第14話 初めてのお泊まり

「俺、初めてっす。友達、泊めるの…。といっても先輩ですが。」

 夜も更けて、ベッドに横たわって枕に横顔半分埋めながら、布団で横になっているオレを見下ろす。茶色がかった髪が、冬月の額にサラリと触る。風呂上がりのせいか、頬がほんのりピンク色だ。

「それは、オレもだな。オレも泊まりは、初めてだな…。」

「そうなんですね。ふふっ。葵先輩の初めていただきましたね。」

 何とも、満足そうな顔をする。口調が大人っぽいのに、表情は小学生のガキのようだ。そんな、アンバランスさが妙に冬月っぽくて惹き付けられる。

「それを言うなら、オレも章斗の初めてをいただいた事になるな…。」

 友達、泊めたの初めてなんだろ?って続けた。

「あは…。そうですね。いただかれちゃいましたね。俺…。」

 そう言って、ベッドから顔を出して、オレを見下ろす。

「先輩…。聞いていいですか?」

 うん?と冬月を見る。逆光になって、上手く表情が見えない。

「先輩って、付き合ってる人、いるんですか?」

「見てたらわかると思うけど、いないよ。」

「じゃ、じゃあ、…好きな人…は?」

 若干、声が小さくなった。

「いないなぁ…。」

 何か、女子達のお泊まり会化してないか?

「今までに、付き合った人っているんですか?」

「え、いな…。って、プライバシーだ!」

 うっかり、口を滑らすところだった。

 冬月は、どうなんだろうか?いつの間にか、ベッドに顔を引っ込めてしまった為、様子を見る事が出来ない。まあ、コイツは、今までにも付き合った事とかあるんだろうな…。ていうか、今もいるかもしれない。

「章斗は、いるのか?付き合ってる人?」

 自分の話題から逸らしたくて、聞いてみた。

「はぁぁ…。」

 大きなため息が、ベッドの上から聞こえてくる。ギシリという音と共に、冬月が降りてきて、布団で寝転んでいるオレの上に覆いかぶさってきた。

「俺の気持ち、知ってるはずですよね?」

「え…。」

 手のひらに竹刀だこが出来たゴツゴツした大きな手が、額にかかるオレの前髪を頭上に撫で上げる。そして、冬月の顔が近付いてきて、額に暖かく柔らかいものが触れる。

「これでも、俺、必死に我慢してるんですけど。」

 そう言って、オレの上から退き、ベッドに戻っていった。

「さ、もう、寝ましょ。」

 リモコンで証明を消され、沈黙が訪れた。


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