ヒール(悪役)始めました

@Dizabo

第1話 モノローグ

 モニターの中でハッとするような悪人顔の男が邪悪な顔で嗤い、しゃがみ込んで床に這いつくばる主人公の顔を覗き込む。


 うーん、悪そうな顔だ。自分の顔だけど。やっぱりサングラスは偉大だな。特におでかけするときには必須のアイテムである。それでも職質は受けるけど、その時はサングラスを外すだけで警察官の皆さんも気づいてくださる。それだけでも今の仕事をしていてよかったと思う。


 今でもときどき思い返す。あの日、高校一年の夏の一学期。終業式の帰り道。


 顔が怖くて、ちょっと友達が少ないただの高校生だった僕『八上恭介やがみきょうすけ』が、タレントの『緋月朔夜ひづきさくや』になることが決まった、あの日。


 駅でとてもカタギには見えない強面の男性から名刺を渡されて、あれよあれよとデビューが決まり、生涯の友人と出会い、妻と出会い。数々の作品に携わってきた。


 あの日から僕の日常は大きく変わった。自分の顔に少し負い目を感じ始めたあのころに、自分を受け入れてくれる場所と出会えたことは本当にありがたいことだった。


 あれがなければ妻と出会うこともなかっただろうし、このよく怖がられる顔はコンプレックスになっていただろう。もしかしたら、街で職務質問を受けるたびに長時間拘束されることに嫌気がさして引きこもってしまったかもしれない。


 そんな『もしも』と一緒に思い出す。サングラスと友達になったあの夏を。そして誰も聞いていないけれど、決まって口ずさむのだ。


 僕のキャッチコピーのようなフレーズを。


「オレの目は凶器だ。だからサングラスをしている」

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