第22話 約束

「惜しかったですね。葵先輩。」

「嘘ばっかり…。2本取られたオレによくそんな事、言うなぁ」

「いや、でも、こて、取られた後の胴。あれ、決まったかと思いました。」

 試合から学校に帰って来て、その帰り道、隣にいるオレを見下ろしながら冬月は、言った。

「あー、あれ?オレも決まったって思った。」

 はぁぁぁとため息をつく。

 カラカラと自転車を付く音が響く。

「あれぐらいだよ。オレの討ちで惜しかったの…。愁は、やっぱ強ぇわ。」

 ピタリと冬月の足取りが止まる。

「なんだよ、どうしたんだよ?」

 先に進んでしまったオレは、後ろを振り返る。

 冬月の身体全体が茜色に染まっている。

「俺、俺…。」

 オレに何か伝えたい事があるらしいが、なかなか言葉にならないようだ。

 きっちり冬月の方へ身体を向け、黙って首を傾げる。

「俺、柏木先輩に勝ちますっ!」

「へ?」

 な、なんで?このタイミングで愁が出てくるんだ?

「そしたら!」

 あ、まだ、話続いてたんだ。

「そしたら、俺の願い聞いてくれませんか?」

 え?

 なんで、そんなに真剣な目でオレをみてくるんだ?

 オレの心の中まで突き刺しそうな鋭い視線。

「あ、あぁ、わ、分かった。」

 その鋭い視線から外れたくて、とりあえず了承する。

「約束ですよ。忘れないで下さいね。絶対ですよ!」

「分かってるよ。愁に勝ったら、何でもしてやるよ。」

 何度も確認してくるので、はっきり言ってやった。

「あ。でも、オレの出来る範囲でしか無理だからな。」

 念の為、こちらからも制約を付けておく。

「大丈夫です。葵先輩にしか出来ないことですから…。」

「なんだそれ…。何か、もうオレに頼む事決まってるみたいな言い方だな…。」

 そんなオレにニッコリと笑顔を向ける。

「それは、それで、その時まで秘密です。」

 そう言って、口元に人差し指を立てる。

 なんだよ、なんのつもりだよ。

「じゃ!葵先輩、俺、こっちなんで…。」

「あ、あぁ。」

 手を振って、去って行った。

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