第6話 兄とアイツ

「ただいま〜。」

 って、誰も居ないか…。春休み中の平日の昼なんか…。

「おうっ!葵、おかえり!」

 タオルで頭をゴシゴシしながら、 風呂場から出て来た。何か妙に、機嫌がいい。

「あれ?兄ちゃん。今日、サークルだか何だか言ってなかったっけ?もう、帰って来たの?」

「あ〜、そうなんだけど、またすぐ出掛ける予定…。」

 そう言いながら、スマホを見る。うちの兄貴は3つ上の大学2年生。見るからにか細いオレと違い、190センチ際ある超高身長にがっしりとした体型、短く刈り上げた髪型にこれでこそ、男の中の男って感じの出で立ちだ。オレと同じく剣道を小1の時からやっていて激強!全国大会出場経験者。ただ、大学に入ってからはあまりしていない。たまに、オレと愁の稽古に付き合ってくれたり、小学生から通ってた道場に一般として行くくらいだ。

「ふーん。そうなんだ…。出掛ける前に風呂って彼女とデート?」

「うーん。まぁー。そんなとこかな…。」

 そう言いながらスマホを操作する。

「あっ、やべ。こんな時間。服着替えて、髪乾かして…。やべぇ…。」

 バタバタっと階段を駆け上がる。

 あれ、兄ちゃん…。珍しく、テンパってる?

 ……。

 あの、硬派な兄をあそこまでさせる彼女って…。彼女って…すごい…。兄の消えっていった2階を見上げてたら、すぐまたバタバタと降りて来て、

「あ、葵!晩飯までには帰るから…。」

 バタバタ、ガチャン。

 嵐の様にオレの目の前を通り過ぎ、出掛けてしまった。

 兄よ…。大学生が、晩飯までに帰るデートって、どうよ…。と、心の中で呟く。



「あっ、先輩おはようございます。」

 オレが道場に着いた時には、すでに冬月は道着に着替えていた。

「おはよう。冬月、大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよぉ。昨日からそう言ってるじゃないですかぁ。っていうか、後ろの人は誰ですか?」

 笑顔一杯の返事に、ホッとする。

「あっ。この人は、俺の兄。この学校のOBでもある。」

 そう言って、横に逸れる。

「お、おはようございます。」

 段々声が小さくなり、聞こえなくなってしまった。

 兄は190センチあるので、180センチくらいの冬月も見上げる形になる。

「い、1年の冬月です。よろしくお願いします。」

「佐野だ。」

 兄が冬月を睨んでいる様に見えるのは、何故だろう。冬月も、警戒している。じっと二人は目を合わせたまま、沈黙が続く。

「直人さんっ!もう、来てたんですね。」

 明るい声が、二人の緊張感を解く。

「愁。おはよう。」

 愁には、笑顔で答える。愁もおはようございますと挨拶し、兄と何やら話始める。オレと愁と兄は、小学生の頃から同じ道場で剣道を習ってたので、お互いよく知っている。

「先輩とお兄さんて、あまり似てないですね。」

 こそこそとオレの隣りに来て、耳打ちする。

「……、よく言われるよ。」

 心中で、大きなため息をつく。

「葵!さっさと着替えろ。練習時間は限られてるんだっ!」

 兄の怒声にハッと見ると、兄と愁は既に着替えて来ていた。すみませんっ!と更衣室に走っていく。道着を着ると厳しくなり、より大きく見える。怖いけど、我が兄ながらかっこいいと思う。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る