◆3 『雀荘』コウスケの城にて──完璧な工作、ウッシッシッ! 

【1日目】1975年(昭和50年)11月8日土曜日


 浮ついた気分で公園をあとにして、真っすぐ爺さんのアパートへ向かった。

 タバコ屋の角を折れ、すずめ荘の前に立ち、二階の爺さんの部屋の明かりを確認する。窓際に干した洗濯物の隙間から明かりは漏れていた。

 ゆっくりと階段を上り、部屋の前に立つ。

 いきなり顔を出せば驚かせるので、爺さんへの思いやりから、そっと部屋に入ることにした。

 トントンと二度ドアを叩いた。と、ドアの向こうに爺さんの気配がした。朱鷺は素早く隣室の下駄箱の陰に身を潜める。

 ドアが開き、いっときして閉まった。

 ふと下を向くと、木切れが落ちていた。それを半分に折って、もう一度ドアの前に立ち、ドアを叩く。朱鷺は咄嗟にドアの陰になるように廊下に伏せる。爺さんからは死角になっているはずだ。

 ドアが開いた。爺さんが首を出す。

 朱鷺は息を潜め、様子をうかがった。案の定、爺さんは朱鷺の存在には全く気づかない。

 ドアが閉まりかけた。すかさず下部の蝶番の下辺りに木切れを挟み込み、ほふく前進で、また下駄箱の陰に身を隠す。

 爺さんが何度かドアを閉めようとしたが、閉まるはずはない。朱鷺の企てた工作は完璧だった。

 爺さんは表に出て、ドアを点検し始めた。ドアが大きく開いて、爺さんの姿はドアの陰に隠れた。と、朱鷺は、爺さんの隙をいて、汚れた足袋を脱ぎ、滑るように部屋の中へ忍び込んだ。ちゃぶ台の上を整理整頓してやると、部屋の隅に正座して背を丸めた。

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