第18話 リアル嵐の後の嵐

「章斗、土曜、日曜、悪かったな…。ありがとう。」

 月曜日、部活。道場の更衣室にて、オレは、冬月に新しい下着が入った袋を渡す。

 ばばばばっ。と急激に顔を赤くした冬月が、

「す、す、すみませんっ!も、もうしません。じゃなくて、してしまうかも…

 じゃなくて、しない努力をします…。」

「なんじゃそれ?」

 笑いながら、もう一度、冬月に袋を差し出す。

「そういえば、冬月の所に泊まったんだってな…。」

 愁が、オレに確認してきた。

「何で、お前が知ってんだ?」

 顔を赤くしたままフリーズしている冬月自身に渡すのを諦め、そのまま冬月のロッカーに袋を放りこむ。

「葵、無防備も大概にしろよ。」

 大きくため息を付きながら、訴えてきた。

「そんなことより、何で愁が知ってるんだよ!」

「佐野先輩から聞いた。何かされてからじゃあ、遅いんだぞ。」

 と、オレを挟んで向こう側にいる冬月を睨みながら言う。

「剣道の稽古してただけだろ。何かってなんだよっ!」

 キッと見上げて、愁を睨む。

「まさか、されたんじゃないだろうな…

 。」

「だから、何を…。」

 ふと、寝る前のデコチューのことがよぎる。

 バッと顔が熱くなり、思わず己の額に両手を当てた。

「な、何をされたって、…い…うん…だよ…。な、何も…されて…ない…よ。」

 だんだん、尻すぼみの声になる。

 その様子を見た愁が深いため息を着いた。

「葵、お前、分かりやすすぎるぞ…。」

「な、な…。」

 言葉が出てこない。

「おいっ!冬月!」

 大きい声で、オレの向こう側にいる冬月を呼ぶ。

 それでも、放心状態の冬月。何の反応も無い。それに焦れた愁が、冬月の腕を掴み、更衣室の外へ連れ出した。

 二人が出て行った後、静寂が訪れた。

「…。何か、三角関係みたいっすね。」

 ポツリと沢渡が呟いた。

 ハハッ。乾いた笑みで返す。

「そんなんじゃあ無いんだけど。多分、兄なんだ。」

「??」

 沢渡は、よく分からない様な表情を見せたが、放っておく事にした。


 そう、愁がこうもオレに干渉してくるのは、兄絡みだ。

 オレは、小さい頃からよく絡まれた。何故か、男ばっかりだったけど。それこそ中学生から60代くらいのじいさんまで。車で連れてかれそうになった事もある。故に、兄はオレに対しては、異常な程の過保護だし警戒を怠らない。その事に関しては、幼なじみである愁にも刷り込まれているのだ。だから、事ある毎にオレは、二人から注意されるのだ。

 正直、めんどくさい。オレだって、背こそ低いが、もう高校生だし、剣道もそれなりに強いし、負ける気がしない。それに、全く警戒していない訳ではない。特に、年上。おっさんには気を付けてる。今更、中学生に負けるはずもないしな。ともかく、二人は心配しすぎなんだ。奥歯に力を入れる。


 カチャ。

 愁と冬月が帰ってきた。

 冬月の顔が、どことなく強ばっているように見える。

「今回の事は、俺のところで止めといてやる。佐野先輩には、言わない。」

 二人で何を話してきたのやら。偉そうな愁に、カチンときた。

「愁!オレの事心配してくれてるのは、わかる。でも、今回の事は、章斗とオレの話じゃないかっ。そんな、目くじらたてる程の事ではないだろ?」

「はああっ?冬月だから、問題なんだろうがっ!傷付いて、泣くのはお前なんだよっ!いい加減、気付けやっ!!」

 ものすごい怒号が更衣室いっぱいに響いた。

「……。」

「……。」

「あの〜。…稽古、しませんか?」

 沢渡が頭をカキカキ、呟いた。


 全く、その通りだ。


「悪かった…。」

 何とも気まずい部活動が終わった後、自転車置き場で愁が呟いた。

「いや、こっちも熱くなりすぎた。ごめん。」

 そのまま、自転車をついて歩き出す。

「好きなのか?」

 正面を向いたまま、愁が訪ねてきた。

「?…何が?」

「冬月の事…。好きなのか?」

「は?」

 愁は、何を言ってるのだろう…。

「俺は、葵が本気なら応援する。」

「はぁ…。」

 愁は、優しい笑顔をオレに向けてきた。

 ??

 何か、勘違いしてないか?愁…。

「大体、あきらさんも、いい加減弟離れしないといけないんだよ!」

 愚痴るように、呟く。

 朗さん?

 朗…。

 !!

「え…。愁って、兄ちゃんの事、いつから朗さんって呼んでるの?」

 愁を見上げる。

「!!」

 しまった!とばかりに愁の顔が赤くなる。

「え…。い…や…。…その…。」

 明らかに普通ではない、その反応。

 しばらくの沈黙の後、

「実は、付き合ってるんだ。」

 愁の顔は、真っ赤だ。愁のこんな顔は、初めて見る。

「誰と誰が?」

「だから、朗さんと俺が…。」

「え?」

「高校合格決まった時に、俺から告白して…。」

「えええええーっ!!」


 ど、ど、どういう事っ!!


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