第3話 スカウト

「林、慶一さん?」

『はい。はやしけいいちです!』


 結局、流されて喫茶店に来てしまった。

 駅内のオシャレなコーヒーショップではなく、駅前にこんなところがあったのかというような珈琲店に。店内に人はまばらだが、僕とこの強面な男性がいてもお客さんは誰も気にしていないようだ。


『あぁ、ここはね。私はもちろんウチの事務所のいきつけでして。みんな慣れてるんです。それで、ですね。タレント業務にご興味は?』


 常連さんが多くて強面に慣れていると。いい店だな。僕にとっても。


「タレントって、僕みたいなのにバラエティ番組にでも出ろと?」


『もちろん、そういった仕事もあります。ですがメインは俳優になりますね。』


「俳優、、」


『まぁ、とりあえず注文を。アイスコーヒーでいいですか?すいません、アイスコーヒーを2つ』


 僕が頷くといつのまにか傍にそっと立っていたウエイターさんに注文を告げる林氏。

 おひやとおしぼりを置いてお辞儀をするとスッと下がるウエイターさん。

 お冷を一口、レモン水が乾いた体にしみる。


『昨今はインターネットの仕事なども増えてきましてね。私どもの事務所でも俳優一本ではなく幅広く請け負ってくれる人材を求めているんです。ですが、事務所のタレントの多くは俳優として定着したイメージが崩れるのをいやがりまして。まだ色のついていない若いタレントを探していたら、キミに出会ったということでして。』


「なんで、僕なんですか?自分で言うことでもありませんが見てのとおり特別顔がいいなんてことはありませんよ?」


 疑問を伝えると林氏は興奮した様子で語り出す。


『いやいやいや、あなたはスペシャルですよ!身長もある。スタイルもいい!顔も整っているし、なによりその目元、、!

 数々の強面を見てきましたが惚れ惚れするような凶暴な目だ、、。凶悪犯でも、とびきりサイコな愉快犯でも冷酷な暗殺者でもなんでもできそうだ!』


 ドラマとかの配役のことだろうけど、犯罪者に見えるって?褒められているだろうことは雰囲気でわかるが、少しムッとする。不満を込めてほんの少し睨みつける。


『ッ!!キミのその目は本当に素晴らしい。褒めているんです、もちろん。我々の業界ではとんでもないイケメンフェイスなもので、少し興奮してしまいましたが。

 そうですね、耐性がない人相手ですと怖がられてしまうのでは?目に圧がある。いや、もちろんいい意味で、ですよ?普段お困りなら伊達眼鏡でもかけるとマイルドになっていいですよ。弊社のタレントがサングラスをかける理由の半分はそれです。もう半分はかっこいいからとかですけど。』


 僕がイケメンとかどういう業界なんだろう?でも、伊達眼鏡か。いいかもしれない。


『名前のとうり、ウチの事務所は悪役俳優の事務所なもので、君のその目元はとても魅力的ですよ。』


「悪役俳優、、」


 この目が魅力的、か。少し興味が出てきたかな。でも、あれだよな?悪役ってことはやられ役ってことだよな?あとは犯人役とか。


「悪役とは具体的には?やられ役ってことですか?」


『もちろんそういった役回りもあります。ですが、ときには主役を張ることだってあります。それに、どんな役回りでも俳優それぞれが美学をもって演じています。魅力的な仕事だと思いますよ。』


 なんか、だんだんこの強面が優しい顔に見えてきたな。ちょっといいかもという気持ちがつよくなってきた。


「仕事内容は?僕は高校生なので、興味があるとしてもできない可能性もありますよ?」


『最初はエキストラとか、端役になると思います。あとは写真撮影とかですね。

 あなたならすぐに成果もでると思ういますが、人気が出たらバラエティ、イベントなんかの仕事。あとは、これはまだオファーが少ないので実際のところはわかりませんが、配信活動とかゲームのイベントなんかも想定しています。

 もちろんご両親にはこちらからお伺いさせていただきますよ。』


 ドラマやバラエティ、イベントか。

 どうしよう、ちょっと楽しそうかもしれない。

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