第2話 半年前 アイツとの出会い

「あち〜。」

そう言いながら、3年の朝倉あさくら先輩は、バサバサと袴を揺らす。

「外に出れば、マシかと思いましたけど、全然ですね…。」

オレも、手で首元を扇ぐ。

今日は、年に2回ある地区大会オンリーの中学高校剣道優勝大会及び合同稽古会6月の部だ。大会も終わり、次の稽古会まで少し時間があるので、あまりの暑さに外まで避難してきたが、試合場も外もあまり変わらなかった。

「にしても、柏木かしわぎおめでとう。1年で3位とはな…。」

3年柴田先輩が、無表情に呟く。

「たまたま、上手くいっただけで…。」

首に手を当てながら答える。

「なにそれ?。たまたまで1年が3位なんか取れるか。ムカつく!」

朝倉先輩が、愁の首を軽く絞める。

「やめて下さいって…。」

朝倉先輩と愁がじゃれ始める。止めようかどうしようかした時、

「あのっ!!佐野さんっ!!」

一人の男子生徒がオレに声掛けてきた。オレらと同じく紺の上下の道着を着て、垂れネームの所には『冬月』と記されている。

「あっ、はい…。」

彼を見る。少し茶色帯びた髪はマッシュカットで、完璧なアーモンドの形をした目、瞳も少し茶色がかっている。大きく薄い唇。綺麗系の男だ。そして、何より180センチを超える愁とあまり変わらないくらいの身長。くぅぅぅっ!!羨ましすぎる!!綺麗系なのに男らしい。

「俺、佐野さんの事、好きですっ!!付き合って下さいっ!!」

「「えっ…。」」

思わず、周りもザワつく…。

「うわ〜…。今日、これで何回目?」

朝倉先輩が小さく呟く。

「告白は、初めてです。ライム交換の声掛けが3回です。」

愁が、これもまた小声で答える。

「えっと、全員…、」

朝倉先輩。

「男です。」

愁。

キッと二人を睨む。

遊んでんじゃねぇっ!!激しく憤る。

「オレは、おと…。」

「知ってますっ!!」

「えっ…。」

「「ブッ…。」」

オレの「えっ」と朝倉先輩と愁の笑いが重なる。柴田先輩は無表情だ。

「それでも、好きなんですっ!お友達からでもいいですからっ!!」

そう言って、一歩オレに近付き、オレを見下ろす。後ろに下がりたいのに、愁達がいるので下がれない。近いし、こ、怖いよ…。

「あの、斉宮高校の方ですか?」

「あっ、はい。」

告白してきたぶっ飛びヤローの後ろに、制服を着た女子生徒が声掛けてきた。

「あ、はい…。」

助かった…。慌ててそいつの横を通り過ぎ、その女子のところに行く。

セミロングで黒く艶やかな黒髪に、くっきり二重、小さめの鼻に、ぷっくりとした唇…。めっちゃかわいい。

「3位入賞した方のお名前の確認させて頂きたいのですが…。」

「柏木愁…。」

彼女が持ってる名簿を一緒に見る。同じ様な背格好の頭が2つ並ぶ。

「あっ、これです。これで、かしわぎしゅうって読みます。」

「あっ、分かりました。」

彼女は笑顔で答え、さっと振り仮名をふり、去って行った。

ほんと、かわいい子だったなぁ。告られるなら、ああいう子がいいよな…。彼女の背中を見送る。

「白…だな…。」

おもむろに、愁が呟く。

「あっ、俺も白〜。」

と 朝倉先輩。

「白…。」

クールに呟く柴田先輩。

その意味が分かるオレは、振り返って3人を睨む。

「え…、どういう事っすか?」

こいつ、まだ居たのか…。

「冬月くんは、知らないよね。」

そう言って、朝倉先輩は冬月の肩を抱き、続ける。

「俺たちはね、さっきみたいに女子が葵くんと並ぶのを見ると、どっちがかわいいかつい判定しちゃうんだよね…。ちなみに、白が葵くんね…。葵くん程肌の白い子、なかなか居ないから。」

「あっ、それなら俺も白です。」

そう言って、主審がするように左手を上げる。

キッと冬月とやらを睨む。

「ほんと、俺たちもいい加減、赤上げたいんだけど、葵くんより上はなかなか居なくてね〜。どんどん理想ばかり高くなっちゃって…。困ってるんだよ。葵くんに責任取ってもらわないと…。」

朝倉先輩は、 ぷうっと頬を膨らまし、オレに訴えてくる。

「知りませんっ。」

ピシャリと跳ね返す。

「高3にもなって、柴田と俺に彼女居ないの、葵くんのせいだからねっ。」

「勉強して下さい。受験生ですよね?」

「勉強ばかりもさぁ、やっぱ、心のオアシスって必要じゃん!」

「オアシスは、キャンパスライフで探して下さい。」

「ぶっ…。」

冬月が堪らず、吹き出す。

こいつ、いつまで居るつもりだ?

「斉宮高校…。面白いですね。俺、斉宮目指します!」

えっ。こいつ、中学生なのか?彼の垂れを確認すると、冬月と書かれた上に『蒼生中』となっていた。

「蒼生って中高一貫の私立じゃん。お前、頭いいんだろ?」

「そうです、その蒼生です。頭は、それなりです。」

何か、何となく、ムカつくなぁ。

  「せっかくなのに、そのまま蒼生にいろよ。剣道も割りと強いし、部員もそこそこいるだろ。」

愁が、冬月に意見する。

「蒼生には、父の薦めで入っただけです。高校ぐらい自分で決めたい。」

そう言って、じっとオレを見る。ふいっと目を逸らす。

「うちの剣道部は、廃部寸前だぜ。今だって3年二人、俺ら1年二人で、その3年ももうすぐ引退だし…。」

「そんなの気にしません。」

愁と会話してるが、目線はオレに向けたままだ…。勘弁してくれ…。

「オイ…。そろそろ時間…。」

柴田先輩が呟く。

「やべ…。行くぞ!それじゃあな、少年!」

朝倉先輩が冬月に別れを告げ、オレたちを引き連れ会場に入る。


それっきり、オレはその少年の事を忘れていた。


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