第4話 アイツとの部活動

 練習の後半、冬月には休んでもらった。本人は、出来ると訴えたが、オレが許可しなかった。愁以外の上手い子と練習出来る事が嬉しくて、つい夢中になり過ぎた。気を付けないと…。

「冬月、大丈夫か…?」

 稽古も終わり、道場の隅で道着のまま座って見学していた冬月に声掛ける。

「あ…、大丈夫っす。」

 じっとオレを見る冬月の顔色を確認する。今も少し顔に赤みがあるようだが、随分マシになったように思う。

「先に着替えてても良かったのにな…。次から、しんどくなる手前で休むんだぞ…。」

「いや…。俺、ほんと、大丈夫だったんですよ…。ただ、先輩が…。」

 と言って、口ごもる。スっとオレの視線から顔を逸らす。あれ…。何か、また赤くなってる?

「冬月!また、しんどくなったのか?」

 彼の肩に手を置き、顔を覗き込もうとした時、

「お二人さん、とりあえず、着替えようか。」

 愁がオレらの間に入り、右手で冬月の肩を押し、左手でオレの額を押し強引に距離を取った。

「うっ。苦しい…。」

 強引に押されたので、首を大きく逸らす形になってしまった。

「愁…。お前、何かオレに冷たくない?」

「そんなことない。せっかく入った1年の理性を守ってるだけだ。」

「何だそれ…?」

 愁は、たまに分からない事を言う。

「とりあえず、着替えよう。」

「そうだな。冬月、行くぞ。」

「はい。」

 ふらつく様子もなく立ち上がる冬月を確認して、ホッとする。

 道場の隅にある更衣室に入る。たった3人しか居ないので、使いたい放題だ。ただ、よく見ると、卒業した朝倉先輩の私物がちらほら存在する。あの人は、ほんとに…。そんな事を考えながら袴を脱ぎ、道着を脱ぐ。上半身裸で、下は、体操着の短パン姿になったところで、ふと見慣れない裸 が視界の角に入る。筋肉でしなやかに盛り上がり、胸といい肩といいしっかりとした厚みがある。もちろん腹筋も割れている。オレは、腹筋は割れてるが、どうしても胸、肩に厚みが出ない。愁の筋肉もいいけど、コイツの筋肉もいいなぁ…。なんて事思いながら、顔を確認する。あっ、冬月だ…。当然か…、この部屋に3人しか居ないんだから。

「冬月、いい身体してんな!」

 そう言って、自分の肩の位置より高いところにある肩を触ろうとする。

「わ…わ…、や、辞めて下さい。」

 オレに手の平を見せ、またもや距離を取ろうとする。

「え?何でだよ…?」

 一歩近付く。冬月は、まだオレに手の平を見せている。

「せ、せめてインナー着て下さい。」

 またまた、冬月の顔が赤くなる。

「男同士だろ…。」

 また一歩近付こうとした時、

「いい加減にしろ。」

 愁の手刀がオレの頭に当たる。

「いて…。」

 頭をさする。

「「あっ。」」

 愁とオレが同時に声を挙げる。

 冬月の鼻から赤いものが出てきたからだ。

「大丈夫か?」

 冬月に近付こうとすると愁がオレを遮り、箱ティッシュを渡す。

「葵は、服着ろ。」

「ちぇっ…。わかったよぉ。」

 渋々、自分のロッカーに手を突っ込み、制服を着る。



「本っ当に、大丈夫なんだな?冬月…。」

「本っ当に、俺、何とも無いんですっ!だから大丈夫です。一人で帰れます!」

 冬月が電車通学という事で、最寄り駅まで愁と一緒に自転車をつきながら付いてきた。

「とりあえず、家着いたら連絡しろって、よく考えたら連絡先知らないな…教えてくれ…。」

 そう言って、スマホを取り出す。

「……。」

 何の反応も無いので、冬月の方を見る。

「……。」

 そこには、ぽけ〜と突っ立っている冬月が居た。心無しか、瞳はキラキラしている様に思う。やっぱ、コイツおかしい。

「…?冬…月…?」

「あっ、れ、連絡先でしたね。ライムで大丈夫ですか?」

「お、おぅ。」

 そこで、愁と冬月、オレ3人連絡先のやり取りをし、ついでに3人のグループライムも作った。

「じゃあな!」

 そう言って、冬月と別れる。

 愁と二人になって自転車に乗ることなく、何となくそのままついて歩く。

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