第9話 ロケアップと次の仕事
8月X日
初めての悪役としての演技を終え、最終回の撮影の見学にきている。
前回役をいただいてしまったのでさすがにエキストラでの出演はない。そしてこの回には一連の事件の黒幕役として、我が事務所のエース『
南條先輩は50代のベテランで事務所で何度かお会いした際には渋くてかっこいいイケオジという感じでチョイ悪感すらなかったのだが、現場で見る南條先輩はなんというか、すごい。
腹の底にズン!とくる存在感があり、これぞ悪役って感じで遠巻きに見ていてもピリピリする。僕の顔の怖さなどかすんでしまうだろう。
林さんにそういったら、それはないよと苦笑されてしまった。解せぬ。
楽屋にあいさつに行った時点ですでに役に入りつつあった先輩にのまれてしまいそうになったほどだったんだけどなぁ。
おっと、撮影が始まったようだ。先輩の演技をしっかり見て勉強させてもらわないと。
〜〜〜
オフィスの社長室のようなセット
高そうな机に高そうな椅子そこにどっしりと座る黒幕の男の前に主人公が立つ。
「あなただったんですね?」
数々の証言をもとについに黒幕にたどり着いた主人公は決意をこもった目で男を見つめる。
それに対し男は感情のない目で主人公を見つめる。視界が男に近づくにつれ徐々に目に力がこもってくる。
「よく辿り着いたと言っておこう。しかしそれだけだ。お前にはまだ見えていないものがある」
たじろぐ主人公に黒幕の男はゆっくりと語りかけるのであった。
〜〜〜
「「おつかれさまでしたー!」」
ロケアップの打ち上げにちょっとだけ参加させてもらえることになった。深夜になる前に林さんに送ってもらう予定である。みなさんは手に手にビールなどのお酒を持っているが、僕は高校生なのでジンジャーエールだ。エールってついてるとなんかそれっぽいよね。
「ポイント&ラインの撮影、お疲れ様でした!みなさんのおかげで事故などもなく良い雰囲気のなか撮影を終えることができました。この映像をもとに精いっぱい良い作品を作らせていただきます!では、かんぱーい!」
「「「かんぱーい」」」
監督のあいさつが終わると歓談がはじまる。お酒をつぎにいったりするのかな?と思っていたがビールの方はみんなジョッキなのでなくなりそうなら都度注文すれば良いようだと乾杯で一気飲みした方々を見て察する。
さて、どうしようか。緋月君も出演したんだからと誘われてホイホイついてきたが作法もなにもわからない。一応林さんに聞いてみたがこの監督の飲み会は細かいことを気にしなくて大丈夫だよと言われてしまった。
とりあえずよくわからないなりに周囲の方が話をするのをうんうんと頷きながら拝聴しつつ料理を食べる。全体的に味付けが濃くてうまい。特にこの若鶏のザンギがうまい。これはどこの部位だろうと焼き鳥を手に持って見ていると、隣にいる役者の先輩が声をかけてきた。たしか白田さんだったかな。
「焼き鳥は串うちするのが大変なんだよ。だから串から外さないでそのまま食べてあげて。あとその部位はせせりね。首の肉」
「なるほど。せせりですか」
言われたとおりそのままかぶりつく。なかなかうまい。
「あ、ちなみに役で知ったんじゃなくて焼き鳥屋でバイトしてるだけなんだけどね。店長がよく嘆いてるのよ。頑張って串に刺してるんだからバラさずそのまま食べてよって。
でもいまじゃ手ずから串うちしない店も増えたみたいだけどね」
「へーそうなんすね。あっこの管みたいなのなんだろ?」
「それはシロモツだね。一回茹でてから串にさすからいちばん手間かかってるかもな。油がのってておいしいよ」
「あ、ほんとだ。くにゅくにゅしてる。おいしい」
「君、なんか食べ方がかわいいな。参考にしたいからちょっと見ててもいい?」
「えっ、そうですか?気にならないんでいいですけど」
「ありがとう。」
それから白田さんに見守られつつ焼き鳥の部位を教わりつつ食べていると林さんがやってきた。
「緋月君、プロデューサーの白石さんが仕事の紹介をしたいって言ってくれてるからご挨拶にいこう」
「わかりました。それじゃあ、白田さん、また」
「うん。またね」
おしぼりで口元と手をぬぐい席をたつ。そして林さんに連れられて上座の白石プロデューサーの元へ。
「白石さん、お疲れ様です」
「緋月君もお疲れ様。先日は出演してくれてありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「それでね。知り合いのプロデューサーに緋月君の話をしたらえらく興味をもたれてね。緋月君がよければ紹介してもいいかい?深夜ドラマなんだけど、どうかな?」
「是非、お願いします」
「よかった。学園モノは出演者が限られるからね。なんか、面白い試みを考えてるみたいだし、彼も喜ぶよ」
学園モノ?
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