四周目 声豚、餌付けされる
始業ギリギリの時間に柚菜とともに教室に戻る。
柚菜を初めて見る生徒も多かったこともあり、俺達は注目を受けてしまっていた。
朝のSHRと一時間の授業が終わる。
すると後ろから声を掛けられた。
「太一、朝は星野さんと一緒だったみたいだな? もしかして復縁したのか?」
声をかけてきたのは、
「アホか、そんな簡単に復縁なんてするわけないだろ? それより、俺と柚菜の昔の関係、周りに言わないでくれよ?」
アイドル声優に昔彼氏がいたということが広まったら大事だからな。
アイドル声優には処女性が求められるのだ。
「ああ、誰にも話してないし、この高校で知ってるのは俺くらいなんじゃないのか? 俺は今でも太一と星野さんはいいコンビだと思ってるけどな。星野さんとやり直したいと思うんだったら言ってくれ。サポートしてやるぞ?」
祐輔は世話焼きで、見た目イケメンのいいやつだが、彼女はできたことはないらしい。
そんな大輔が俺と元カノとの復縁に力を貸してくれると言ってくれて、本当にいい奴だなと思った。
ただ、一年前に俺は柚菜に完全に振られた。
それに柚菜は星宮なぎさとしてアイドル声優になったのだ。
復縁などあり得ないし、あってはならない。
「柚菜とは今恋愛どうのこうのって感じじゃなくなってるんだ。柚菜がアイドル声優になってたんだよ」
「マジかよ!? 星野さん、顔も声も可愛いし納得だけど」
「ってことだから、俺と柚菜の昔のことは内密に。あとこれから柚菜と絡むことが多くなるかもしれないんだけど、何かあったらフォロー頼む」
「何か訳ありなんだな? わかったよ……」
祐輔は深く追求することはしてこない。やはりいい奴だ。
◇
午前中の授業が終わり、昼休みになる。
いつも昼食は祐輔と購買でパンを買ってきて食べるため、祐輔がやってくるまで席で待っていた。
すると思い切り制服の襟を引っ張られて首が締まっていく。
「――柚菜っ! 用があるなら普通に声かけろよ」
「うるさいわね! 豚がごちゃごちゃ指図するんじゃないわよ! さあ立ちなさい!」
柚菜に手首を持たれて引っ張られていく。
「祐輔、すまん。昼飯今日は無理そうだ……」
「おう、行ってこい」
通りすがりに祐輔に伝えておく。
廊下に出ると、学食へと向かう生徒達とすれ違いながら、階段を登っていく。
そして、朝と同じ屋上前へと辿り着いた。
「さあ、エサの時間よ。欲しかったらブヒブヒ鳴くことね?」
「何か食べ物買ってきてくれたのか? 悪いな」
「普通に返さないでよ……ほら、口開けなさい」
俺は柚菜の方を向いて口を開ける。
すると柚菜は大きく振りかぶって投げた(良い子は食べ物で遊んではいけません)。
――ベチッ!
ポロポロ……
柚菜が投げて俺の顔に当たった食べ物を地面に落ちるすんでのところで拾った。
カラアゲちゃんだ。
俺が一番好きな食べ物と言ってもいい。
「柚菜、俺が好きな食べ物覚えてて買いに行ってくれたのか? 推しのなぎさちゃんがカラアゲちゃん買ってきてくれたかと思うとジワるんだが……」
「バカね、柚菜もなぎさも同一人物よ。それに一応一年前までは付き合ってたんだから、あんたのことは結構知ってるつもりよ……」
ヤバい、朝からツンツンのツンだった柚菜が、ややデレを見せたことで、惚れそうになってしまった。
相手はなぎさちゃん、アイドル声優だ。正気になれ、俺。
「俺も一応元彼だから、柚菜のことは少しはわかってるつもりだよ」
「はぁあ? どの口が言ってんの!? この声豚が!!」
調子に乗って喋ったら、柚菜の逆鱗に触れてしまったみたいだ……
「ごめんごめん……それで何か用事があるんだよな?」
「ええ、来週末、握手会の二回目があるのは知ってる?」
昨日の握手会が好評だったため、昨日のうちに第二回が開催されることが告知されたのだ。
「ああ、もう十枚CD予約済みだよ」
「そうなの!? 知ってると思うけど、そこで初めてライブをすることになってるの。ライブって言ったらコールよね? コールと言ったらトップのオタク達が決めるものでしょ?」
「つまり俺にコールを決めて欲しいってこと?」
コールの内容は、昔はトップクラスのオタク同士が直接会って決めて、会場前でコールの仕方を書いた紙を配ったりしていたらしい。
だが、最近はツブヤイター上で決まることが多くなったようだ。
「そう、このままじゃコールで女王様とか豚とか言われそうな気がするの。SNSで他のファンを上手く誘導して、いい感じのコールになるようにしておいて。もうカラアゲちゃん食べた後なんだから断れないわよ?」
「ああ、頑張るよ」
正直面白がって変なコールを入れてくるオタクは必ず出てくると思う。
だが俺はアイドル声優らしい、可愛いなぎさちゃんのライブが見たい。
なぎさちゃんからの初めての指令に何としても応えたい俺だった。
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