第21話 試し合い

「延長、はじめっ!」

「「ヤーッ!!」」

何度目の延長だろうか…。3回目位まで覚えているけど、途中からどうでもよくて数えるのを辞めた。お互い手の内が解るだけに、なかなか決め手になる技が決まらない。

泥試合…。

このままでは、勝てない。

「めーっ!!」

「こてーっ!!」

お互い、ここという時に攻撃するも、審判の旗は動かない。

くそ…。

面を被ったままの激しい体裁き。体力も限界だ。でも、それは冬月も同じ。竹刀を構える肩は、呼吸音と共に揺れている。正直、しんどい。早く面を外して、風を感じたい。

「…ってーっ!!」

冬月がこてを討ってきた。

「めーっ!!」

それを竹刀の先で相手の竹刀を返し、そのまま面を討つ。

…が、決まらない。少し遅れた。

お互いすれ違い、間隔を保って振り返る。

冬月が構え直す時、

あっ

と思った。

あっと思ったと同時に、オレの意識とは別に身体が反応し、冬月の面に自分の竹刀を置いた。

「めーっ!!」

「面ありっ!」

考えるより、先に身体が動いた…。

そんな事、自分に起きるとは思ってもみなかった。

オレが勝ったのか?

……。

「ちょっ、先輩!いつまで突っ立ってんですか!早く面取って、涼んで下さい。5分しかないんですよっ!!」

ものすごい勢いで話しかけてくる人がいた。

誰?

顔を上げると汗だくになっている冬月だった。

あれ?もう、面取ってる…。

ぼんやり冬月の顔を面ごしに見つめていると、

「あぁっ!もおっ!早くっ!」

そう言って、オレの腕を引っ張って斉宮高校の待機場所に連れて行く。

「なんで、勝ってる人がぼっさりしてるんですかっ!」

そう言いながら、手際良くオレの面を外していく。面タオルも頭から外してもらい、汗でじっとり濡れている面タオルを広げて面に掛ける。

そこで、オレと目が合う。

ハッと冬月の目が揺れたように感じた。

冬月は、凍りついたように動かなくなった。が、また、ハッとなり、ガサゴソと自分の荷物を漁り、タオルを出してきた。それをオレの額に当て、そのまま拭いてくれる。保冷剤で冷やした濡れタオルだったので、とても気持ち良かった。

額にあったタオルが頬にきたので、

「自分で…。」

「駄目ですっ!さっきまでぼんやりしてた人がなんですか。されるがままになってて下さい。」

と、却下された。

仕方なくされるがままにじっとしてると、冬月がまた新しい冷やしタオルをオレの首筋に当ててきた。

めちゃくちゃ気持ちいい。生き返る〜。

「葵先輩、完璧な面でした。この身長差で俺から面を取るなんて…。流石です。」

そう言いながら、少し強めにうなじを強めに拭いてくれる。

「柏木先輩に勝って下さいねっ!」

そうか、決勝は愁となのか。

「ありがとう。章斗。」

そう言いながら、冬月を見上げる。

その瞬間、強い力で抱きしめられる。冬月の胸にオレの顔が閉じ込められる。

「……あ…き…と?」

小さく名前を呼んでみる。

ピクリと反応があり、グイッと突き放される。

「あっ。すみませんっ!えっと…。さ、面付けて行ってください。応援してます。」

「う、うん。」

いつもと様子が違う冬月が気になったが、オレは試合に向かった。



「正面に礼っ!はじめっ!」

「「ヤーッ!!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る