第九章「赤い気球」-006
「それで
「そうね」
「よく当選したなあ」
思わず本音が口を突いて出る。やばい、これは怒られるか? そう思った時には遅かった。
「なによ、どういう意味?」
うん、そう来るだろうね。まぁ、いい。いきなり怒鳴りつけてこないという事は、
「だって……。
開き直るつもりが、微妙に腰砕けになってしまった。うん、みみっちいぞ。俺。しかし
「まぁ、それは分かっていたんだけどね。普段は『管理者』に目を付けられないように猫かぶっていたつもりだし。でもまぁ立候補する物好きは少ないし、出れば当選。信任投票みたいなものよ」
なるほど。立候補者がいないとさすがに選挙は成り立たない。それで4671は予め、俺に話を通しておいたという事だろうか。
「じゃあ『立候補
「まぁ、そうなるわね。だから4671に唆されて、うかつにOKしないように。うかつに当選したら、動きづらくなるわよ」
最後に
◆ ◆ ◆
「……やってみればいいだろう」
彼女はにべもなくそう言い放った。こっちはこっちで予想通りの結果だ。
そんなわけで俺は美術閲覧室へやってきた。他の人の意見を聞く為だ。そして相談している相手は言うまでも無い。
「いや、でも
俺がそう弁明すると
「なんだ、すっかり尻に敷かれているんだな」
「いや、別に尻に敷かれているわけでは……」
また別の弁明をする羽目になってしまった。
「なんでも経験だ。やってみればいい。
なるほど。管理委員でないと行けない場所もあるようだし、二人居れば選択肢が広がるのも事実だ。
いや、待て。そう言えば……。4671に聞いた方がいいのだろうが、わざわざ出向く程の事でも無いし。『学園』の主的存在の
俺は頭に浮かんだ、その疑問を
「ところで管理委員って、途中で止める事は出来るのかな?」
「ふむ、辞任したという話は聞いた事が無いな」
「管理委員が辞める時は大抵『卒業』だ。まぁ稀に素行不良、学業不振で解任される事もあったはずだが、稀だな」
「じゃあ、余計うかつには了承できないな」
4671の誘いに応じて立候補したら、そのまま管理委員就任。
しかし、待てよ。途中で辞める事が出来ない。辞める時は『卒業』という事は、近々、卒業する管理委員がいるという事か?
生徒が『卒業』するには、ちゃんと授業に出て星を集める必要がある。最初は星三つからスタート。大抵の生徒は星三つだし、俺や
管理委員の中にそろそろ『卒業』する生徒が居るなら、星が四つ、五つになっているはずだが、生憎と身分証明書に着いた星の数まではいちいち確認していない。もっとも管理委員長の4671ならそれは当然分かるわけだな。
「どうした? まだ迷ってるのか」
俺が黙り込んでいるので、
「いや、ちょっと考え事をしていた。有り難う、参考になったよ」
「私はやってみろと言ったが、最終的に決断するのは君自身だ。よく考えろ」
そう言うと
◆ ◆ ◆
「……なんだよ、それ。自慢? 自慢なのか!?」
教室で俺がそう話を振ると、3788はふてくされたようにそう言った。
「管理委員長から管理委員にならないかと誘われちゃったよ~~。いやぁ、オレ様優秀で困るな~~って自慢なのかよ!」
「自慢じゃねえよ!」
俺は真面目に話を聞かない3788に少し声を荒らげた。
敢えて言えば
消去法という名の、事実上二択で3788になったという次第だ。
「辞めた方がいいんじゃないの。面倒臭いぜ、きっと」
「だよなあ」
俺がそう答えると、3788は思い直したように続けた。
「あ、でも管理委員になれば拳銃が持てるんだろ? 格好いいじゃん、やれよ」
「どっちだよ!」
再び俺は大きな声を出してしまった。途端に叱責の声が飛んできた。
「その男子二人! 授業中よ、静かにしてちょうだい!!」
そうだ。今は授業中だったのだ。もっともこの『学園』には教師も居なければ、正確な時計も存在しない。教室が閉め切られているうちに、何者かが課題を用意したり、板書したりと準備をして、後は生徒が教室に入って勝手に授業を進める。
つまり自習時間がずっと続くようなものだ。当然、真面目にやる奴とやらない奴が出てくる。そして今の俺たちは、当然、前者だ。
「はいはい、分かりました。委員長!」
「委員長じゃ有りません! あだ名は禁止です。私は2800です!」
前の席から委員長が、そう言い返してきた。
そうだ。今し方俺たちに注意したのは委員長だ。俺がこの『学園』に来たばかり、教室に初めて入った時に声をかけてきた女子生徒だ。
三つ編みお下げと真面目そうな外見から、俺は何となく心の中で委員長というあだ名を付けていたが、その印象は他の生徒も同じだったらしい。
3788や他の生徒も、2800を委員長と呼んでいたらしい。でもまぁ、校則であだ名は禁止とあるのでおおっぴらには使えない。使うとしても、今のように冗談半分でだ。
ぶつくさと言いながら委員長は、また課題に戻ってしまった。
「最近、機嫌悪いんだよなあ。委員長。成績が落ちて苛ついてるんだ」
3788はそうつぶやいた。
「そうなのか? 真面目そうに見えるんだけどな」
現に今も真面目に課題へ取り組んでいる。ちなみに今は数学の授業中だ。
「星が二つになってしばらく経っているのに、なかなか星三つに戻らないらしいんだ。まあこの『学園』の成績は、どう判断しているのかいまいち分からない所有るしな。何もかも『管理者』の胸先三寸だ」
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