気付いたらオレ、奪われてました
萌奈来亜羅
第1話 プロローグ
「はぁ……。」
何度も何度も、ため息をついてしまう。
「仕方ない…
そう言って、オレの肩をポンポンと叩く。
「仕方なくないっ!
力なく言葉を吐く。
紺色の剣道着が白すぎる肌をより一層白く見せる。櫛をとかさなくてもサラサラと整ってしまう黒髪。小さい顔に大きい黒目、小さい唇。そして、165センチの低めの身長…。故に、よく女子に間違えられる…。特に、180センチを超える愁といつも一緒にいるので、オレの小ささが目立ってしまう。一方、愁は肩や胸が分厚く無駄な丸みは無く立派な逆三角の体型に、スっと通った高い鼻に切れ長の目に黒い短髪で、これぞ硬派な男って感じだ。
「……。」
愁は、罰が悪そうに頭をボリボリかく。はぁっと、またまたため息を付く。悔しい気持ちとよかったなって達観する気持ちがオレの中で行ったり来たりする。ごめん、愁…。心の中で謝る。こんなの、八つ当たりだ。
今日は、年に2回ある地区大会オンリーの中学高校剣道優勝大会及び合同稽古会12月の部だった。大会は先程終わり、今は合同稽古が始まるまでの休憩時間だ。3位がオレと蒼生高の萩原。2位が愁。優勝が同じ部員の
優勝したら、先輩、俺のお願い聞いて下さい。と言ったピリッとした表情を思い出す。
「あれ、そう言えば…、章斗は…?」
愁の問いかけに、章斗と同じ一年の
「何か、他校生の女子に呼び出されてましたよ。」
!!!!
「もうすぐ、クリスマスですし〜。剣道強い上に、イケメン。はぁ…、羨ましい。」
と、ニヤニヤしながら、沢渡がボヤく。
「あぁ……。」
そう、オレは一つ下の章斗に負けた。そして奴は、今、女子に告られているらしい。なんと!まあ!絵に書いたリア充っ!アイツ!イライラと凹みが最高潮になろうとした時、
「あの、佐野さんっ!」
オレに、声かけてきた人がいた。振り返ると、そこには、剣道着に林と刺繍された垂れを付けた男子高校生が立っていた。見覚えは無かった。剣道は腰に付ける垂れに大きく名前を刺繍したものを付けるので、初めて会う人でも名前は分かるようになっている。
「えっと…、何かな…?」
とりあえず、沈んだ気持ちを、無理矢理横へやる。
「あ、あの…、お話が…。」
そう言う林くんの顔が、ほのかに赤く染まる。その反応を見て、とても嫌な気分になる。
オレの気持ちを知って知らずか愁が、
「…。デジャブだ…。」
と、ボソリと呟く。
ギロリと再び愁を睨む。
「話って何?」
嫌な感触のまま、言葉がキツめになってしまう。
「えっと…、ここでは、ちょっと…。」
俯き加減で、より一層顔を赤くして訴える。あぁ、ほんとに最悪だ。
「もうすぐ稽古会始まるし、ここなら聞くけど…。」
目も合わせず、冷たく言い放つ。そして彼に背を向け、自分の防具バックから水筒を取り出し、口に含む。
「え…。こ、こ?」
彼の方を見なくても、動揺がわかる。これで、諦めてくれるだろう。早く、オレの前から去ってくれ。
さあ、早く!オレは、今、機嫌が悪いんだっ!
「わ、分かりました。」
「えっ!」
思ってもみない反応に、体を彼の方へ向ける。こいつ、どういうつもりだ?
「佐野さんっ!」
「…はい…。」
そんなに、大きい声でなくても聞こえるが…。
「す、好きです。一目惚れしましたっ!友達になって下さいっ!!」
そう言って、彼は下を向く。
「デジャブ…。」
また、愁が呟く。
「オ…、オ…レ…」
「え?」
ボソリと呟いたオレに彼が、聞き直す。
「えっと、林くんは、男?」
たまりかねた愁が、口を開く。
「え…、はい。」
「林くんは、同性愛者?」
「え?いえ。」
彼は、愁が言わんとする事が理解出来ないようだ。
「オレ、男なんだよね!!」
そう言って、面に小手を乱暴に入れて持ち、竹刀を持って、彼を睨み、稽古場へ走って行った。
「おつかれ…。」
そんな、愁の声がオレの背後で聞こえる。
ポンポンと林の肩を叩く様子が、思い浮かぶ。くそ…。最悪だ…。ちくしょう…。
去年の6月の地区大会及び合同稽古の時を思い出す。
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