第9話 挑戦
「「やぁぁっ!!」」
朝倉先輩の号令と共に、兄と愁の試合は始まった。カチャカチャと細かくお互いの竹刀が擦れ合う音だけが響く。
「めーっ!」
ダンッ!!
愁から動く。兄は、竹刀の先で起動を逸らす。互いにぶつかり、ガンっと衝撃音が鳴る。それから距離を取り、構え直したところに、「ッテーッ!!」と兄がコテを打つ。が、決まらない。オレも朝倉先輩も冬月もそれぞれの持ち場で、しっかり判断する。
「やめっ。」
体感5分くらいたった頃、主審役の朝倉先輩が中断させる。二人が始めの位置に戻る。
「引き分け。」
兄と互角に戦えるのは、愁ぐらいなもんだ。案の定、オレは、コテと面を取られた。
次は、冬月と兄だ。主審はオレだ。
「はじめっ。」
「「やぁぁっ。」」
「めーっん。」
冬月が動く間もなく、兄が彼の面をたたく。3人の審判の手が挙がる。
「面あり。2本目!」
「ッテー!」
またまた、3人の手が挙がる。
「小手あり。」
納め刀をして、お互い下がり礼をする。
一瞬にして終わってしまった。
その場に佇んでしまっている冬月をじっと見る。兄は強い。全国に何回か出場した事もあるし、オレも勝ったことがない…。というか、一本すら取ったことがない。そんな気にする事ではない。
「冬…。」
冬月の所に駆け寄ろうとした時、誰かに肩を掴まれる。振り返ると、そこに愁が居た。
オレの目をじっと見て、頭を左右に振る。その様子を見て、駆け寄ることを諦める。俯いたまま、動かない冬月をじっと見詰める。
「もう一度…。」
小さい冬月の声が聞こえる。
「もう一度、お願いしますっ!」
「何度やっても、同じ事だ!」
一度目より大きい言葉に、兄はそう返した。
「今日の稽古は、これにて終了っ!」
そう言って、兄は面を外してしまう。
終了という事で、冬月も含め、皆面を外し、前に集まり正座して礼して終わる。防具を抱えて更衣室に向かう中、冬月だけがポツンと俯いたまま突っ立っている。
「冬月…。」
冬月に近付き、そっと顔を覗き込む。ふいっと顔を逸らされる。
「冬…。」
「俺、格好悪いです。」
顔を逸らしたまま、ポツリと呟く。そんな様子がちょっと可愛いなって思ってしまった。
「そんな事…。」
「おいっ。いつまでそんなとこ居るつもりだ。さっさと着替えろ。」
着替えを済ませた兄だ。愁と朝倉先輩も居る。
「はいっ。」
兄に向かって返事する。
「ほら冬月、行こ…。」
冬月の腕を引っ張って、更衣室に連れて行く。兄の前を通り過ぎようとした時、
「おい、一年。随分、いい身分だな。先輩に慰められて…。」
「ちょっと!兄…。」
反論しようとしたオレに影が出来る。
冬月がオレの前に立ったのだ。
「次は、負けませんっ!」
えっ!!
目を見開いて冬月の背中を見る。
「ククッ…。威勢の良い奴だな。まずは、葵。それから、愁に勝つんだな。」
不敵な笑みを浮かべる。
「葵先輩、愁先輩に勝てたら、試合してくれますか?」
笑ってる兄に対して、真剣に訴える。
「あぁ。その結果次第で…、」
そう言いながら、兄はオレを見る。兄の視線に気付いた冬月もオレを見る。冬月の視線が兄に戻った時、
「許してやるよ…。」
そう、言葉を続けた。
……??
「本当ですねっ!」
ますます熱を持って、食って掛る。
「あぁ…。」
どうやら、二人にしか分からない会話が成立したようだ。
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