第4話 トントン、トントン

 林さんと別れ少しフワフワした気持ちで電車に乗り、自転車をこぎこぎ帰宅する。

 玄関をぬけると母が晩御飯を作っていた。


「ただいまー」

「おかえり〜。遅かったじゃない。友達と遊んできたの?」


 にこやかに振り返る母に苦笑いしながら名刺を見せる。


「いや、そんな友達いないから。なんか、駅前で強面のひとにスカウトされてさ、悪役俳優にならないかーって」

「スカウト?俳優!?」


 母が火を止めてこちらにやってきて名刺をのぞきこむ。


「“ヴィランズ”?聞いたことないわねぇ?

 うーん、ホントに大丈夫なところなのかしら?芸能事務所にスカウトっていうと詐欺みたいなのもあるっていうけど、あんた男の子だしねぇ。どんな人だったの?」

「顔は怖かったけど悪い人じゃなさそうだった。もし前向きに考えてくれるならご両親にもお伺いに行くって」


「えっ、あんた住所とか教えたの?」

「教えてないよ。興味を持ってくれたら名刺の番号に連絡してくれって」


 母は少し心配そうだ。


「そう、とりあえずお父さんにも聞いてみなきゃね。それで?やってみたいの?」

「うん。ちょっと興味あるくらいだけど、やってみたいかも」

「そう、、高校生だしね。ふふっ。恭介にも曲がりなりにもやりたいことができたのね。お父さんにメール、しとくわね」

「?」


 なんだか母はうれしそうだ。


 〜〜〜


「ただいま〜」

「父さんおかえり」

「おかえりなさい」


 夕飯が出来たころ、父が帰ってきた。なんだか上機嫌だ。


「聞いたぞ恭介!やりたいことができたんだってな!」

「ちょっとだよ?ちょっと」

「それでもだ。おまえ高校生になってから元気なかったからな。責任は俺がとってやるから飛び込んでこい!母さん今日は本物のビールにしてくれ」

「はぁい。でもまだ名刺をもらっただけなのよ?」

「そうだよ父さん」

「それでもだ!恭介にやりたいことができた。俺たちにはそれが一番うれしいことだ」

「ふふっ、そうね」


 〜〜〜


 夕飯を食べた後、父は林さんに電話をかけると林さんからこちらはいつでもお伺いする用意があります、とのことで、急な話だが翌日の昼過ぎに我が家にくることとなった。


 翌日、お昼ご飯を食べ3人でそわそわして待っていると夏なのにダブルのスーツにネクタイまでビシッときめた林さんが菓子折りを持ってやってきた。


「芸能事務所ヴィランズの林と申します。昨日はお電話いただきありがとうございます!」

「恭介の父の八上孝一やがみこういちです。」

「母の芳子です。」

「あらためまして八上恭介《やがみきょうすけ》です。」

「恭介くん!興味をもっていただけて本当にうれしいよ!こちら、つまらないものですが!」


 〜〜〜


 僕がやってみたいと言ったからか上機嫌な両親と非常に乗り気な事務所のやりとりはスムーズで、トントン拍子で話は進み、僕は悪役タレント事務所ヴィランズに所属することが決まった。

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