほかしっかり声がでちゃって。

 体を触られるのは女友達で慣れてるんですけど、耳は弱かったみたいですね」

「ですね」

「そうなんだ、、えっと、使っていいの?」


 心配そうに聞く監督に早川はむしろ嬉しそうに

「もちろんです!ぜひ使ってください!」

 と快諾。監督は一応事務所にも聞いておくよと言っていた。


 1話あたり1時間ある番組とはいえ、メインの登場人物でない僕らの出番は少ない。今日はこれで帰ってもいいし、しばらく見学していってもいいとのこと。健一役の桐原さんとのシーンは桐原さんが抜群のリアクションを見せたので結局1発OKだったが、僕の手の動きとか表情のアップ、三上が影山を見上げたり健一を見つめる表情をアップで撮ったりとけっこうなカットをとった気がするのだが、あれでスムーズだったらしい。充分疲れたぞ。あれをたくさんやるとか主役は大変だな。


 紙コップにコーヒーをもらって休憩していたが、思いのほか疲労したので今日はもう帰ろうと思う。早川さんは残って見学していくとのことなのでここでお別れだ。


「じゃあ、僕はここであがります。お先に失礼します」


 そう告げると早川さんはスマホを取り出して


「緋月君はメッセやってる?連絡先交換しようよ」


 と、メッセージアプリを起動しながら言ってくる。僕の少ない友達欄に8人目の友達が追加された瞬間だった。


「SNSはやってる?やってたらフォローするから相互フォローしてよ」

「SNSはやってないです。今度事務所に聞いておきます」

「そうね。今どき必須よ必須。アカウント作ったら教えてね。長い付き合いになりそうだし、最初のフォロワーになったげる」

「まだ1話ですもんね。今後ともよろしくお願いします」

「仕事以外でもダル絡みするからね!よろしく〜。じゃあお疲れ様。」

「えっ」


 そう言って早川さんは見学に向かってしまった。


 〜〜〜


 帰り際、車の中で林さんから「すっごくよかったですよ!いやぁ、あれはゲスかったなぁ!」と、褒められているとは思えないお褒めの言葉をいただき、SNSの相談をして無事帰宅。


 風呂に入り、母の手料理を食べて布団にもぐりこむ。照明を消してまぶたを閉じる。すると、スマホが震えている。着信は、、早川さんだ。

 しばし沈黙するも、意を決して通話ボタンをタップする。


「も、もしもし?」

「もしもーし。早川です!今日はおつかれさま。今大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

「なんかモゾモゾ聞こえるけど何してんの?」

「寝るとこだったんで、布団に入ってるからですかね?気になるなら起き上がりますけど」

「オッケー大丈夫、そのままでいいよちょっと待ってて。私も布団入るわ」


 なぜあなたも?通話口からごそごそ聞こえてくる。あっ、ちょっとドキドキする。


「お待たせー。てか、メッセージ見てよー。けっこう送ったけど既読つかないから見てないでしょ」

「あー、すいません。なんか疲れちゃって家帰ってから風呂入ってご飯食べてそのまま布団直行でした」

「ふぅん?布団に直行ねぇ」


 なにか、不愉快なことを思われていそうだな。


「なにか?」

「いや?なんでも?緋月君思い出してするのかな?って」

「寝る気まんまんでしたが?」

「いいよいいよ♡そういうことにしといたげる!ねぇ、寝る気だったなら寝落ち通話付き合ってよ」

「寝落ち通話?」

「どっちかが寝落ちするまで電話して、寝なかったほうが通話切るの」

「えぇ、、なんですかそれ」

「いいじゃーん、しようよぉ」


 なんでそんなにやりたそうなんだよ。しかも、なんかフランクだなぁ。今日一日でそんなに距離が縮まって、、!おや?距離が縮まって、メッセージを交換して、通話までしている。これはもう友達なのでは?


「早川さん」

「なぁに?」

「僕たちって、もう、友達ですか?」

「当たり前でしょう?むしろ友達以上まである」


 いよっしゃぁぁああ!この仕事を始めてからもう3人目の友達である。ん?友達以上?


「友達以上ですか?」

「そりゃあ、お互い触り合って濡れ場を共にした仲じゃん。友達以上っしょ。それより今日は寝落ちまで付き合ってよ」

「ま、まぁいいっすけど、ぶっちゃけ僕かなり眠いっすよ?」


 実際眠い。ふああぁ、思ったそばからあくびが。


「いいよいいよ。ねー緋月君はさ、明日ヒマ?」

「いや、明日は演技のレッスンがありますね」

「レッスンとか2時間くらいでしょ。その後は?」

「その後はまぁ、帰ってゲームするだけかな。あっ宿題もそろそろしないと、、」

「じゃあレッスンのあとちょっと遊ぼうよ。映画見よう映画」

「映画、、?」

「うん、映画。勉強にもなるし、いいと思わない?」

「思う、、」

「じゃあ決まりね!明日また連絡するから。もう寝ていいよ」

「おやすみ、、zZ」

「おやすみ!、、もう寝ちゃうとか、ホントに眠かったんだね。でもごめんね、お姉さん悪いお姉さんだから朔夜君の寝息しばらく聞いちゃう。キミも悪いんだからね?私が今こんなに火照ってるの、キミのせい、なんだから、、」


 〜〜〜


 昨晩は結局僕の方が先に眠ってしまった。けど、通話時間1時間30分くらいあるけどなんで?けっこうすぐ寝ちゃったような気がするんだけどなぁ。寝落ち通話ヤバいな。夢に早川さん出てきたし、なんかちょっとえっちな夢だったし。こんなこと言えないなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る