第十章「うつろな仮面」
第十章「うつろな仮面」-001
「一体なによ。ちゃんと説明しなさいよね」
俺は校舎へ戻ると、たまたま見かけた
他の生徒の目もある。すぐには
しかしそれでも
「どういう事!?」
途中で
「だから、『見捨てられた町の学園』同様、ここにも目では見えない連中みたいなのがいるらしいんだ。それでそいつらが何か答えてくれないかと、グラウンドに隅に砂でメッセージを書いたら返答があった」
「え、誰から?」
「連中だ。目に見えないけど、そこに居るのは確実な誰か」
「いや、だからそれは誰なのよ?」
「俺も想像が付かない」
「貴方が知らない人間なら、どうして返答して寄越したのよ」
うん、まぁ。それももっともだな。
「それは、向こうも自分たちの事を知って欲しかったんじゃないか?」
「じゃあなんで今まで黙っていたのよ」
「それは、まぁ機会がなかったんじゃないかと……」
だけどまぁ
それをしていなかったというのは……。
俺は
まぁ、いい。メッセージを書いた場所へ来た。これを見れば、
誰かに悪戯されていたり、消されたりしていないか、ちょっと不安だったけど、グラウンドの砂を退けて俺が書いたメッセージと、書き加えられた文はそのまま残っていた。
『だれでもない』。俺は砂の上に書かれたメッセージを、
「ほら、これだ!」
「で?」
「……で? って何だよ。いや、俺が書いた訳じゃ無いぞ!!」
俺はもう一度、順を追って分かりやすく
「ふ~~ん……」
しかし
「誰かの悪戯じゃ無いの?」
「悪戯にしても意味が分からない。書き加えるにしても……、ほら。馬鹿とか間抜けとかにするだろう」
「いや、そっちの方が意味わかんないし」
それにしたって……。
「う~~ん」
呻く俺に
「仮にこの『学園』にも、見捨てられた町の『学園』にいた連中みたいなのが居たとしましょう。今まで大人しくしていたのに、どうして今回、貴方が書いたメッセージに反応してきたの?」
「いや、それは今まで誰もやらなかっただけじゃ……」
「生徒が書かなくても、その目に見えない連中の方から、アプローチする事も出来たはずよね?」
「……まぁ、そうだな」
分かった、分かった。今回は俺の負けだ。
俺が意気消沈しているのは
「でも確かに連中みたいなのが、この『学園』にも居るかも知れないというのは面白い考え方ね。あたしたちが他の『学園』で見たような……」
そこでいきなり
「え、嘘……」
小さくそうつぶやくのが聞こえた。そしてやにわに俺の方へ振り返る。
「ロクロー! 貴方、そこから動いてないでしょ?」
「え、動いていないけど……。それが」
つい先ほどまで、そこには『だれでもない』とだけ書いてあったはずだ。
「おいおい、嘘だろう……?」
俺は一歩、砂に書いたメッセージの方へ歩み寄ってつぶやいた。
「誰が、書き足したんだ?」
いつの間にか『だれでもない』の後に『?』の一語が書き加えてあったのだ。
俺と
「『?』マーク、来た時には無かったわよね?」
「誰かが近寄ってきた気配はあった?」
今度は首を振る。俺は
「じゃあ誰が……」
改めて周囲を見回す。近くに他の生徒は居ない。ここはグラウンドの隅だ。皆、グラウンドの中央で運動をしている。俺たち二人に気づかれずに忍び寄るのは無理そうだ。
しかし逆に言えば二人だけだから隙はある。それこそ悪戯半分で何か一文字だけ書き足すのは可能だろう。ただしそんな事をすれば、絶対に俺たち二人の視界に入る。
「勘違いだったのかしら……」
「何が?」
俺が聞き返すと
「そうよ、きっと勘違いだったのよ。最初から『?』はあったのよ。そうよね、ロクロー」
俺への返答と言うよりは、自分に言い聞かせるように
「いや、無かったぞ! 確かに無かった!!
「見逃していたのよ! 気がつかなかった! そうでも考えないと辻褄が合わないわ!」
「最初から辻褄なんて合っていないんだ。この『学園』は!!」
「それは……」
「おい、何をするんだ!!」
俺は慌てて止めようとしたけど、
「こんなのがあるからいけないのよ! こんなのが無ければ、混乱する事もなかったのに!!」
あらかた消してから、
「えっと……。なんか……、その。御免。あたしも混乱していたかも知れない」
意外と素直に謝ってきた。
「でもこういう事は一人でやらないでね。二人以上でしっかりと確認してからやらないと意味ないし……」
「じゃあ、いままた何か書くか?」
俺がそう切り出すと、
「それはまた別の機会に。あたしも少し頭の中を整理したい……」
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