第2話 プロローグ

 高校一年生の夏。一学期の終業式を終えて、僕は1人で下校していた。電車と自転車を乗り継いで1時間弱の自宅までの間には、喫茶店やファストフード、カラオケなどなんでもあるが、1人で寄りたいところなど書店くらい。どこに寄る気にもならずまっすぐ駅へ向かう。


 うだるような暑さに足取り重く、思い返すのは全然友達ができなかった一学期。いや、クラスの誰とでも仲の良い男子速水と、クラス委員の柿崎は友達といってもいいだろう。


 同じ学年には地元から通学に1時間弱かかる高校に同じく進学した地元の友人だって数人いる。


 まったくいないわけじゃないんだ。友達はいる。でも、中学生の頃まではクラスみんなとそれなりに仲良くなれていたから、少し寂しい。


 友人といえるだろう速水と柿崎がいうには目力がありすぎるらしいけど、要は目が怖いんだろうなってことは察している。目力を弱めてみようと試しに目をすがめてみた時には『怖っわ!』とか言われたし、通りすがりの生徒は目を逸らして足早に去っていった。


 だいたい入学式後のホームルームで自己紹介のために立ち上がっただけで悲鳴をあげられ『君!』るとか、『そこの青年!』どんだけ、ん、、?


『キミだよキミ!いい目をしているね!』


 振り返るとそこにはスキンヘッドにサングラス。ダブルのスーツを筋肉で盛り上げた、どう見てもカタギには見えない男性が子どもが泣き出しそうな笑顔で立っていた。


 どうしよう、すごく逃げたい。でも完全にこっちを見ているし距離も近すぎる。人違いかも知れないという一縷いちるののぞみをかけて小さな声で返事をする。


「もしかして、僕ですか?」


『そう、君だよ。すごくいい顔をしているね。なにか悩みでも?視線で人を射抜けそうな目をしているよ?』


 顔を、褒められ、、た?いや視線で人を射抜けるってなんだよ。むしろ煽っているのか?正当防衛を狙っているのか?

 いや、この状況まずいのでは?今からでも逃げるべきか?


「お構いなく。それでは」

『待った待った。怪しいものじゃない。私はこういうものでして。もしよろしければお話だけでも!』

「これはご丁寧にどうも、、あっ」


 見た目によらずとても美しい所作で名刺を渡されて思わず受け取ってしまった。

 タレント事務所“ヴィランズ”?聞いたこともないが、、


『もしよろしければ喫茶店にでも、暑いですし。もちろん、私がもちますよ!』


 さわやかな口調で告げるマッチョ。絶対にこのまま返さないという強い意志を感じる。このマッチョ、できる。逃げたら追ってはこないだろう。そう思いつつ、怖い顔でニコニコとこちらを見るその姿に自分がクラスメイトに話しかけた時のことを思い出してしまう。まぁ、話くらいならいいか、どうせ急いで帰ってもゲームするくらいしかやることもない。


 もうどうにでもなれと見上げた先には雲ひとつない青空が広がっていた。

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