第15話 朝ご飯
「起きてください。葵先輩。」
どこかで聞いたような声が聞こえる。
う…ん…。
薄目を開けると、何か人影が見える。
人影?
慌てて、起き上がる。そうだった。冬月んちに泊めてもらったんだった。
「…おは…よう。」
欠伸をしながら、何とか声を出す。まだ、眠い。
「葵先輩、朝はそんな感じなんですね。そそられます。」
オレの首すじに鼻を持ってきて、一呼吸の後、離れる。
…?
言われた事の意味を理解するまで、時間がかかる。
「ば…っ」
「朝ご飯、食べましょう。」
オレの動揺が無かったことになっている。
ムクリと起き上がり、歩き出そうとしたら、ハーフパンツが腰からずり落ちそうになる。ティシャツも首周りが大きく空いてるため、ズレてしまっている。冬月に借りた服だ。アイツがデカすぎるんだ。簡単に服装を整えて、冬月に着いていく。
食卓っていうより、食堂?と思わせる部屋に通された。広い部屋に、大きなテーブルに備え付けられた幾つもの椅子、そこにオレと冬月がポツン。空間の無駄使い…。
冬月がワゴンを着いて持って来てくれた朝食を食べる。メニューは、トーストと少々焦げた目玉焼きに飲み物は、牛乳又はオレンジジュースだった。何となく違和感を感じ、訪ねてみる。
「冬月…、」
「章斗!」
まだ、続いてたのか…。お泊まりごっこ。
「章斗、もしかしてこの朝食、お前が作ったのか?」
オレから目を逸らし、口元を腕で覆ってる。目元も少し赤くなっている。当たりだな。
「章斗、ありがとう…。」
ニッコリと章斗に笑いかける。
「別に…。今日は、たまの休みで沢井さん居なかったから…。」
「…?沢井さんとは?」
「あ、あー、ご飯作ってくれる人。」
……。
やっぱ、すげーわ。いつも、ご飯作ってくれる人が居て、そんな章斗が不慣れながらも用意してくれた朝ご飯…、貴重かもしれない…。オレなんかが食べていいのだろうか?家族の誰かが食べたいんじゃないかな…。
「頂きます。」
そんな事を思いながら、両手を合わせる。
心配そうにオレを見つめる冬月の視線を感じながら、一口…。
……。うん。塩コショウ、忘れてるね…。味が無い…。醤油かければ、問題ないし…。
あれ、醤油が無いや。ソースも無い。まっいっか、そのまま食べちゃえ。
「……。」
「……。」
…、何か言わないといけないか。
「お、おいしいよ…。」
「はぁ…、葵先輩…。取ってつけたようなセリフ言わないで下さい。不味いもの食べさせてしまって、すみません。」
シュンと下を向く。
「そ、そんな事ないよ。うまいよ。」
「…、いいですよ、別に。気を使わせてしまってすみませんでしたっ。」
冬月は、 椅子の上に体育座りをし、膝に顔を埋める。
拗ねたな…。笑いを押し殺しながら、テーブルをぐるりとまわり、冬月のところへ行く。トントンと冬月の肩を軽く叩いた。
「とりあえず、食べようぜ。腹減ってる時が一番うまい。」
そう言って、顔を覗き込む。
冬月は、顔を真っ赤にして、オレの目を見て、
「それって、やっぱり不味いって事じゃんっ!」
半笑いになりながら、反抗する。
「「ぷ…。」」
お互い、吹き出し。朝ご飯を食べる事にした。
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