第13話 先輩、泊まってってください

「広…。」

 和風家屋の部屋の割には、ドアからして洋風だった。分厚い色の濃い茶のドアの奥には、ベッドに机、本棚、テーブルに小さめのソファ、と意外と普通な感じの家具が配置されていた。ただ、そのもの自体がそれぞれ大きめで、いかにもお高いんでしょうね的な感じが見て取れる。

「あ、先輩…。ソファにでも座っててもらったら、良かったのに…。」

 ジュースとお菓子をのせた盆を片手に入ってきた。

「あぁ…、何か、ビックリして…。」

 そう言いながら、勧められたソファに座る。冬月は、オレの真正面にそのまま座り、テーブルに置いてあったスマホを見る。

「あ、先輩。電車止まってますよ。記録的な豪雨に伴い、始発まで止まるって、なってます。」

 飲んでいたジュースを吐き出しそうになる。

「な、な、なんだって?」

 冬月のスマホの画面を凝視する。

 うわ〜、ほんとだ。豪雨に伴い運転見合わせのお知らせが載っていた。どうしよう…。

「先輩、泊まってて下さい。」

「え…。」

「電車動かないんだし、仕方ないじゃないですか。泊まってって下さい。」

 ニッコリと笑いかけられる。

「いや、でも。家の人いない時に、勝手に上がり込んで、泊まるって、ちょっとな…。」

「そんな事言っても、現に帰る手段無いじゃないですかぁ。」

 確かにそうなんだけどなぁ…。

「…わかった。冬月、頼む。一晩泊めてくれ。」

「章斗。章斗って呼んで。」

「え…、なんで?」

「だって…、お泊まり会ですよ!何か、親密な感じがするじゃないですかぁ。葵先輩!」

 首を傾げて、ニッコリ笑う。

「はぁ…。」

 何か、よくわからないが…、

「そしたら、章斗。今日の夜、よろしく頼む。」

「はい。葵先輩っ!」

 正座して、軽く拳を作り、笑顔で答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る