第10話 学園モノとバディ
8月X日
「こんにちは!緋月君、よくきてくれたね。『グリードハイスクール』担当プロデューサーの
「はじめまして、緋月朔夜です。よろしくお願いします!」
白石さんの紹介で、深夜ドラマの担当プロデューサーの浪川さんにご挨拶に伺った。
「いやー、キャスティングがなかなか決まらなくて悩んでた時に白石君のところの試写にお邪魔してね。イメージにピッタリだったんだよ」
「ありがとうございます。それで、どういったドラマなんですか?」
「そうだね。まずはこれ、台本。緋月君はこの
浪川さんから台本を受け取る。しかしすごい名前だな。
「すごい名前ですね」
「そうだね。でもって、グリードハイスクールは深夜帯の学園ドラマなんだけど、ちょっと面白い取り組みを考えていて」
大元の物語や主人公、決められたシーンはあるが、配役ごとに2人〜3人の生徒どうし仲の良いグループの設定があり、そのグループ内のシーンでの演技はグループ内で自由に演じてほしいという。さらに
「さらに、脚本は一週ごと放送後に微調整が入る。シーンが良ければそのグループの出番が増えるんだ!グループの仲間と協力していい演技をしてほしい。そしてその出番を増やしたい欲望、グリードを煮詰めるところであるメイキング映像も撮影する。放送では毎週のエンドロールで流す予定だよ」
「それは、、ちょっと面白そうですね」
「そうだろう!そうだろう!我ながらなかなかいい思いつきだと思ってるよ!」
思いつきなんだ、、
「それで、出演のほうはどうかな?やってくれる?」
「是非に。よろしくお願いします」
「ありがとう!こちらこそよろしくお願いします!じゃあ、顔合わせとロケスケが決まったら事務所のほうに連絡するからよろしくね」
〜〜〜
翌日
ちょうど演者全員のスケジュールが合う日とのことで、まさかの翌日に撮影日が入った。
できるだけ台本は読み込んできたが、シーンの前にもう一度読み直すことにしよう。
現役で生徒の通うとある私立高校の教室、そこに監督、スタッフ、演者がそろい顔合わせと自己紹介が行われた。
「青葉健一役の
主人公役のすらっとしたイケメン、桐原君はテレビで見たことがある。なかなかセクシーな細マッチョボディーをしており、ワイドショーで上半身を脱いだ雑誌のグラビアを紹介されていたっけ。
「朝倉ゆうき役の三好奏《みよしかなで》です」
ヒロイン役の彼女も見たことがある。そこそこ有名なアイドルグループのメンバーだったはず。
「吉田茂役のFUMA《ふうま》です」
知ってる!!親友役の彼は男性アイドルグループEnterのFUMA君だ。何を隠そう僕はEnterのファンなのだ。生でみれる日がくるとは!サインとかもらえないかな?
「三上早苗役の
この子は設定上で僕の役と仲の良いグループの子だ。僕のグループは僕と彼女の2人だったからこのドラマの中では実質バディのようなものだな。黒髪で大人しそうな感じの人だな。
「影山狂兕役、緋月朔夜です」
みんなからのゆるい視線が集まる。僕はまだエキストラと端役でしか表に出ていないから、完全なる無名。見たことないやつだなくらいにしか思われてないのだろう。
と、早川さんと目が合う。あちらも僕の役名から同一グループだと把握したのだろう。
しかし、さすが学園モノ。演者もみんな若いな。いや、教師役の人はさすがに若い人ばかりではないが。
「山城昇役、佐藤洋一です!」
「米山晴役の伊藤美希です」
うっそだろ知り合いいたわ。しかも生徒役かよこいつら20代半ばだろ。
〜〜〜
「緋月君久しぶり〜」
「伊藤さん、お久しぶりです」
「ゆうてメッセージでちょこちょこ連絡取り合ってるけどな」
自己紹介が終わるといったん自由時間となり、旧知の2人に話しかけられた。すると早川さんもやってきた。
「はじめまして、緋月君。伊藤さんと佐藤さんも。3人は知り合いなの?」
「おう、前に同じ現場で共演してな」
「といってもチョイ役だけどねー」
「早川さん僕と同じグループですよね。よろしくお願いします。」
「そうなんだ。よろしく。2人と知り合いなら教室とか大勢いるシーンでは4人で固まっててもよさそうね」
なるほど。そういうのもあるのか。
そのまま4人で少し談笑し、佐藤さんたちと別れる。
「じゃあ改めて自己紹介を、フレッシュプロダクション所属の早川沙希よ。19歳。今日は役に合わせて地味めだけど、普段はグラビアを中心に活動してます。一応アイドルよ」
グラビアアイドルさんだったのか。
「ヴィランズ所属、タレントの緋月朔夜です。この7月に入ったばかりで、あまり経験はありませんがよろしくお願いします」
「7月って今年の7月?」
「そうです。正確には7月21日ですね。」
「まだ1ヶ月経ってないじゃない!それでもうドラマに出れるなんてすごいじゃない!さすがヴィランズねぇ」
さすがヴィランズ?
「うちの事務所を知っているんですか?」
「そりゃあね。あの東郷雄一郎さんの事務所だもの」
社長って有名なんだ、、なんで有名なのかはなんか怖いから聞かないでおこう。
「私は一年やってドラマは今回が初めて。しかも頑張れば出番が増えるって聞いてチャンスだと思っていたのに、大人しい見た目の役とかどうしようかと思ってたけど、もう台本読んだ?ちょっと色っぽいシーンあるじゃない?あれがチャンスだと思って」
「えっ」
たしかに色っぽいシーンはあった。ただ、演技のしようによって印象がだいぶ変わりそうだったけど、えっ。
すると早川さんは訝しげに
「えってなによ?美術室のシーンよ?」
「あれって、見せ方によってだいぶ振り幅があると思うんですけど、お色気シーン的な方向でいくんですか?」
するとキョトンとして
「当たり前じゃない?普段グラビアしてる私をキャスティングしてるのよ?頭ナデナデしてどうするってのよ」
なるほど、、それもそうか。
「歳上の私が相手で申し訳ないけど、グラビアと違って私1人で色っぽくなってもおかしいじゃない?」
「たしかに」
「だから、よろしく頼むわよ?」
『はーい!じゃあまず教室のシーンから撮影しまーす!』
と、そこでスタッフさんから呼び声がかかった。
「いきましょうか」
「ですね」
〜〜〜
教室のシーンはクラスメイト役と教師と全員参加するものの、ほとんどが主人公とヒロイン、そしてその親友のカットで、他のグループのシーンは少ない。授業風景や休み時間、放課後の背景となるくらいなので、割と自由。とりあえず真面目に授業を受けてノートに書き写してみたり、佐藤や伊藤とダベってみたり、早川もきたりしていた。主役の外のグループが思い思いの演技をするところもちょこちょこ撮影されているあたり、シーンがよければこういったカットも使うのであろう。初回だし紹介カットかもしれないけど。
そして全体のカットの撮影が終わると僕と早川さんのシーンも撮っていく。
放課後に三上(早川さん)の耳元で影山(僕)が「美術室で」とささやき、去っていく。ためらいがちにそれを追うようにして教室を出る三上。
目撃した主人公が廊下にでて見回すと、足取り重く美術室の方へ歩く三上の姿が。
なにかある、よくないことが。そう思った主人公は自分も美術室へ向かうのだった。
主人公とのやりとりもないためおおよそすんなり撮れたんだが耳元でささやくときに『ヒッ』みたいな表情をするはずの三上さんが悩ましい声を上げてしまって何回かリテイクした。わざとなのか耳が弱いのかわからないが、ここはビクっとするべきであって、ビクンじゎないと思うんだ。
ともあれ、次のシーン。初めて主人公の青葉健一とのからみになるため、桐原さんと話にいった。しかし、できるだけ新鮮なリアクションをしたいので、動きのネタバレはしないでほしいとのことで、軽いあいさつをするにとどまった。知らなかったが、リハーサルからカメラは回っているらしく、そっちの方がよければそのまま使うこともあるそうだ。とりあえず台本に添いつつどんな感じにするか早川さんと相談するか。
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