第九章「赤い気球」-016
しばし腕組みして考え込んでいた
「あぁ、いい事考えた。……貴方がやれば?」
「なにを?」
「そういうお悩み相談室みたいなの。話を聞いてあげるだけでもいいんじゃないの? 2800だって、貴方に話して事態が解決するとも思っていなかったでしょ。人間、誰かに話せば楽になる事だって有るのよ」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すんだ。こいつは。
「いや、俺はただの一般生徒だし。管理委員ですらないんだぞ。それに生徒のプライバシーにも関わってくる。特に女の子の話なんて聞けないぞ」
そう答えてから、はたと気がついた。
「そこまで言うんなら、
「なんであたしが……」
「だって管理委員じゃないか。それに女同士なら、男にも話せない事も相談できるんじゃねえの」
「管理委員はそれほど暇じゃ無いの! それにこの『学園』でしょ。家庭環境も私生活もあったもんじゃ無いわ。プライバシーに関わる悩みなんてあり得ないわよ」
「プライバシーが無くても、
「それは……」
ちょっと上目遣いに考えてから
「まぁ……。無いとは言えないわね」
え、なに。その反応。気になる。
しかし
「言って置くけど、教えないからね。人に聞かれたくない話なんだから」
あ~~、はいはい。そうでしょうねえ。
「とにかく! 生徒一人一人の悩みに付き合っていたら、管理委員がいくら居ても足りないわよ」
それはそうだけど……。うん? 管理委員が足りない?
俺がその事に考えを巡らせていると、
「まぁ、他の生徒の事情にはあんまり首を突っ込みすぎない事ね。心配してやっても、出来る事なんて限られているんだから」
まぁ、それもそうだな。
さて……、2800の事も気になるけど。いまの
俺に『管理委員にならないか』と話を振ってきた管理委員長の4761だけど。彼は管理委員の増員を目論んでいるんじゃないだろうか。
現在管理委員は10人と聞いている。確か
もっと全般的に生徒をケアする事を考えたら、10人では足りないのかも知れない。だとすれば増員を考えても良いはずだけど、問題は管理委員長とは言え、4761にそれを決定する権限があるかどうかだな。
ふむ……。
4761がどこに居るのかは分からないが、ちょっと捜して聞いてみても良いだろう。
俺は席を立った。
◆ ◆ ◆
「なかなか鋭いね。君の言う通りだ」
ある教室で授業を受けていた4761を見つけた。俺は授業を終えて教室から出てきた4761に、先ほどからの疑問をぶつけてみた。すると拍子抜けするくらいあっさりと肯定した。
「正直、手が足りない。この前、君たちが『学園』を脱出して、4882たちが追いかけて行った事があるだろう? あの時、管理委員は二人欠けた状態になった訳だが、仕事に支障が出たのは事実だ」
4882は俺が最初に管理委員会室へ行った時に、支給品の拳銃をいじくっていた管理委員だ。
「そこで副委員長の5865とも話し合ったのだけれど、増員できないだろうかという結論になったんだ」
なるほど。それは筋が通る。しかし問題は残っている。
「管理委員って、勝手に人数を増やせるんですか?」
「増やせるはずだ」
4761はあっさりと認めた。これは意外だ。俺は重ねて訊ねた。
「管理委員長にそう言う権限があると?」
「いや、分からん」
「……は?」
これまたあっさりとした返答だが、その内容に俺は戸惑った。
「いや、分からんて。管理委員会には規則とかそういうものがあるんじゃないですか?」
俺の問いに4761は苦笑した。
「君もまだこの『学園』にはなれていないんだな。この『学園』には明文化された規則なんてないだろう。せいぜい生徒手帳に書いてある事だけだ。そのどこを見ても『管理委員は10人である』とは書いていないんだ」
「それは……」
そこまで言いかけて、俺は胸ポケットから生徒手帳を取り出した。校則の記述はあるが、それは本当にどこにでもある学校のものだ。特別な事は書いていない。適当な高校の校則をコピペしてきたと言われても信じてしまいそうだ。
そして4761の言う通り『管理委員は10人である』は書いていない。管理委員に関する規則は『管理委員会を置く』『委員は生徒間の選挙で決める』『その他は必要となった時に「管理者」が判断する』等の項目だけだ。
「実の所、管理委員が10人というのも、以前からの慣例に過ぎないんだ。昔は11人、12人だった事も有るらしい」
4761はそう説明すると、一つ付け加えた。
「信じられないなら、美術閲覧室の魔女に訊けばいい」
『美術閲覧室の魔女』の魔女とは
「なにか問題があれば、11人目の選挙を公示した時点で『管理者』から何か言ってくるはずだ。止めろと言われれば止めるし。何も言われなければそのまま続ける。いや、君に迷惑はかけないよ。保証する」
いや、保証するといわれても……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます